「本物」のグッドモーニング
疲れた…何も感も疲れた…
あいつらは仕事が終わったあとなのに、なんであんなに元気なんだ…
明日も朝から重労働だ。
僕は沙織達の会議が終わると、真っ直ぐ家に帰ってそのまま眠り込んだ。
もう瞬殺だった。
こと切れるれるかのように、僕の意識は完全に飛んだ。
「…くん…差身君…差身君…」
何だか遠くから僕を呼ぶ声が聞こえてきたような気がした…
あれ…聞いたことのある声だな…
そうだ…昨日沙織の家から帰ってきて、すぐ寝ちゃったんだっけ…
あれ?
僕はぼんやりとした夢と現実の間から、一気に目を覚ました。
朝だ!!カーテン越しに光が差し込んでいる。
おかしいな?今、誰かいたような気がしたんだけど…
「差身君?」
その時、僕の後ろからはっきりと声がした。
「うわああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
振り返るとそこには天使が突っ立っていた。
何の感情もこもっていないような様子で、じっと僕を静かに見ていた。
「差身君、早く工場に行こう」
おい!!おまえもか!!!!おまえも僕の部屋に出入り自由なのか?????
沙織、出入り自由。
清城京、比較的自由。未遂多数。
かなっち、まだ。
そして、天使!!!!おまえ!ついに僕の部屋に入ってきたな!!!!
どうやってる?どうやって入ってきてるんだ!!!!
「天使!!!!!おまえも僕の家に入ってくることができるのか???」
思わず少し声を荒らげてしまったが、天使は平然と僕の部屋の片隅に佇んでいた。
「知らなかったの?私、時々、差身君の部屋に入ってる。沙織は自由に入って良いと言っていた」
あまりにも平然とした様子でそう語る天使。
また、沙織の話を鵜呑みにしてしまったんだな…
駄目なんだよ…いくら仲が良くても、やっちゃいけない一線があると思うんだ…
それより何してるんだ…
勝手に人の部屋に入り込んで何してるんだ!!!!!!
「いや、天使…できたら連絡してから遊びに来て欲しいんだ…」
駄目だ、心が久々に壊れそうだ…
天使、分かってくれ…
僕はそう願いながら、なるべくゆっくりとそう伝えた。
「分かった。サプライズ以外はこれからLINEで送ってから来る」
いや…サプライズでも部屋に勝手に入ってきて欲しくないんだ…
でも仕方がない…「本物」をコントロールすることなどできるわけがないのだ…
1つ1つできるところから詰めていくしかない…
「天使は工場に行くのが楽しみなのか?」
僕がベッドに腰掛けそう聞くと天使はうんと頷いた。
「うん、私、楽しみ。もっと効率良く仕事ができる方法を考えた。みんなに教える。だから、早く行こう」
天使は僕の袖をクイッと引っ張った。
まだ、時間には早いけど、工場の方まで散歩がてら行ってみるか。
僕は用意をすると天使と一緒に工場へ向かった。
それから日曜日を除いて、毎日工場で働いた。
最初死にそうになってやっていた作業も4~5日もするとだいぶ慣れてきた。
時間がかかっていた砂糖運びも、篠宮隊長が言うように10分位でできるようになった。
少しは役に立ってるようになってきたのだ。
それが嬉しくって、もっと頑張りたいと思うようになってきた。
あの「本物」達もだんだん慣れてきたようで、周りの人達とも仲良くやれているようだ。
篠宮隊長も僕の仕事が安定していくにつれ、特に何も言わなくなってきた。
何が「デレ炸裂」だよ。
全て「本物」達の思い過ごしだったのだ。
そんなことより仕事に対しての自信が増してきて、工場に行くのも最初より楽しくなっていた。
そんなある日。篠宮隊長が仕事前に話しかけてきた。
「差身、だいぶ慣れてきたな。新しい仕事を教えるから、今日は1日健二さんについてとけ」
篠宮隊長は相変わらず厳しい目線で僕を見ていた。
一体どこにデレる要素があるというのだろうか。
「はい、分かりました」
僕がそう答えると、篠宮隊長は1つ頷いた。
「頼むぞ。しっかりやってくれ」
篠宮隊長は踵を返しカツカツとどこかに向かって歩いて行った。