第7話 はじめてのたたかい《前編》
さあ、冒険の始まりだ!(バッ●風に)
……なんて、テンションを上げて居られたのも最初の内だけだった。俺とユリーシャは、最初の内は和気藹々とした雰囲気で道中を楽しみつつ歩いていた。しかし、今となってはどちらの口も重い。
俺の体は三大欲求とは無縁だが、それでも喋り疲れたりぐらいはする。勿論、俺を首に掛けて運んでくれてるユリーシャの方が疲れてるのは分かっているんだが、そのユリーシャも今はちょっと喋るのも億劫そうだ。
俺を3日で見付けてくれたユリーシャが、まさかこんな事になるなんて誰が想像出来ただろうか。しかも今の今まで本人にも全く自覚が無かったのが恐ろしい。
「まさか、ユリーシャがこの世界の地理を全く知らないだなんて……っ!」
いや、俺も知らんから人の事は言えんのだけど。
つーか俺も地理は苦手だったから何も言えん。日本の47都道府県の正確な位置なんて北海道と青森と沖縄以外は自信が無いし、そもそも47個全部言う自信も無い。
まあ、そんな事はともかく現在、我々は初めて出会った辺りの場所に来ているのだが、そこでいきなり立ち往生しているのだった。
「なあユリーシャ──」
「嫌だよ! 出発してたった3時間でUターンなんて恥ずかし過ぎるよぉ……」
このやり取りも何度目になるだろうか、俺が一旦デビルスブルクに戻る事を提案しても頑としてこの調子である。
俺は家の人達にさえバレなきゃいいんじゃないかと思ったんだが、ユリーシャが言うにはどうもそういう訳にも行かないらしい。便利マントの所為で左右が見辛くて気付かなかったんだが、どうも今回の服装は街中でもかなり目立っていたらしい。
うん、そりゃあとても可愛かったからね。しかもあそこまで本格的な戦闘用の服を着て歩いているような人はほとんど見掛けなかったし、確かに目立つか。
「1つぐらい他の町の場所は知らないのか?」
「知らない。デビルスブルクの中で充分何でも揃ってたし、他の所に行く必要なんて今まで無かったもん。デビルスブルクの事なら“四神柱”の防衛機構から魔王様の宮殿の内部構造まで大体知ってるんだけど……」
いや、自分の国の事だけ詳し過ぎでしょこの娘。てかそれもう国家機密レベルなんじゃね?
しかし困ったな……一旦戻るのが最善手だとは思うんだが、俺はあくまで提案しか出来ない身の上だし、何か次善策は……そういえばあのソナーを撃った時、他の方角にも反応があったな。丁度ここはあの時ソナーを撃った場所とそんなにズレてないみたいだし、言ってみる価値はあるかな?
「俺が前にソナーを撃った時、デビルスブルクの方角以外にも2箇所で反応があったんだけど、どっちかに行ってみるか?」
「……うん。どの辺で反応したの?」
「ここから北北東に7kmぐらいの森らしき所に反応が50ぐらいなのと、南東に3kmぐらいの洞窟っぽい所で反応が300ぐらいあったハズだ」
「──じゃあ、洞窟にしましょうオリハルさん。数も多いみたいだし、何よりそっちの方が近いし」
ユリーシャは結構早くに決断した。
今までの生活を知らないからユリーシャの体力がどのぐらいあるのかも分からないんだけど、家を出てからあっちへふらふら、こっちへふらふらと3時間ぐらい歩き通しだ。前世の基準で考えれば女の子はおろか男である俺だって音を上げるぐらいの時間だ。
初日から限界まで歩き続けたら旅を止めたくなっちゃうかもしれないし、初日は洞窟で休む方針で行こう。
「了解。じゃあ、今日はもうそこで休もう。食料も調達出来るといいんだけど……」
「オリハルさん? 食料ならマントの中に1ヶ月分ぐらいあるよ? マントの中なら腐らないし、安全だよ?」
「だったら余計にだよユリーシャ。いつ食料が手に入らない環境に置かれるか分からないんだから、手に入る時はそこで調達しておかないと。むしろ旅が終わるまで全く使わずに済ませるぐらいのつもりでいた方がいい」
「………………」
「勿論、俺が食事をする訳じゃないから、決めるのはユリーシャなんだけど……って、どうした?」
「へっ? あ、ううん、何でもない! じゃあ頑張って食料集めてみるね」
何を呆けていたのかはよく分からなかったが、ユリーシャは気を取り直して俺に返事を返すと南東に向かって歩き始めた。
……ひょっとして、食料の確保に関する俺の考え方に感心してた、とか? そんな事で感心してくれるとはホントにこの娘は可愛い奴じゃのう。
……どうでもいいけど、今の俺はこんな体で表情も無いから前世では恥ずかしくて言えなかったような台詞が比較的あっさり言えてるだけだからね? 前世では面と向かって女の子に可愛いだなんて全く言った事無いからね? ……だから前世は彼女の1人も居なかったんだろうか。
「……ねえ、オリハルさん?」
「何でございましょう、ユリーシャお嬢様?」
「オリハルさんが撃ったソナーって、生き物の数を数えただけなんだよね?」
「そうですな。今の私めの能力ではどんな生物なのかという部分は全く把握出来ていないのが実情でございます」
「うん、半径5km以上のソナーなんて物凄い範囲だからそれはしょうがないとは思うんだけどね?」
「いえ、私めの力不足で誠に申し訳ありません」
標高数百m程の山の麓にある洞窟に辿り着いた俺達。その大きさは丁度前世の高速道路とかにある2車線のトンネルぐらいだ。勿論この洞窟は天然モノみたいなのでそんなに足場の良くない鍾乳洞になっていたが。
そこで俺はクラウスさんばりの敬語でユリーシャとの会話を何とか成立させている……というここまでの会話で大体察しがついた事と思うが、俺が案内した洞窟に居た生物は、普通の生物では無かった。
「オリハルさん、あの生物は何だと思います?」
「いやホントに申し訳無い」
「質問に答えて下さい」
「うっ……あれは多分、獣魔族とかそういうのじゃないでしょうか。しかも話が通じないタイプの」
「そうですよ。全く、なんて所に案内してくれたんですかオリハルさんったら……」
獣人族という萌えの代表格の獣耳と尻尾のアレではなく、獣魔族。様々な種の獣がそのまま二足歩行をするようになった方のタイプだ。犬や猫みたいなのからイタチやスカンクみたいなのまで揃っていらっしゃる。
しかも国民的RPGに出て来るアレのように好戦的な表情でこちらを囲んでいる。時々聞こえて来る唸り声が恐い。
いや、多分こちらの不手際だとは思う。何も知らずに洞窟に突っ込んだらこいつらの縄張りだったらしいんだ。だけど、失礼しました〜ってあっさり退散出来る雰囲気でも無い。こちらを囲んでいる数は大体30といった所か。ユリーシャの実力も分からないまま戦うのは危な過ぎる数だけど……。
ちなみにこれだけユリーシャと話したり考えたり出来ているのは、ユリーシャがバスケットボールぐらいの大きさの火の玉を5つ同時に目の前に展開して牽制してくれている為だ。昨日の水鏡の時も思ったけど、この魔法もさり気に高等技術のような気がする。
「──どうしよう? 勝手に入ったこっちが悪いから気が引けちゃうんだけど、殺してもいいなら何とかなると思う」
「……いや、ユリーシャの気が引けてるなら今回は何とか撤退しよう。残りの270も全部こいつらかもしんないしな。ユリーシャ、その魔法を維持したまま退がれるか?」
「うん、大丈夫」
ユリーシャはそう言うと、本当に平気そうに火の玉を維持したまま退がり始めた。俺が同じ事をしようと思ったら、数秒で魔力が尽きるぞ。
ユリーシャには一体今の俺の何倍の魔力があるってんだ? いや、それとも何かからくりがあるのか? 魔力を消費せずに魔法を維持する方法みたいなのが。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。今はこの場を上手く脱出する事だけを──
『……に……るの……?』
「……っ!? 今のは──」
「多分通信の魔法です! わたしは手が放せないのでオリハルさんに任せます!」
もう後100mぐらいで洞窟から脱出出来ると思った所で、突然何者かから通信の魔法──いわゆる1つのテレパシーって奴か──が飛んで来た。
にしてもこのタイミングで飛んで来るって事は、まさか──
嫌な予感がしたが、俺はとりあえず聞き逃さないように相手の声に集中した。
『誰かそこに居るのか?』
「ああ、今リカントの集団に囲まれてて逃げるのに忙しくてそんなに暇じゃないんだがな」
『それはすまない。だが、逃げるならついでに助けを呼んで来てはくれないか?』
「どういう事だ? 説明してくれれば協力してもいい」
『それは助かる。実はこの洞窟は──』
相手の話を全面的に信じて要約すると、この洞窟は元々この声の主が住んでいた所で、3日程前に突然リカント達が東の森から大群で押し寄せて来たらしい。
普段ならその程度は何とでもなるらしいが、今は時期が悪くて追い詰められており、後1日持つかどうかといった所だそうだ。そんな時に、襲って来た連中の一部が減ったので誰かが通りすがったのではないかと思ったんだそうだ。
そして助けを求めに行くのに指定されたのが、デビルスブルクではなく洞窟から北に10km程行った所の森の中にある集落に居るらしいエルフ達だ。声の主は普段は彼等の集落で用心棒的な事をして過ごしており、エルフ達からは何かあったらいつでも呼んで欲しいと言われていたそうだ。
まさか帰って1週間足らずですぐ呼ぶ事になるとは全く思っていなかったそうだが。
『──通りすがりのキミ達に頼むのは心苦しい限りだが、どうか頼めないだろうか?』
「達? 俺達が複数なのが解るのか?」
『通信の魔法を使った事が無いのかい? 相手が分からないと通信出来ないんだから解って当然じゃないか。まあ、繋ぐ時に判ったんだけど』
「そういうもんか。分かった、少し待っててくれ」
──さて、選択肢が増えちまったな。どうしようか。
1つは、最初の方針通りこのまま逃げてしまう。どう考えてもこれが1番安全な選択だろう。別に、頼みを聞く義理も無いし。だが、これから世界を救おうだなんて考えている奴がいきなり困った奴を見捨てるなんてのは意志に反するな。
もう1つは、逃げるのは変わらないが北に行って頼まれた通りにエルフ達に救援を頼みに行く事が考えられるが、これには若干の不安がある。まずは、俺達がエルフ達に信用されるかどうかという点。俺の勝手なイメージであって欲しいが、どうもエルフは排他的な印象がある。次に、呼ばれて来たエルフ達がリカント達に勝てるのかという点。多分1人であろう声の主に護ってもらっているような連中が、果たしてリカント軍団に勝てるのだろうか? 確か北の反応は50ぐらいしか無かったハズ。勿論ソナーに当たらなかった奴も居るんだろうが、それだけの数でリカント達を倒せるのか? しかも全員が来る訳じゃ無いだろうし……。
どうする? まだもう1つ選択肢があるけど、これは──
「ユリーシャ──」
「わたしなら大丈夫。その人を助ければいいのよね?」
「全部で何体居るか分からないけど、全部倒す自信があるのかユリーシャ?」
「リカントは魔法に弱いから、近寄らせなければ1000匹ぐらいまでなら多分倒せるわ」
1000匹とか何の気なしに言ってのけるユリーシャさんマジパネェっス。
ただ、近寄らせなければっていう条件付きでの話だから、既に距離がかなり近い現状では微妙な所かもしれない。どうしようか。でも、リカントごときにビビってたらこの先やっていけないと考える事も出来る、か……。
「ユリーシャは、剣は全く使えないのか? この距離では俺が弓や杖になっても役に立てないと思うんだけど……」
「ううん、全くって訳じゃないよ。学校では10番以内には入ってたけど、ベル兄さんと組手をするといつも数秒しか持たないから……」
よし、ベルなんとかとやらめ、いつか会う事があったら絶対文句言ってやる。お前の所為で俺は武器屋に売り飛ばされそうになったんだってな。
……まあいい、とにかく全く使えない訳じゃないなら俺が剣になる意味はあるだろう。
「じゃあユリーシャ。俺は剣になるから、その魔法をぶっ放したら俺に少し魔力を流してくれ。どんな剣がいい?」
「う〜ん……わたしはあまり力が無いから、軽いのがいいかな」
「軽い奴か……分かった。それじゃあ、戦い始めるタイミングはユリーシャに任せる」
さて、何になろうか。軽い剣と云えば俺は真っ先にドラ●エで2回攻撃が出来る隼の剣が思い浮かぶが、残念ながら材質が分からん。材質の名前だけでも判れば、多分俺のチート能力その1の『材質変化』で造れると思うんだけど……。
「じゃあ行きますよオリハルさん! ──ファイアボール」
うおっ!? ユリーシャってばもう始めちゃったよ! まだ何になるか決まってねえよ! 確かにいつでも良さそうな言い方はしちゃったけど……よし、決めた! 上手く行ったら俺の出番は無いかもしれないし、魔力も勿体無いから材質は変えずに『形状変化』の能力だけを使って短めの片手剣にしよう。
俺がそんな決意を固める間に、直径30cmぐらいの5つの火の玉は猛然とリカント達に襲い掛かっていた。流石に棒立ちで喰らう程リカント達もバカでは無いらしく、飛び退いたり伏せたりして回避を試みる。
「──破裂!」
しかし、1000匹倒せると豪語したユリーシャの方が一枚上手だった。散開し始めていたリカント達を追うかのように火の玉が破裂した。破裂した火の玉は1つ1つがビー玉ぐらいの大きさになり、散弾となってリカント達を撃ち抜いた。
そしてその瞬間にユリーシャは素早く俺に魔力を流す。特に打ち合わせた訳じゃないんだけど、前回ペンダントになった時の5倍近い量を流してくれた。
ならこっちも余計な事は考えず、すぐに『形状変化』開始。
……クリスタルを増やす方が魔力の消費が少ないな。だったらまずは柄から剣の芯までをミスリルで生成して、簡単な装飾と刃の部分はクリスタルで形成。後はミスリルを追加して柄の部分から使用者の手を守るアレも作って完成だ。アレの部分の名前は分からんが、この『形状変化』の能力では『材質変化』と違って形さえ想像出来ればいいから問題無い。
ちなみに使用した魔力は最初に考えた単位に直して15万ぐらい。刃渡り60cmぐらいの短めの剣にしたからか、貰った魔力は5万ぐらい余ったので一旦集めるのを止めて一気に吸収した。これで俺自身に溜めてある魔力は約10万。そして、この洞窟の魔力濃度はデビルスブルクよりも濃いので今の限界の23倍速で収集中である。
『おいおい、まさかキミ達だけで私を助けるつもりか?』
「なんだ、俺達の話が聞こえてた訳じゃないのか。ああそうだ。エルフ達の所に行って話をする時間が惜しい。俺達だけでリカントを追い払ってみせるさ」
『……恩に着る。だが気を付けろよ、リカントは魔法に弱いがそのじょ──』
「え? 悪いが途切れた! もう1回言ってくれ……ダメだ、どうも通信魔法自体が切れたみたいだ」
ちくしょう嫌な途切れ方しやがって! こういうのが後で重要情報だったとかで苦戦の元になるってのに! 一体何て言ったんだあいつ、じょ……情報? その情報には裏がある、とか? ダメだ、これ以上は予想出来そうにないな。
まあ、ユリーシャの散弾銃さながらな魔法で撃ち抜かれたこの場のリカント達の半数は戦闘不能になっていたし、この勢いのまま全滅させるまで戦るしかない。不測の事態が発生した時には、俺が残している魔力で何とかしよう。それまでは申し訳無いけどユリーシャの実力を見学だな。
残りの約15匹のリカントは倒れた仲間の事は眼中に無いのか、真っ直ぐこちらに走って来る。やはり獣系なだけあって速い!
「ムーブストーン──加速!」
だがユリーシャは右手に俺を持ったまま、左手だけで次の魔法を放つ。
先の火の玉でリカント達を撃ち抜いた時に、リカント達に当たらなかった奴が洞窟の壁の一部を崩しており、それで出来た瓦礫を魔法で浮かせたまま自分の前方に展開。
そして左手で目の前を薙ぎ払うような仕草をした瞬間、瓦礫が一気に加速して残りのリカント達を吹き飛ばした。瓦礫の速度は先程の火の玉の倍以上は出てたと思う。リカント達には避ける暇も無かったようだ。
「本当は全部確実に倒しておきたいけど、まずは突破して通信魔法の声の主に合流しよう。ついさっきまで歩き通しだったけど、走れるかユリーシャ?」
「うん、まだ全然平気だよ」
ここまで歩き通しで、前世の一般人ならもう走るどころか歩きたくもない状態になってそうだが、やはりこの世界の人は鍛え方が違うのかな? 悪魔の血が混ざってるからかな? それとも、もっと単純に非常事態だからかもしれんけど。
「……様子を見に来てたリカント達がやられた事に気付いたみたい、次が向かって来てる」
倒れているリカント達の山を少し通り過ぎた辺りでリカント軍団の第二陣に出くわした。
色々派手にやったからバレるのは当たり前だとは思うが、やはりさっきの連中はただの偵察か。顔ぶれは変わらないみたいだが数が多い。さっきが約30匹ぐらいだったが、今度は100匹ぐらいは居そうだ。
さてユリーシャはどうする? さっきのパターンでの攻撃だと多分距離が足りなくなるぞ。俺が魔力を使うなら今か?
「1度にこれだけの数が相手だと……しょうがない。オリハルさん、少し大きい魔法を使います! 発動するまで後ろのリカントが起き上がって来ないかどうか見てて下さい!」
いや、どうもまだその時では無いみたいだ。俺は後ろを見張っていればいいらしい。
「来たれ火の精、風の精よ! 我が契約に従い、豪火渦巻く暴風となりて彼方の敵を討ち滅ぼさんとせよ! ──フレイムテンペスト!」
うん、後ろの連中の中には生きてる奴も居るが、立ち上がって来る事は出来そうに無いな……ってうおっ!? ユリーシャが詠唱した! アレか、強い魔法になると詠唱が必要になるとかそういう感じか?
その詠唱に驚いて視点を戻して見ると、そこは惨劇と言ってもいい程の状態と化していた。彼女が放ったのは炎の竜巻を横倒しにしたような魔法で、イメージとしては獣●会心撃に炎を加えた上で規模を洞窟の大きさ一杯に拡大したような感じ。それが避ける場所も無い洞窟内で荒れ狂い、リカント達を1匹残らず焼き尽くしていた。さっきの魔法より明らかに上位の魔法なだけあって、リカント達は即死だろう。
しかし流石は悪魔。いくら相手が魔物で侵略者とはいえ全く容赦しないぜ。いや、容赦してたら接近を許してこっちが殺されるかもしれないんだから対応は何も間違ってないんだけど。
「す、凄いなユリーシャ。つーかあんなの使って魔力は大丈夫なのか?」
「うん、まだ大丈夫。今の魔法なら後2回ぐらいは撃てるよ」
「あ、ああ、そうスか」
あんなのを3回も撃てるとか、やっぱり学校ではぶっちぎりの1位だったんだろうか。決して魔力の量が絶対的な成績の差では無いんだろうけどそう思ってしまう。
俺の見立てでは、今溜めてる魔力では到底再現出来そうに無い程の魔法だった。っていうか今の俺のやり方では、全部再現しようと思ったら最初にやった火の玉を出して留めてから攻撃するまでの間だけで魔力が3百万ぐらい要りそうだ。1度ユリーシャにちゃんと教えてもらわないとダメだな。……これでもし何のからくりも無かったらユリーシャの魔力が俺の適当な概算で1億ぐらいある事になっちまうな。
いや、元々俺が適当に作った単位とはいえ億って。
「……この奥は開けた場所になってそうですね。って何、この音……?」
「何かが弾ける音? いや、まさか……電気?」
さっきのでひょっとしたら全部倒しちゃったんだろうか、しばらくの間敵とは全く遭遇しなかった。
だが、通路の奥に大きく開けた場所が見えて来た頃、その奥から断続的に破裂音のようなモノが聞こえ始めた。声にも出したがスパーク音のようにも聞こえる。……一体何の音だ?
その答えは、開けた場所に出た途端に判明した。
「全く、つくづく計算外の事が起こるな。老衰で弱った化け物には部下を半分以上倒され、残った部下もまさかこんな小娘に全滅させられるとは」
目の前に居たのは、虎をベースにしたようなリカント。意外にも言葉を話している上に、軽装だが鎧や鉤爪まで装備している。ユリーシャが倒したリカントを“部下”と呼んでいるだけに、こいつがボスなんだろう。体も先程までの連中より二回りぐらい大きい。
だが、音を出していたのはこいつじゃない。その後ろに居る奴だ。その周りには夥しい程のリカントの死体が積み上げられている。という事は──
「早いな、まさかこれ程の実力者が私の死に目に通り掛かったとは。私の運命に感謝せねばな」
俺達に助けを求めて来たのはこいつだろう。一言では形容しづらい帯電状態の生物が電気をバリアのように張り巡らせ、俺達の到着を喜んでいた──。