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第4話 悪魔でお嬢様だった

 今の気持ちを表現するとしたら、発見した第一村人がそのまま超重要人物でした〜みたいな、そんな時の気持ち。

 つまり驚いたって事さね。目の前にかなりデカイ屋敷があって、そこに住んでるんです〜なんて初めて会った娘に言われちゃったら、そりゃあね。

 語彙表現に乏しい俺が視点を務めていて申し訳無いとは思うんだが、目の前の屋敷は……そうだな、まずはその大きさだ。大体……公立の小学校の半分ぐらいの大きさって所だろうか。具体的には、横幅30mの高さ10mぐらい。

 造りはよくある赤茶色ではなく、白いけど多分レンガ。色の違いはどうやって出してるんだろう? 染めてるだけだろうか。レンガ自体何で出来てるかは知らないけれど。

 あ、ちなみにミスリルやクリスタルになった時は能力に全て任せていたので、不思議な事だが自分が造ってる所を第三者的な視点で観てるような感覚だった。造ってる所を観てて初めて造り方を知るというね。製造方法も知らない想像した素材をそのまま再現出来るとか、この『材質変化』の能力も正直かなりのチートと言わざるを得ないな。

 だから、レンガになろうとすれば何で出来てるかも判るとは思うんだけど、しばらく今の姿から変わる気は無いから調べるのは無理だな。

 屋根は木だな。こっちは黒い。これは間違い無く染めてるだろう。所々に白いラインが入っている。やはり雨に備えてだろうか、ちゃんと雨樋(あまどい)もある。その先を目線で辿ってみると、どこかで垂れ流してる訳では無くそのまま地下へとパイプが消えていた。直接用水路へ流しているんだろうか。

 ガラスの窓もある。枠は何で出来てるんだろう? 木じゃなさそうな感じだけど、金属っぽくもない。まあ、全部が全部俺の解る材質で出来てる訳じゃないだろうしな。

 ……そんな訳でこんなぐらいで勘弁して下さい。



「結構な処にお住まいですね、お嬢様」

「ふふっ、いいところでしょ?」

「ええ、中も楽しみです」



 ……あ、しまった。これ内装もちゃんと見なきゃいかん流れだこれ。

 そんな事を考えてる内に玄関に辿り着いた。扉自体の大きさは……そうだな、 前世でいうとコンビニの入り口ぐらいか。更に両脇に木の枠に菱形のガラスがいくつもちりばめられた装飾があって、それなりに豪華だ。



「……ところでユリーシャ」

「何? どうしたの?」

「家の人には俺の事って……」

「ちゃんと説明するつもりだよ。それとも、オリハルさんの事って秘密の方がいい?」

「……いや、話した方がいいと思う。秘密だと家の中でキミとも喋りにくくなっちゃうしね」



 喋るペンダントっていう存在が受け入れられるかは判断出来ないけど、もっと色々と情報が欲しいし、話せる相手は多いに越したことはない。

 ちなみに、正確な時間は分からないが、現在の時刻は日が大分傾いて来ているので午後の3時から4時の間ぐらいといった所だろうか。このぐらいの時間なら家の人も何人かは居るだろうし、親とかが居れば改めてこの世界の事を訊く機会も作れそうな気がする。

 俺は自分の事をきちんと話す方向でユリーシャと方針を決めると、扉を開けてもらった。



「ただい「姉さんおかえり!」──ってきゃあ! もう、急に飛び付かないでよ」

「ここんとこ帰りが遅いから心配したんだよ、姉さん。今日は早かったって事は、ひょっとして変なソナーを撃ったとかいう奴を見つけたの?」



 扉を開けた瞬間、凄い勢いで少年が飛び付いて来てマジでビビった。

 少年の背はまだユリーシャより頭1つ分ぐらい下で、会話を思い出すまでもなく弟なんだろうなと解る。

 少しユリーシャよりも目付きが鋭いが、顔立ちもよく似ている。男なら少し鋭いぐらいの方がいいだろうし、将来は間違い無くイケメンになるだろう。今の歳は12ぐらいかな?

 それよりも、あまり気にしてなかったんだけどソナーを飛ばしてから3日間の間、どうやらユリーシャはずっと俺の事を探していたらしい。そりゃあ、よく考えたらそうか、ソナーを飛ばして来た方角と大体の距離ぐらいしか分かんなかっただろうしな。むしろ街中を歩いても方向感覚を失わず、1回しか飛ばさなかったソナーの位置を僅か3日間で100m程度の誤差でほぼ特定してみせたユリーシャさんマジパネェっス。



「ええ、見つかったわ」

「え!? 姉さんは本当に凄いや! 全く気付かなかった母さんや僕はともかく、父さんでも自信無さそうにしてたのに!」

「あはは、ベル兄さんならきっと1日で見付けたでしょうけどね。それにわたしの場合、近くまで行ったら2回もソナーを飛ばして貰ったからね。アレが無かったら多分今夜も遅くなってたわ」

「……それで、姉さん? その変なソナーを撃ったのはどんな奴だったんです?」

「貴方の目の前に居るわよ、ゼブ」

「へ? どういう事? ……って、まさか!?」



 おっ、もしやお姉ちゃんの格好が行きと帰りで違っていて、ペンダントが増えてる事に気付いたのか? だとしたら中々やるじゃないか、ゼブとやら。探偵になれるぞ。



「姉さんが自分で飛ばしたんですか?」

「何でそうなるのよ……」



 いや、何言ってんだこいつ。体があったら盛大にずっこけてるトコだよ! 命拾いしたな!(意味不明)



「そうだぞ少年! 自分で飛ばしたソナーの出どころを探して3日も歩き回ってたなんてオチだったらキミの姉さんはただのアホではないか!」

「うわぁっ! だ、誰!? 姉さんをバカにするな!」

「いや、バカにしたのはお前だろ」

「え!? ぼ、僕が姉さんを……? う、うわあああああっ! ご、ごめんなさい姉さん! お願いだから火炙りだけは止めて下さい!」

「え? ユリーシャ、普段弟にそんな事してんの?」

「ちょっ!? ゼブはちょっと黙ってなさい! ち、違いますからねオリハルさん! それは昔、炎の魔法を練習してる時にちょっと失敗しちゃっただけで……っ!」



 あれか!? おしおきタイムで「いっけな〜い、うっかり弟を火炙りにしちゃった☆しっぱいしっぱい、テヘペロ☆」みたいなノリでやっちゃうのか!? この娘は本当に時々恐ろしい事をするな。

 ……真面目に考えると、昔本当に失敗してやらかして、それからは弟が何かする度に脅しに使ってるとかそんなトコじゃないだろうか。…………だよね?

 しかし、脅しに使えるぐらいだし、どちらにせよゼブの深刻なトラウマとかにはなってなさそうで何よりだ。

 後、さっきはスルーしたけどお兄ちゃんも居るのか。しかもユリーシャ以上の才能がありそうな言い方……後で敵で出て来るフラグかもしれんから覚えておいた方がいいかな? ……って、何言っとんだ俺。



「──紹介します。今はペンダントの姿をしてるけど、元人間のオリハル・コンノさんよ」

「我が30年生きた偉大なる魔法使い兼ペンダントのオリハル・コンノだ。宜しくな、ゼブとやら」



 偉大なる魔法使いってのはアレね。30年アレだとっていうアレね。チートな能力で魔法を使っといて魔法使いを名乗るのはちょっとアレだけど、ね。



「は、はい、よろしくお願いします、オリハルさん。僕はゼブルディア・デビローネ、12歳です。もう呼んでくれてますけど、ゼブって呼んで下さい」

「うむ、苦しゅうないぞ、ゼブよ」

「わたしの時もそうだったけど、何でオリハルさんは初対面の人に対してそういう変な話し方をするのよ……」

「いや、こんな姿なので少しでも対等に扱ってもらいたいな〜なんて思ってたりしましてね?」

「いえ、あんな高レベルのソナーを飛ばせるんですから、オリハルさんが凄い人なのはちゃんと分かってますよ?」

「そうですよ! 魔王様直属の近衛師団長の父さんですら確信が持てない程のソナーを撃てるなんて、本当に凄いや!」

「もう、ゼブったら。あのソナーが飛んで来た時、パパは寝てたのよ? しかもオリハルさんのソナーが直接当たった訳じゃないし」



 え? 待て、待て待て、今何つった? こいつらの父が魔王の近衛師団長、だと? 俺ってば冗談抜きで重要人物の所に潜り込んじゃったんじゃないの?

 いや、待て。俺は訓練されたオタク野郎だ。魔王=敵とは限らないのは熟知しているハズだ。大体魔王って単語1つでも意味が違ったりするしな。その年の魔法の大会で優勝した奴の事を示したりとか、国1つ平和に治めてるだけだったりとかな。

 つーか凄いソナーのハズなのに、寝てた上に直接当たった訳じゃないソナーに気付くとかお前達の父ちゃん化け物じゃね?



「お前等、俺を誉めようとしてるのか、そう見せ掛けて父ちゃんを自慢してんのかどっちだ?」

「え? どっちも凄いよ! ねえ、姉さん?」

「そうね、わたしはどっちかっていうとパパが凄いかな?」

「ですよね〜。ってか俺も正直お前等の父ちゃんの方が凄いと思うし」



 ふ、ふんだ! 今はこのぐらいで勘弁しといてやろう! 次は同じ密度でサイレントソナーで勝負してやるからな! ……何しにするのかよく分かりませんね、止めときます。

 というか、よくよく考えてみればあのソナーは存在をアピールする為に撃ったモノなので、そんな凄い奴にしか気付いてもらえない時点で完全にダメダメじゃね? この分だと、山の洞窟と森の集落の連中もほとんどの奴が気付かなかったんだろうな。……あっちの連中に拾われてたら今頃どうなってたんだろうな。今さら気にしてもしょうがないんだけど。



「……皆様、そろそろ中へとご案内させて頂きたいのですが、宜しいですかな?」

「あ、はい、そうね。ゼブ、入りましょう」

「はい、ごめんなさい。ずっと玄関で立ち話をしてしまって」



 執事キタ──(゜∀゜)──!!

 燕尾服と片眼鏡(モノクル)と白い手袋、ついでに二振りのレイピアを装備し、見るからに洗練されたそつのない物腰は、執事としての練度が非常に高い事を伺わせる。

 だが雰囲気から断言してもいい。多分この人も普通の人間ではない。別に髪の色に緑と銀が混ざっているからとかそういう事ではないんだけど、何となくそう思わせる何かがある。……ただこの街でまだ人間を見掛けてないので人間は居ないと決め付けちゃってるだけかもしれんけど。

 銀髪混じりの緑髪で眼の色も緑。髪型は執事らしくオールバックで、年齢は人間に当てはめて考えるなら恐らく70歳前後。身長は結構高い。180cm前後はありそうだ。あ、よく見たら耳が少し尖ってる。やっぱり人間じゃないなこの人も。



「オリハル様と仰いましたかな? 申し遅れましたが、私はこのデビローネ家で執事を務めさせて戴いております、名をクラウス・ドランザードと申します。お見知りおきを」

「いえいえ、こんな姿にも関わらず客人として接して下さり誠にかたじけない」

「あのようなソナーを放てる程の方がそのような御姿なのです、余程の事情がおありなのでしょう。この屋敷ではユリーシャお嬢様がお認めになる限りは間違い無く客人ですので、どうぞ遠慮無くお寛ぎ下さいませ」



 あ、この人もソナーに気付いてたんだ。

 やっぱり執事として洗練されてるだけじゃなく、多分戦士としても一流の人っぽい。ってか剣も持ってるしね。

 クラウスさんに案内されて、俺は応接間っぽい所に通された。俺を首から提げている為、ユリーシャが客人の席である上座に腰掛けているのが何だかおかしいけど。



「あれ? 家の方はこれで全員?」

「はい、旦那様は2日前から国外に出ておられまして、予定では一月程で御戻りになる筈でございます。次に奥様は私の娘と買い物に出ておりますが、間もなく戻られるかと思います。そして、御二方の兄であるベルディオス様は1年程前から旅に出ていらっしゃいます」

「クラウス、ママはいつ頃出掛けたの?」

「奥様がお出になりましたのは、確か1時間半程前でしたでしょうか」

「え? 僕が帰ってきた時にはもう居なかったけど、まだそんだけしか経ってないの? だったら、まだ戻って来ないんじゃない? いつもあの2人で行ったら3時間から4時間ぐらい掛かるじゃん」

「いいえ坊っちゃま、ユリーシャ様が御戻りになられた際に私めから連絡を入れてありますので、差ほど時間は要さないかと思われますが──」



 クラウスがそう言い終わるかどうかというタイミングで、突然何処からともなくチャイムが2度鳴り、その音を聴くとクラウスは一礼をしてその場を辞して玄関の方へと向かった。



「今のチャイムは玄関で鳴らしたのか? 何か何処から鳴ったのかよく分からなかったんだけど」

「ううん、家全体で鳴ってるんだよ!」

「家全体? どういう事だ?」

「ウチの屋敷には敷地に沿って結界が張ってあるんですよ、オリハルさん。その結界を越える時にチャイムが人数分の回数だけ鳴るんです」

「へえ、じゃあ今のチャイムは2回鳴ったから人が2人来た事を示してるのか」



 そういう事か、分かりやすくていいな。

 家の誰かが張ったのか、それとも魔道具を使ってるのかまでは訊く気にはならなかったが、他にもセキュリティは用意してありそうな気がした。

 屋敷の結界の話をしていると、クラウスが2人の女性を連れて戻って来た。そしてその2人の姿を見て、俺は2つの意味で驚愕する事になる。


 1人はクラウスの娘であろう、とても活発そうに見える少し耳が尖っている緑髪碧眼の女性だ。

 彼女は70過ぎに見えるクラウスの娘にしては非常に若い。流石にユリーシャ程若い訳ではないが、どう高く見ても20代後半ぐらいに見える。ユリーシャより背が低そうだからだろうか。椅子に座っているユリーシャの胸元という位置からなので高さが分かりにくいが、155cmぐらいに見える。

 後、クラウスの娘だという時点で予想はしていたがメイド服を着ている。流石にクラウスと違って剣は提げていないが、華奢な印象は全く無い。多分彼女もいざとなったら戦える人物なのだろう。

 本来は髪が長いのだろうか、髪は後ろで綺麗に纏め上げられていた。ちなみに服越しでも胸部の膨らみが少し分かるぐらいなので、Cぐらいだと思う。

 そして、彼女のおかげでクラウスの種族に見当がついた。両手の甲が緑色の鱗のような物で覆われていたのだ。多分龍人族とか、そんな感じの種族だと思われる。クラウスは手袋をしているから分からなかったんだ。


 そしてもう1人。ユリーシャ達のお母さんであろう人物だ。

 こちらも3児の母としては相当に若い。年齢は30代後半ぐらいに見えるので、かなり若い時に産んだんだと思う。背はユリーシャと同じぐらいだろうか。

 って言っても、こちらの世界で20歳前後で子を産むのが早いのかどうかは分からないけど。

 服装は、この屋敷の主人の妻という立場からするともっと派手なのを想像していたのだが、清楚な白いワンピースだったので逆に新鮮だった。勿論よく似合っている。

 髪は小豆色の腰まで届くロングヘアーで、よく手入れされているのだろう、髪の先までサラサラであった。ちなみに胸元に視線を移すと…………うむ、実に素晴らしい。いわゆる美巨乳という奴だろう。

 敢えて言おう、爆乳ではないと! どうやってもデカイのが分かってしまう爆乳とは違い、美巨乳は服の着方によってはあまり大きくないように見せる事も出来、逆に大きく見せたい時も充分に見せる事も出来る! それが意味する所はつまり、意中の相手の前でだけアピールする事が可能であるという事だ!

 という訳で彼女はDもしくはEであると断言しよう。ユリーシャにもその可能性があると思うだけで胸が熱くなるな。



「オリハルさん? 一体ママのドコを見てるんですか?」

「え!? い、いいい、いや、べ、別にドコも見てないよ? 何故そんな目で僕を見下ろしてくるんだい?」



 バ、バカな!? 何故この姿なのに視線を読まれたんだ!?

 悪魔か、悪魔だからなのか!? だからそんな蔑むような瞳で俺を見下ろすのか!? ビビって思わず一人称が俺から僕になっちゃったじゃないか。



「いえ、見てないならいいんですよ。大きいでしょ、ママ」

「そうだね。ユリーシャの将来が楽しみだよ」

「え? …………もう、バカじゃないの?」



 …………うおっ!? しまった、誘導尋問に引っ掛かっちまった! だが何とかセーフ。どうやら魔法の実験台にされるのは避けられそうだ。

 そんな良い胸をお持ちのユリーシャのお母さんだが、驚くべき所はそこじゃない。こういうと胸の言い訳に説得力が無くなる誤解を招きそうだが、似てないんだ。

 いや、顔立ちはユリーシャもゼブも面影があるというかよく似ているので、正直その言い方では不足している。だが、親と子の間でもっと根本的な部分が似ていないのも確かだ。



「あら、とても綺麗なお客様ね」

「奥様、私はすぐに夕食の準備に取り掛かりますね」





 はっきりいうと彼女達のお母さんは、角も尻尾も生えていなかった。つまり、どう見ても人間だったのである。



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