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第1話 剣ですらなかった

「なんじゃあこりゃああああああ!!」



 確かに転生は完了した。記憶もはっきりしている。自分の名前もちゃんと覚えてる。

 俺の名前は紺野織晴(こんのおりはる)。こう見えてもれっきとした人間である。

 だけど今は何をどうしても体が動かない。

 それはそうだろう。何故なら俺は人間ではなく元人間になっていたんだ。



『何って、ひのきの棒だな』

「いや、そりゃ分かるよ!? でも普通転生っつったら人間に生まれ変わると思うだろ!?」

『ボクと契約して世界を救う剣になって欲しいんだってきちんとお願いしたじゃないか。実際の姿がどういうモノかは、説明を省略したけれど。認識の相違から生じた判断ミスを後悔する時、何故か人間は他者を憎悪するんだよね。全く、訳が分からないよ』

「いや確かに言ったけども! 全然言い方が違ったぞ! つかお前詳しいな!?」



 主に仕える剣となるとか、そういう比喩表現だと思うだろ普通!?

 ガチで剣になるとは思わねえよ。いや剣ですら無いけども。ああ、そのモロに某インキュベーターな言い方だったらもうちょっと警戒したかもしれんのに。



「しかもひのきの棒ってどういう事だよ? こんなんで世界が救える訳無えだろ!?」

『小僧の貧弱さには我も驚いた』

「俺の所為なのこれ!?」

『まあいい。我が授けた能力があれば大丈夫だろう。……多分』



 何か、もうダメかも分からんね。

 だが俺はポジティブな男。なるべく今の状況を前向きに捉えるべく、どんな能力を授かったのか訊く事にする。



「……そ、それで? の、能力って何をくれたんだ?」



 いかん、ワクワクしてちょっとニヤけてしまうな。顔も何も無いけど。スカルジョークならぬウェポンジョークだな。

 ちなみに声は出ているし、周囲も見渡せていて、見るからに平和そうな草原が広がっているのが見える。視界の広さ自体は人間だった時とさほど変わらない。仕組みは皆目分からんが。



『材質変化と形状変化、そして魔力操作だ』

「え、そ、それだけ?」



 何かショボくない?

 もっとこう、時空操作とか次元切断とかベクトル操作とかそういうチート能力を期待したのに。



『いや、ただのひのきの棒がそんな能力使ったら使う前に壊れると思うが』

「キーッ! 悔しい〜!」



 いや待てよ、そう考えてみると案外悪い能力ではないのか。

 材質が変化出来るって事は鉄になったり、存在するならオリハルコンになったりも可能かもしれんし、形状が変わるって事は棒から剣になったり、他の武器になったりも出来るかもしれない。



「……最初の2つは解るが、最後の『魔力操作』ってなんだ?」

『魔力を自在に操作出来る能力だ』

「いや流石にそれは解るよ。それが出来たらどうなるんだってばよ?」

『魔法を使うにはその目的に合わせて魔力を操作し、変化させる必要がある。魔力を自在に操作出来るという事はつまり、魔力を操作する訓練無しで魔法が使えるという事だ』



 つまりほとんど練習しなくても魔法が使えるって事か。

 これから誰が俺を拾って使うのかは分からんが、自力で魔法剣を再現する事も不可能じゃなさそうだ。すると成程、意外にこの組み合わせはベストなのかも。

 そうとなれば早速練習するか。手始めに鋼鉄の剣にでもなってみるとするか…………あれ?



「どうやって使うんだ、この能力」

『材質変化と形状変化は魔力が無いと使えんぞ。そして、小僧の世界のほとんどの人間は魔力を全く持ってない』

「……って事は俺も魔力は……」

『当然無いな』



 意味無ええええ!

 俺ってばずっとひのきの棒で一生を過ごすんだ。

 ん? ひのきの棒の一生ってどうなったら終わるんだ? ひょっとしてこの転生、下手したら永遠に死なないんじゃ……。

 いや、折れたり燃やされたりしたら死ぬか?



『まあそう悲観するな。お前を拾う奴に魔力を流して貰えばちゃんと能力も使えるハズだ』

「こんなひのきの棒をわざわざ拾って魔力を流してくれる奇特な奴が居ればな!」

『……もう時間が無いから我は行くぞ』

「ちょ、待てよ!」



 あの野郎、逃げやがった! まあ、実際問題俺にばかり時間を割いていられないんだろうが。

 ──さて、これからどうしようか。って言ってもまあ、ひのきの棒なので動けないんだけど。

 俺に魔力があったら、能力を試したりして時間を潰せるんだが、残念な事に俺には魔力が全く無いので何も出来ん。後出来る事といったら周りを観察する事ぐらいなんだが、いかんせん草原しか無い。

 望みと言えそうなのは、ひのきの棒なのにまるで伝説の剣みたいに地面に突き刺さっているので周りが見回し易いという事と、誰かが近くに来たら結構目立つんじゃないかって事だ。

 早く誰か俺を拾ってやって下さい。いやマジで!





 この姿、全く人間の三大欲求とは無縁だな。いや、この姿で飯食わなきゃ生きて行けなかったら絶対詰むと思うけども。

 この状況で全く眠くならないのは果たして喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。誰か来ても見落とさずに済むという意味では喜ぶべきだろう。だが、誰も来そうに無いのに眠れないのは正直キツい。



「そうだ、ちょっと試してみるか。ひょっとしたら空気中に魔力があるかもしれないし」



 俺は『魔力操作』に挑戦してみた。

 お、何か微妙に力を感じるぞ。これが魔力か? これなら操作出来るかも。

 まずは自分に取り込んで、と。おお、何か血の巡りが良くなった時みたいな感覚がする。今の体に血なんて流れてないけど。

 よし、これで3分溜めた魔力を使って今度は『材質変化』に挑戦だ。まずは……序盤の武器の定番の銅の剣になる為に銅になってみるか。変化開始…………アカン、これ駄目だ。魔力が全っ然足りん。先っぽ1cmが銅に変わっただけでもう溜めた魔力が無い。

 ひのきの棒(俺)の長さは50cmってトコだから、全部銅にしようと思ったら……2時間半も溜めなきゃならんのか。で更に形状変化もしないとだから、倍ぐらいの時間を見込んでおいた方がいいかな? まあ睡眠は要らないし、気長に溜めてみましょうかね。









 あれから何事も起こらず1日が過ぎた。

 人は1人たりとも通っていない。俺と同じぐらいの背の藁人形みたいな生物が時々通るが、試しに話し掛けても無視されたので知性が無いんだろう。ガチで無視されてるだけだったらどうしよう。おじさん泣いちゃうよ。顔も無いから鳴く事しか出来んけど。

 1日溜め続けた魔力で色々実験もしてみた。この草原で1分間に溜めれる魔力を1とすると、ひのきの棒を銅の棒にするのに必要な魔力は150ぐらい。

 ああ、ちなみに最初の3分は数えてたけど、それ以外は数えてない。最初に溜めた魔力の量を基準にしている。

 それで、形状変化で今は伝説の銅の剣になっている訳だが、そのまま形だけ変化させるなら多分150ぐらいで出来そうだった。ただ、そのままの長さの銅の剣になるには体積を増やす必要があり、倍以上の魔力が必要になった。

 結論。ひのきの棒から銅の剣になるには魔力が500程必要である。ちなみに逆も試したが、50で出来た。多分体積を減らす時に魔力を回収出来たのではないかと思われる。

 それでもう1回銅の剣になり、残りの魔力が約400になったという所で今に至る。


 ──さて、次は魔法が使えるかどうか試してみようか。

 ひのきの棒だったら自殺行為だが、銅の剣になったから炎とか出しても一応大丈夫だろう、多分。



「さて、と、ゴホン。……炎よ、出ろ! うおっ、出た!」



 やった、マジで出た! スゲー嬉しい! ライターの火ぐらいの炎だけど、魔法使いの第一歩を踏み出したみたいでテンション上がるわ〜。



「……やべえ、魔力がごっそり持ってかれるわ、止めよ」



 テンションが高かったのも火を出した直後までだった。だって魔力がどんどん減ってくんだもの。

 こんな実戦では何の役にも立たなさそうなライター程度の火でも1秒間に1ぐらい減っていくんだぜ? 他の魔法なんて試す気にもならん。



「多分だけど、この場所で1分間に集められる魔力は本当に微々たるモノなんだろうな。この世界の魔法使いの力がどんなもんかは分からんけど、俺がここで1日に溜められる魔力を1とするぐらいの単位で考えた方がいいぐらいかな?」



 まさかライター程度の火や唾ぐらいの水で戦ってる訳じゃないだろうしな。実戦向きな魔法を使おうと思ったら、弱いのでも今の単位で1万とか平気で使いそうだし。

 そんな事を考えていても今はしょうがないので、少ない魔力とはいえ意識しなくても自然と集められるように練習しておこうと思う。



「とりあえず、もう誰かに会うまでは実験も止めてひたすら溜めておこう」



 大した理由じゃない。魔力を帯びている方がただの銅の剣じゃないと思ってもらえるんじゃないかと思ったんだ。









 そしてその考えは1ヶ月程経過した辺りで俺を救う事になる。



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