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第18話 巨人を断つ剣

 吹き飛んだダーティラットが地面に激突し、その衝撃によって発生した地響きが何とこちらにまで波及して来た。その揺れだけでユリーシャはフラつき、地面に倒れそうになる。



「──エレクトロ・リクライン」

「あ……ありがとう、ヴォルト」



 それをヴォルトが受け止め、電気で形作られたベッドのようなモノの上に寝かせる。見た目に反して心地いいのか、ユリーシャの表情が少し安らかになった。

 と、そこへローシェルとフェリスが到着する。



「大丈夫ですか、ユリーシャさん」

「ううん、ダメ。もう全然動けないや。情けないなぁ、わたし」

「いいえ、ボク達がオリハルさんを置いて行ってしまったのがいけなかったんです。ボク達が先に逃げてしまっていなければまだやりようはあったハズなのに……ゴメンなさい、ユリーシャさん」



 到着して早々にユリーシャの身を案じるフェリスと、謝罪するローシェル。でもそれを言ったらあの時逃げるように指示をしたのは俺なんだから、戦犯を決めるなら俺だろう。



「あ~……わたしは別に──」

「逃げるように指示したのは俺なんだ、ローシェルが気にする事は無えよ。あとヴォルト、すまない。情けない事にお前が来てくれなきゃ完全に敗けてた。後はお前に頼るしかなくてとても口惜しいんだが……」

「いや、気にするな。今のお前達では奴は格上だろう。むしろよく今まで持ち堪えてくれたと思う。後は私に任せてくれ」



 ユリーシャが単にビビって動けなくなっていただけなのを知っているのはあの場に居た俺だけなんだから、そんな恥ずかしい事実は俺の胸の中にしまっておく事にする。

 それにしても、通信魔法で話した時の台詞からして、ヴォルトの見立て通りの結果になっちまった訳か。後は自分達より格上の元現世十傑(お助けキャラ)を頼るしかないなんて本当に情けない話だ。



「──ねえヴォルト」

「どうした、ユリーシャ?」

「オリハルさんだけ連れて行ってくれない? オリハルさんならいざという時に必ず助けになってくれると思うの」

「それは別に構わないが……」

「いやユリーシャ、俺はもう魔力が全く残ってないから行っても何も出来ないぞ?」

「大丈夫、わたしの残りの魔力をあげるから」



 1人でダーティラットと戦おうとしているヴォルトを案じたのか、ユリーシャは俺に残りの魔力を流しながら俺を首から外してヴォルトへと手渡す。ヴォルトは特に躊躇う事も無く俺を受け取ると、そのまま首にかけた。



「オリハルさん、ボクとフェリスで必ずユリーシャさんをお守りします」

「はぃ、……まだ3体……残ってるハズ……」

「フェリス、それはもしかしてお前達が降りて来る少し前に落ちて来たゾウとゴリラとイノシシのリカント達の事か?」

「そうです……ヴォルトさん、何で知ってるんですか?」

「いや、こちらに向かおうとしていた私の目の前に落ちて来たのでな。有無を言わさず即座にトドメを刺してしまったんだ」

「「「「………………」」」」



 ヴォルトの軽い感じの言い方に、俺達は言葉を失った。

 いやまあかなりダメージは与えてたと思うし約1名(ゴリラ)はアレでまだ生きてたってのも驚きではあるんだが、何となくやるせなさを感じるこの気持ちは何なんだろうね?



「……ま、まあそれでも一応頼んだぞ、ローシェル、フェリス」

「「……はい」」



 ともあれ、もう本当に余力が無さそうな2人にはここに残ってもらうとして、そろそろ山羊野郎(ダーティラット)討伐戦第3ラウンド開始と行くか。

 ……と、思っていたのだが。



「……あれ? ダーティラットの野郎、どこに行った?」

「何? 確かに居ないが、この期に及んで逃げた? いやまさかそんな訳──」

『ヴォルト様、奴はヴォルト様がリカント達の軍勢と戦っていた場所に向かってます! 急いで下さい、皆が危ない──!』



 ダーティラットの姿が見えなくなり、不穏な空気が漂い始めた瞬間、偵察を担当しているフィラデルフィアから通信魔法で報告が入った。目的は不明だが、奴はヴォルトがさっきまで暴れていた場所に居るらしい。

 確かにフィラデルフィアの言う通り、そこにはまだヴォルトと一緒に戦っていたエルフ達が居るハズだ。そこを狙われるのはマズイ。



「──ヴォルト、急ごう!」

「ああ、嫌な予感がする──!」

「オリハルさん、ヴォルト、気をつけて……」



 ユリーシャ達に見送られながらヴォルトは駆け出した。単純に4本足だからか、身体強化魔法を使っている様子も無いにも関わらず速い。あっという間にダーティラットの姿が見えてくる。



「──サンダーウィング」



 ヴォルトは走る勢いを保持したままに加速する突風(ブラストアクセル)を使った時と同じ雷の翼を背中に展開。



「そこか──加速する突風(ブラストアクセル)!」

「──ウオッ!? ……おのれ老害め、1度ならず2度までも!」



 ダーティラットを射程範囲内に収めた瞬間に狙いを定めて加速する突風(ブラストアクセル)を発動し、ダーティラットの横っ腹に槍の一撃を突き込んだ。

 しかし距離があった為か、それとも単純に15m級の巨人と化した奴との質量差なのか、ダーティラットはたたらを踏んだ程度でそこまで大ダメージを負った様子も無い。



「何をするつもりだったか知らんが、これ以上好き勝手にはさせんぞダーティラット」

「ふん、元現世十傑とはいえ、老害ごときに我は止められん! ──魔力徴集(コンスプリクト)

「何──?」

「ふはっはっはー! 魔力さえあれば貴様など! これで元現世十傑の貴様を我が倒せば、我が現世十傑に入る日もそう遠くないな!」



 槍を構えて凄んだヴォルトを目の前にしてもダーティラットは自信ありげな表情を崩さないまま、魔法を唱える。

 すると、ここら一帯に漂う魔力がダーティラットに集まり始めた。どうやら魔力を集めて回復する事でヴォルトに対抗するつもりらしいが、その手は残念ながら通用しないな。

 俺は無言で全力の“魔力操作”を起動し、山羊野郎(ダーティラット)が集めようとしていた魔力を感知して横取りする。流石は神かもしれない奴がくれた能力(ギフト)、奴の魔法よりも俺の能力の方が吸収力は上のようだな。

 にしても、何だこの魔力。そこらに漂ってるだけの魔力とは何か違うぞ? あいつの魔法で集めるとこうなるのか?



「……それで? その老害に勝つ算段はついたのか?」

「──バカな!? 手下共の魔力が集まらん! それどころか奴のペンダントに吸収されて……何なんだそのペンダントは!?」

「さあな……私も興味深いよ」

「ふざけるなあああああっ!!」



 ダーティラットは激昂すると、フェリスがやっていたのと同じように地面から無数の岩の拳を出現させる。

 そうか、死にかけや死んだばかりのリカント達に残っている魔力をかき集めようとしたのか。って事は、魔法が使えないリカント達にも魔力は宿っているのか。勉強になったな。



「──稲妻の剣(ライトニングブレード)



 フェリスのより遥かに数が多いのは流石の魔力量といった所だが、その程度ではヴォルトには通用しない。ヴォルトは雷を槍に纏わせ、それをそのまま剣のように振るって岩の拳を薙ぎ払った。

 ヴォルトが持っている槍はアールシェピースと呼ばれるタイプの槍で、柄は剣と同程度の長さで、鍔に当たる部分から先は円錐形になっている。その為か、槍でありながらそのまま剣に見立てて振るう事も可能なようだ。



「──超電磁散弾砲(レールショットカノン)

「ウオオオオオオオッ!?」



 ヴォルトは無数の岩の拳を薙ぎ払い、細切れにした後その破片1つ1つに電気を纏わせ、更にそれを全て超高速で撃ち込んだ。



「……元十傑ごときにいいようにやられておきながら十傑に入る? 笑い話にもならんぞダーティラット」

「バカな、バカなバカなバカな!? 我が力を得る為の『餌』として森のエルフ共を全て捕らえて喰らい、ゆくゆくはビーストフォレストを我が手中に収める計画がこんな所で、──ッ!?」



 これだけヴォルトが攻撃しているのにも関わらず、ダーティラットは未だ健在だ。本当にタフな野郎だな。

 慌てふためくダーティラットが喚き散らす中、突然辺り一面に凄まじい殺気が充満した。



「……今、貴様、何と言った?」

「──な、何、を……?」



 ヴォルトの底冷えするような殺気が込められた問い掛けに、ダーティラットは言葉に詰まって答える事が出来ない。直接殺気を当てられていない俺だってちょっと怖いぐらいだ、喋れるだけマシか。

 回答が得られないと判断したヴォルトは、人質になっているハズのエルフ達の救出状況を確認すべく、通信魔法を起動した。



「──コネクト。救出班、捕まっていたエルフ達は無事か?」

『ヴォ、ヴォルト様、オリハル殿達と合流されたのですね……! どうかっ、どうか奴を……奴を殺して下さい……っ! 奴は、……我等の同胞達の心臓を……く、喰っています! ここには……む、胸に風穴を空けられた同胞達の……死体しか……っ!』

「な────っ!?」

「──そうか、辛い報告をさせてすまなかったな。こちらの事は任せて、エルフ達をゆっくりと弔っていてくれ」



 なんて事だ、まさかもう殺されていたなんて……!

 エルフ達の話から、勝手に目的を勘違いしていた。まさか殺す……いや、喰う事が目的だったなんて全く想像もしてなかった。

 ヴォルトはそれほど驚いている様子は無い。さっきダーティラットが口走っていた内容からそこまで想定していたのか。



「──さて、何か言い残す事はあるか?」

「く、くそっ、くそっ、くそがああああああ死ねええええええ!!」

「ヴォルト、後ろ──」



 俺の“魔力操作”に引っ掛かって判ったのは、先程俺達を圧し潰そうとした巨岩が猛スピードでこちらに飛んで来ているという状況だった。

 もしかしてヴォルトにビビってたように見せ掛けてコレを狙ってたのか? エルフ達の事といい、本当にクズだなコイツ……!



「──轟雷の一閃(ライトニングスラスト)!!」

「な……あ……ば、化け物め……っ!」



 俺達が避けるしかなかったあの巨岩を、ヴォルトは膨大な量の雷を纏わせた槍の一撃で消し飛ばしてしまった。そのあまりの規格外っぷりに、思わず俺もダーティラットと同じ事を思ってしまったぜ。

 そんな失礼な事を考えていたのがバレた訳ではないと思うが、ヴォルトに突然捕まれた。右手に持っていた槍はいつの間にか地面に突き立てられている。



「オリハル、奴にトドメを刺すのに相応しい武器になってくれないか? 実は────」

「──! 分かった、任せてくれ」



 小声でヴォルトに話し掛けられた俺は、ユリーシャにもらった魔力と先程横取りした魔力を使って“材質変化”と“形状変化”を開始する。

 まず柄の部分は“形状変化”だけで約80cmのミスリル製の棒で造り、棒の表面は“材質変化”させて作った黒いゴムで覆う。

 次に剣の芯として今回は軽さを重視する為に“材質変化”様に任せてカーボンファイバーで芯を造り、刃の部分にはこれまた“材質変化”様に任せてタングステン製の刃を造る。それを刃渡り約4mの長さで生成し、ダーティラットをぶった斬る為の大剣となる。

 ……よし、足りた。やはり作り方はともかく原材料を何となく知ってるだけでも必要な魔力が少なくなってるような気がするな。同じ量のミスリルやクリスタルを精製する時の3分の1ぐらいで済んだ。



「変形した……何なんだそれは!?」

「──ただの、貴様を断つ剣だ」

「更に言葉を話すだと!?」



 ダーティラットはようやく俺の存在に気付いたようだが、もう正直いちいち反応されるのも面倒だ。俺が返事を返した瞬間、ヴォルトはここで初めて身体強化魔法を起動。凄まじい勢いで跳び上がり、一瞬で下種野郎(ダーティラット)の頭上まで上がってみせる。



(やかま)しい。もう黙れ」

「──ッ!? やめろっ! 我は、我はあああああ!」

「「──巨人を断つ剣ギガンティックブレード!!」」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」



 そしてヴォルトは大剣(おれ)を全力で振り下ろし、ダーティラットを脳天から真っ二つに一刀両断にしてみせたのだった──。

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