ゴブリンキングの鳴動 その13
イミルとリミルは砦から外を見ていた。
ガークのネルソンから戦場の様子を聞いている。
ネルソンは屈強な戦士でガチガチに金属製の鎧を着て、その上からうろこ状の装具を重ねてつけている。
両手持ちの大剣を片手で扱う強力な男。
戦闘では大剣を右手に片手剣を左手にという変則両手持ちで戦うのを常にする。
ネルソンの説明では、敵の大型種ドルガーとハイボアオーク以下の大軍が何かに率いられて向かってきていると・・・
『何かって?なに?』とリミル
『ほら、支度するよ。』とイミル
二人ともひざ上丈のスカートで腰にはごっついベルトそこにピックを腰に取り付けている。
二人ともブレストメイルと簡素な兜でそこからあふれるように金と銀の髪が出ている。
腰の雷の紋章を見せ付けるような格好でこれが戦場に出る格好か?と他のガークの戦士からも言われているネルソンもその一人だ。
『その格好で戦うのか?我等としては・・・・うれしいが』ちょっと正直だが心配はしているようだ。
『うーん、武器が重い分動きが遅くなっちゃうから・・・これでいいんだよね~?イミルちゃん。』
『さっさとすまして、ちゃっちゃと戻りましょう。』
と二人は装備をととのえる。
さぁ行きますか~っと、目の前の馬鹿でっかいウォーハンマーを肩に担いで砦の外に出て行く。
外にいたガークやバグベアが一斉に3人を見る。
ネルソンが『先ほどの話のように敵は向かってきている。これよりここは戦場となる。諸君等の善戦に期待する!』
『とりあえずやっちゃうよ~!!』とリミル
お~!!と歓声が上がる。
士気は高いようだ。
『うへっ、うへ・・・汗と汗、肉と肉、骨と骨、体液と体液、男と男の肉体のぶつかりあい・・・あは~ん・・・』
ん?っと一斉に声の方向に目が向く全体。
そして一斉に言葉の内容を把握したのか後ずさる全体。
『なんか違うのがいるよ~?』とリミル
『あ~、合わさる体と体、暴力と力と罵倒・・・萌え・・・うへへ』
ぞわわ~と鳥肌をたて青ざめながら・・・イミル
『魔素の影響で一回死んだホブゴブリンが生き返って、グールになったって話聞いたけど・・・あなたがそう?』
『そうだけど、メスと話すのメンド。ゴブリンキング様に他のグールと一緒に回収班まかされちゃって~、あたいはここの担当ってわけ・・・でっかい男の肉体・・・いい・・・あれ~が、こ~んことや~あ~んなことや~うへへ~』と妄想してますよ~ぶっ飛んでますよ~って感じで笑うのに屈強なガークの戦士だけではなくバグベア達も蛇に食われるカエルの様に脂汗をかいている。
回収班?
回収班つまり死体の回収だ。
ゴブリンは強い敵の肉を食ってか戦闘経験によってもだが、存在変化する。
その為、強い敵の肉はは必要だ。
で、ゴブリンキングは回収班を組織したのだ。
例の無限袋と、グールの能力《暴食の胃袋》で回収するようにさせたのだ。
《暴食の胃袋》と言っても本当に胃袋に収めるわけではなく一時的に別空間に物を溜め込む技だ。
まぁ、その為込んだものを小出しに食べているからこいつら、たちが悪いんだけど・・・・
それと戦場にこいつ等出したのって基本的に一回死んでるから死なないっていう理由なんだけどね、もちろん燃やすと聖印での攻撃とかすれば消滅=死んじゃうんだけど・・・
ようはしぶとさを買ったわけね。
というわけで、ガークの数人にあまりの気持ち悪さから武器ではたかれてバラバラになっても
『いや~ん、はげしいんだから~』とか言いながらバラケタ自分の体を無造作に重ねて動き出しておぞましさを見せる・・・・あえて女っぽいからグール子と名づけるが・・・
う~ん?選定ミスなんじゃ?と思うイミルとリミル
『では、皆さんがんばって~あたいは草葉の陰から見てますよ~』とかいいながらいつの間にできていた墓の下にもぐりこんだ・・・でも、隙間から本当にこっち見てる・・・『うへへ、あの美形萌え~受け限定?いやいや~うへへ~』とか言ってるのが聞こえる。
みんなで墓ごと破壊したのは言うまでもないけど・・・時々、ぐへへとかうへへ~とか地面の下で声がするので死んではいないのだろう。
オーク達の集団で移動する音や雄叫びや私達に対する罵声が聞こえたところで、我に返った私たちは音の咆哮に目を向ける・・・嫌な感じに後ろ髪を引く何か・・・グール子とは反対側だ。
ドルガーはオークと巨人の相の子のような存在だと聞く・・・トロールが元なのかそれとも・・・?それとも魔法で強引に作られたのだろうか?何故かと言うと背丈がそろってない・・・2メーテから4メーテぐらいが普通みたいで。
私達ぐらいかそれより大きい者も数体存在する・・・
それぞれに武器を持ちそれで盾を叩き打ち鳴らし、盾を持たないものは鎧の胸を拳骨で叩きならしている。
威圧だね。
二人は見つめあい。
そしてネルソン他のガーク・バグベアのほうを見て
『みんな~いくよ~かっちゃお~!♪』とリミル
すると
お~お~お~!!!っと野太い声があたりにひびいた。
ネルソンが最前線に立って突撃する。
その脇を固めるガーク戦士達。
少し遅れてバグベア達
一番後ろで力をこめるかの動作をする二人。
突撃するネルソンが大剣を振るい敵を切り飛ばしそこを埋めようとする敵を片手剣が襲う、そこに援護とばかりにドッとガーク達が切り込みこじ開ける。
後ろに回りこもうとする敵をバグベア達が必死に戦う。
数では向こうのほうが多い彼我の差があると言ってもいい。
倒しても倒しても埋めてくる、ドルガーだけではなくハイボアオーク以下のオークたちまで混ざって隙間なくだ。
だが、突進力ではこっちが勝る。
埋める敵をも蹴散らしながらぶつかり合う。
後ろの二人は電光を発した。
『いっくよ~よけてね~避けないとしびれるよ~ん。』とリミル
『いきます!』とイミル
いきなりの雷撃が降りそそぐ・・・目の前が真っ白に光るほどに。
『馬鹿野郎!!!避けれるか~!!!』とネルソンが怒鳴った。
イミルとリミルのツイン雷撃は、見事に敵と味方の一部を巻き込み炸裂した。
『だ~!!しびれるぅ~!』と何故か余裕の声が聞こえるガークたち
見事に焼き焦げるドルガーとオーク。
彼らはこの間のサンダージャイアントを食べて存在変化した者がほとんどで紋章持ちである為ある程度絶えられたのだ・・・あくまでもある程度だが・・・
毛が焦げてるバグベアやアフロヘアになって黒い煙を口から吐いてるガークには気の毒だ。
戦線の崩れを見せたオーク軍そこを突いて敵を屠り続けるガーク達ここの場所だけでは、戦場の流れはこっちになっている。
後方で、二人が雷撃をチャージし。
前線維持できるほどの数のいないガークはその突進力で敵を翻弄することで足止めをする。
そして、2度3度と雷撃が降り注ぐ。
今度は覚えたのか巻き込まれる者はいない。
『絶対あいつら、俺の事狙ってる。』とネルソンが言ってからは被害がなくなったのだ。
掛け声と共に一斉にネルソンから離れる。
そのたびに
『おい!!』
『おい!!!また俺かよ!!』
とか、声が聞こえるが・・・気にしない。
なんだかんだと二人も雷撃が届く位置に移動していた。
巨大な金属の塊のハンマーを振るい敵を打ち倒す二人・・・
まるで、戦乙女のように美しいその動き。
まるで踊っているようだ。
そして、チャージが終わり雷撃が再び飛ぶ・・・ネルソンに。
『だから、俺を狙うな!!少しは痺れるんだからな。』少しなのかよとツッコミが味方から入っている。
ドルガーの群れの奥に自分達より巨大な存在がネルソンの目に入った。
赤い肌に紋章のある肌。
いきなりそれが自分の仲間を巻き込むような砲撃を発射した。
巻き込まれ焼き尽くされるドルガー・オークたち。
数人のバグベアとガークもやられた火線上にいたものを焼き尽くしたそれは、砦を少しそれて地面に着弾。
溝を掘り地面を吹き飛ばして消滅する。
それは、巨人の咆哮に炎のブレスあわせたものだった。
『あわわ~』
『わぷ。』
攻撃は避けたが巻き上げられた土ぼこりが二人を襲っていた。
『やったなぁ~!』二人は服や鎧お互いの髪をはらいながら。
巨人を睨みつけた。
ネルソンはその時せっかくの突進力を失うのは不味いと部下を鼓舞し標的をこの巨人にするように指示した。
『こいつが、本物のファイヤージャイアントなら・・・・この数では勝てるかどうか?ゴブリンジェネラル殿か、ゴブリンキング様ならば・・・・』
ネルソンは、巨人と向かい合った・・・デカイ・・・5メーテはある自分が思うのだから相当だろう・・・纏った存在感の違いもあるが・・・
振るわれる武器ファルシオンもだがその巨人の能力なのだろうか全身に火をまとっている・・・近づくだけで焼かれるようだ。
ガーク達は巨人に果敢に攻撃を仕掛けるが、その炎を纏う鎧や盾、そして剣に受け流される。
『あの炎を、せめてあの鎧何とかならんか?』ガークの誰かが言った。
あの守りを越える方法を俺は知っているだが・・・しくじったら次はないな・・・
いくか
全力でネルソンは巨人とぶつかる。
大剣が振るわれ、盾での防戦される。
片手剣で巨人の剣をそらすネルソン。
『喰らえ!』
咆哮砲を発射しようとする巨人に片手剣を口に突き刺すのどを抜け首の後ろに剣が飛び出すが生きている巨人。
巨人は、ニヤリとネルソンを見て笑いながら、自分につきこまれた剣を噛み砕いた。
砕け散った破片。
体には異物が残ったままだ。
咆哮砲は封じただが、再生力の強い巨人にいつまできくか?
防御を捨てネルソンは渾身の一撃を相手の鎧の胸の部分に大剣を両手持ちでぶち込んだ。
盾を振るい攻撃を弾こうとする巨人。
盾に貫かん勢いでぶち当たる大剣飛び散る火花をも炎が飲み込み這い迫ってくる。
次の瞬間、目がくらむほどの光が発した。
イミルとミリルの雷撃を受けて帯電していたものを解放したのだ。
盾の表面上を走る雷撃。
『いまだ!!こい!!』叫ぶネルソン。。
必殺?の雷撃がネルソンめがけて降り注いだ。
ネルソンから大剣に伝わりその破壊力で盾を打ち砕き弾き飛ばす下にあった巨人の左腕も巻き添えにしながら。
『うぉぉぉぉ!!!!』ネルソンは盾の粉砕で大剣を留めていた物がなくなったそこに大剣を膂力の全てをつぎ込んで巨人お胸を狙った。
雷撃の勢いも乗ったその一撃は鎧の胸の部分と一緒に巨人の胸に深い傷をつけた。
のけぞる巨人。
だが、大剣は巨人が振るった剣の打撃を受け途中から砕かれ、その打撃で広報に吹き飛ばされるネルソン。
『だ~、しびれたぜ~。』
巨人ののどに付き突き刺さっていた剣の一部はいつのまにかなくなっていた。
『しまった!』
咆哮砲が放たれた。
巨人の狙いは、二人。
まずい、あんな鎧じゃ。こんな攻撃くらったら。
二人のほうを見るネルソン。
その二人はこっちを睨んでいた。
まさか俺?俺に怒ってるわけ???
それは違っていた。
二人は
『こんの~またやったなぁ~』
『怒りますよ。』
と、ハンマーを振りかぶった。
馬鹿やめろ!そんなもんでどうなるもんじゃ?
勢いよく振られるハンマーが咆哮砲にぶち当たった瞬間、いきなり帯電する二人。
ぶつかる破壊力。
ゴゴゴとかギギギとかきしむ音を響かせ、ハンマーが砕ける。
咆哮砲は逸れた。
逸れた先は砦だったが・・・・咆哮砲を受け大穴が開いたがガラガラと崩れる。
がーんとなる二人。
『あ~』
『あちゃ~』
胸に傷をおった状態での咆哮砲は体に負担をかけてしまったようで、内部から胸の肉の一部がはぜ血を噴出した巨人。
『ぐふっ。逸らしたか。だがどうする?お前達で我を打ち倒せるか?』と巨人がしゃべった。
『『『『『『しゃべった!』』』』』とガークとバグベアが同時に言った。
ネルソンもしゃべれるのかよこいつと思っていたが、痛みで声が出なかった。
『この~』
『せっかく、ゴブリンキング様からまかされたのに・・・・』
崩れた砦を見ながら。
なにか・・・そうだよな。
怒りに震え始める二人。
ずびしぃ!っと二人が背あわせで、巨人を指差し
『あんたは倒してやる!』
『あなたを倒します!!』
同時だ。
一斉に、ガークとバグベアは動き出す。
巨人の動きを封じ少しでも攻撃しやすくする為の援護だ。
盾ごと吹き飛んだ左手の回復も始まっている。
骨と筋肉の復旧が済んでいるがあまり動かせないようだ。
皆で足や腕を押さえつける。
文字通りにだ。
じゅっと音を出して焼ける肌。
炎を纏う巨人を押さえつけるなど、自殺行為だ。
イミルとリミルは同時に走り出す。
二人とも雷撃のチャージを始めながら。
迎撃の為巨人は咆哮砲の準備を始めた。
火線上に二人が重なっている。
このやろ~こんなときに動け~っとネルソンひざに力を入れて立ち上がる。
あんな女二人ががんばってるのに、大の男が転がってられるかよ~。
立ち上がり今まさに咆哮砲を撃たんと大口を開けている巨人の口に折れた大剣をぶち込みながら。
『おら、最後まで喰らいやがれ!!』と左手で下顎を上方向に打撃する。
大剣をぶち込まれたのと下あごの打撃で口が閉じ咆哮砲が喉奥で爆発。
機関の一部を断裂破砕した。
上げられぬ悲鳴を上げた巨人それを見たネルソンが・・・
『俺の愛用の剣はうまかったかい?後は任せたと。』左に避けた。
『うおぉぉぉぉ!!』
『うわぁぁぁぁ!!』
と金と銀の髪をたなびかせて二人が突っ込んでくる。
帯電した二人は電光はほとばしらせながら。腰のピックを右手に持ち渾身の一撃を穴の開いた巨人の胸に打ち込んだ。
ピックとピックの先が、巨人の心臓部で触れたときスパークした。
爆発音と共にきょじんの心臓は蒸発しピックも持ち手までが消し飛んだ。
どぅっと、倒れる巨人。
絶命しているが再生は始まっている。
生き残ったガークの一人が巨人の首を切り落とした。
『は~い。ごくろうさま~回収しますね~』っと、いつの間にかそばにいたグール子が巨人を《暴食の胃袋》に収容した。
あらかたの敵のドルガーの死体もなくなっていた。
いつの間にか回収したのかもしれない。
ぜーぜーいいながら。
リミルが
『砦壊れちゃったけどゴブリンキング様は褒めてくれるかなぁ~?』
『大丈夫じゃない?』とイミル
『また一緒にお風呂はいってくれるかなぁ~?』
『そ、それは関係ないんじゃない?』
『おい!下がってたオークたちがこっちに来るぞ!』
全員に第二ゴブリン城まで後退と命令を出したその時。
『うわ~!!!ひぃぃぃぃ~!!!高いぃぃぃぃ~~~!!怖いぃぃぃぃ~~~!!』と言う声が上空から~
『あ、ホーリィたんだ!』
同時にオーク軍が
『ぎぃぃぃやぁぁ~~~~~!!出たぁぁ~~~~~~~!!』
『にげ~~~~~~~~~~!!』
などと騒いで逃げ惑い始めた。
今のうちに逃げよう。
イミルとリミルは駆け出した。
なぜか、前を走っているグール子を追うようにして。




