ゴブリンキングの馳騁 その88
ゴブリン軍の兵士たちといっても大きさも種族もさまざまな状態で何か巨大な戦力と戦っている。
かなり苦戦しているようだ。
『他の者は、おちたか。』そうひとり呟く。
武闘家のようなたたずまいは仙人のさまと相まって
この時点で、暴風のような周辺の状況とあまりのかけ離れた静かな状態だ。
ゆっくりと進むそいつは四天星の最後の一人。
今は自分の力を使い切って・・・
老兵か?
心で思う。
そんなはずがないのだ。
圧倒する戦力は、いまのこの国の状況下でも・・・敵戦力を削りつくしいずれは敵兵の方がいなくなるそういう状況すら作り出せるとこの男は思っていたからだ。
うまれた時から仙骨を持ち、よき師に恵まれ。
当時何が不満だったか・・・若かったのだ。人としてではなく仙人としての時間を数えていたはずなのに。
人々の戦乱で苦しむさま、災害などで死んでいく飢えていく貧しさを憂いて・・・自身なら仙人としての力でその人たちを導けるのではないかと思って仙人の棲まう世界を飛び出した。
今となれば・・・愚かだったかもしれん。
この地の皇帝は、何度か争いの中。
血統も国の名前も変わりその度、民は疲弊し・・・
だが、気づけば数度目の招喚を受けた。
私は私のもとに来た相手を見てそれに応じている。
その者がいかに雑兵であろうともだ・・・その者を立てやがて高い地位につかせるのも私の楽しみになっていた。
皇帝ゴア・ドライゴスは、若き日に我がもとに来た。
臆病そうな眼差しで、体も小さくどちらかというと貧弱だった。
だが共だった部下はまさに武人という存在の者達ばかりだった。
こやつは思慮もないのか初めの数日はこの私に脅しをかけるようにして現れた。
最後は武人たちをけしかけても来たが・・・そのようなものは歯牙にもかけぬ。
呆れてしまった。
そんな愚かなものに付き合う時間はもったいないと思っていた。
そんな、愚かな男だが・・・
部下にも見捨てられたのか?一人、私の住まう山小屋の前にとどまり続けた。
食料もないはずだ。
時々姿を消すところを見ると、川に水でも飲みに行ったか?草でも食べに行ったか・・・
すぐにでも音を上げて帰ると思ったが、木の枝を杖のように突きさも具合の悪そうにしながらもここに残り続け、私に自分について山を下りろと言う。
その眼にはまだ強い意志があった。
この愚か者は、私をどうしてもここから動かしたいようだ。
数日間満足な食事も睡眠もとらずに、貧弱な体も服と一緒にボロボロになり・・・毒の草に当たったか水が合わなかったか下痢も止まらぬ様子だ。
それでもなお、自身より上がいる何という事も認めない!
世の中の全てが自分の下にいないと満足できぬという驕り高ぶった気質。
そんな小さい人間が・・・私を山からおろそうとする。
可笑しい大笑いした。
その姿に驚いたようだが・・・
『すぐに笑うのをやめろ!私は、貴様が仙人だというから・・・私の配下になることを認めてやろうと来てやっただけだ!』などと、ぼろ雑巾のように汚れた者が言う。
滑稽だ。
私は仙人としてではなく・・・狂っていたのかもしれない・・・・これが最後なのだと悟っていたのかもしれない。
私は山を下りた。
暫くして魔導に精通する者達が私の体を調べたいという。
ゴア・ドライゴスは、どこでもあるような不幸な男だった。
各地に王が群雄割拠しておりそのほとんどが肉親。
今いる巨城も多くの兄たちが牛耳り、奴はかなりの下の方の存在だった。
私の体に興味を持った魔導士だが、彼に私の体を調べるように進言したのはゴア・ドライゴスだったのだ。私は奴を目をかけてやっている。このような歪んだ性格に王にふさわしくない威厳の無い風采これをいかばかりか何とかするために師匠と無理矢理呼ばせ、奴めを教え子とした。
その数日後にこれだ。
奴は私の体の仙骨に興味を持ちこれを自分につかえないかを調べさせたのだ。
仙骨自体は生まれながらのもの、後付けでどうにかなるものでは無い。
だが、奴も私を調べた魔導をつかさどる者も同様にあきらめなかった。
死ぬほどの傷を負っても再生してくる豹人と猿人にそれを試した。
強制的に骨を歪ませたり、切ったり繋げたりを繰り返して・・・徐々にそれに成功していく頃、ゴア・ドライゴスは自身にも試させた。
失敗があった時の身代わりをも用意して・・・
だが、近いモノにはなったが仙力は得られずどまりだった。
だが、奴はヒトを軽く凌駕する力を得た。
そしてそうなるころには、奸智に勝る奴は他を追い落とし今の地位を得ていた。
皇帝ゴア・ドライゴスとなったのだ。
そこまでなったなった、あいつにはこの世界には恐れるモノはないはずだった。
だが、実際にはいつ自分が追い落とされるかと脅えていたし。
実際にそれは訪れていた。
一つ目はダークゴブリンエンペラーだった。
帝都の王城のまじかまできてその者等は敗走していった。
ゴブリンキングとその配下の力によって東方南部で首魁が討たれたからだ。
二つ目は、魔皇帝の襲撃だ。
これは、皇帝ゴア・ドライゴス自らが討ち取った。
だが、精神に何だかの問題を植え付けられてしまったようだった・・・
そして、今こいつらだ。
私までが出張っている状況を考えれば・・・・いや、私の弟子達がことごとく討たれた現実を考えれば・・・この者達が、想像だに出来ぬほど恐ろしい存在なのだという事が分かる。
今まで何事をも力で押さえつけることができたはずだったのに・・・軍票の暴落、共通貨幣の価値の上昇
人為的何かが動いていた。
それも、我らですら考えられぬスピードでだ。
そのおかげで、町の状況が変わり民の心が離れていった・・・・
兵も今は雪崩を打ってあちこちに逃げている。
あの者の周りに残るものなどもう僅かだろう・・・
せめて私だけでも残ってやろう、我が教え子よ。
一番ダメなお前の事。
今挑んでいる存在に勝てるだろうか?
だが、いい。
私は信じて貴様のために戦ってやる。
時間はあまりないが・・・頑張れよ皇帝ゴア・ドライゴスよ。




