ゴブリンキングの馳騁 その40
地上から見ればかなり高いところで地上の一部を巻き込んだ爆発があちこちで起きているようにしか見えないんだろうなぁ~。
それはそれで危ないから誰もいなそうな所に飛んできたわけだが。
そんなでもここ魔界では何かが住んでて迷惑かけてるかもしれないんだよなぁ~。
そんなこと言ったらここでは戦えないだろうし、あいつらが相手で手を抜ける訳もないし。
そこまで気にしてはいられない。
だいたい、攻めてきたのはあいつらなんだから文句があるならあいつらに言え。
上空で彼女は美しく舞いながらわしの放った封術管の群れを破壊しているのだろう。
なぁ~んて、呑気に構えている場合ではない。
何とか身体を治すわし。
そう言えばこいつら呪詛が使えないのかなぁ~?
わしの体へのダメージは大きいし治りにくいんだけど・・・でも治るわけで。
呪詛かかけられたら治らないはずだし?
このモードあくまでなんちゃってなんだが?のせいだろうか。
なんて考えてたら銀色の槍が飛んできた。
とっさに避けれたのは逃げまわって回復した結果だろう。
わしは《誘惑》と《欲情》を使ってみる。
うまくいけば戦闘終了だからだ。
卑怯?
なんで、勝てばいいんだろ?
それにだ。
これって何でわしが覚えてるんだ??
う~ん。
結果としては『ふざけるな!!そんなものが私に効くものか!!誰が貴様なぞに!!』などとお怒りが強まることになったわけだが。
ほぼ、特攻に近い状態で奴は迫ってくる。
怒りで歪んだ顔はそれでもわしの背筋をくすぐるような美しさがある。
あっ、わしの一番はホーリィよ。
知ってるよね。
空気を振動させ。
あちこちで起きている爆発すら吹き飛ばす強襲。
あっという間にわしのもとに迫るエブナエル。
手には銀色の槍。
わしはそれを盾で受けて。
まぁかなりの爆発もするだろうさ。
だが、その後はソードメイスで・・・
盾を構えて堪えるようにすると決めた。
接敵する。
だが、槍は途中で投げられた。
もちろんわしに向かってだが。
え?
わしは盾で銀色の槍をを受けた。
強烈な破壊の中ひしゃげる盾は自動的に《フルバスター》を発動した。
後ろに押し飛ばされるわし。無傷ではないが一時でも逃れることができた。
盾の攻撃で相殺されたためか、わし自体の被害は無い。
彼女も後退したのだろうか?
ちがった!!
満身創痍のままもげた左腕と細かい傷を再生しながら爆発をぬけこちらに迫る。
盾の再生は間に合わない。
盾をしまう。
両手持ちでソードメイスを持ち直しぎゅっと力を籠める。
持っていたのは黒い槍だった。
何だあれ?
なぁなぁ、わしってさ~槍って良い思い出ないんだよね。
真っすぐにスピードをのせて突っ込んでくる黒い槍を上から弾くようにソードメイスを叩きつける。
だが、押さえつけ少しそらすのが関の山だった。
黒い槍の穂先が触れるかという瞬間。
壊れているはずの盾が間に入る。
爆発の一瞬前、そしてそのせいでずらされた腕と振れるソードメースから杭を射出それが、偶然彼女の主翼に刺さる。
大爆発が起きた。
エブナエルは爆発を避け後方に飛び逃げれるはずだった。
だが現実は主翼を貫いた杭のせいで、主翼が完全に破壊、副翼も半壊全身を炎と電撃が襲いそして魂の器を破壊する。
その衝撃と全身に響き渡る痛みとそれに伴う警告が彼女の脳髄を責める。
そしてかろうじてその場を離れた彼女はやっとのことで意識を保ち自身の修復をする方で深く息を繰り返す疲弊した手負いの獣のように目だけはしっかりと赤い鎧の行った先を見つめる。
赤い鎧は空中から落とされた人形のように地面に落ちた。
黒い煙を吹きゆっくりに見える距離を落下しガランガランと金属音を響かせて。
地をえぐり長い溝を作ったそれは落ちたままの格好で動くことはなかった。
大量の煙を吹くそれの両腕の部分は欠損していた。
鎧はかろうじて維持できているが、あらぬ方向に捻じ曲がる足と体・・・破壊された鎧部分から見えるものは・・・黒く赤く染まった何かの物体。
体の不調を調整しながら羽を引きずり体を引きずって前へと進むエブナエルは。
鎧の状態を見て・・・
『死んだか?だが!』!怒りの形相をあらわにすると手に黒い色の槍を構える。
鎧の中の肉が蠢いた気がしたからだ。
『何も残らぬように消し去ってやろう!安心しろ寂しくないように貴様の仲間もすぐに送ってやるぞ。』
と黒い槍は投げられた。
その時兜の目の部分に目が覗いた。
ゴブリンキングは考えていた。
コーマってどこにあるんだろうなぁ~?
身体があるうちは体のほうなんだよね・・・
でもなくなったら?
今のわしのように存在感だけになったら?
ああ、そうか・・・アレわしの肉か・・・
あの中にいるんだな!
おい!!
コーマの野郎!!消えたくなかったらわしを助けろ!!
そうしてわしは多量の瘴気をまき散らしながら、不器用に鎧を立たせた。
同時に。
『食い尽くせ!!ベルゼビュート!!』と叫ぶ。
わしに向かって飛来する黒い槍が消滅し、その線上にあったエブナエルの右半身がごっそりと消えた。
『ぐ?馬鹿な!喰われた?それにその名は!!』
ありえない。
その様なことは・・・その名を持つ存在は?あの地に存在している。
それならばなんだ?
何故サーチしたとき名前が消えていた。
何らかの関与・・・強力な・・・まさか、ありえないがこいつグラトニーとグリードを合成したのか?
あ奴らは互いの吸収する事や力を奪う事は出来ないはずなのに何故だ?
いや・・・強力な関与・・・まさか・・・我らもまさか・・・それだけの為に・・・ありえん、それだけは認められない!!
あの中のコーマは、ベルゼビュート様の分体。
ならばまだ私にも勝ち目があるはず。
そう考えながらも体に再生に注力するエブナエルは、それに対して違和感を感じていた。
身体の能力が奪われていくのはこやつが現れてから続くものだが・・・体の修復がうまく・・・腐っている、腐敗が起きているさすがだ、あのお方が私をむしばんでいるのだな?
だが、ああなったまま動かないあ奴に何ができる?
あ奴に近づく喰われ腐らされる・・・それならばなんとか空に飛び攻撃を。
何だか動きの悪くなったあいつにベルゼビュートをけしかける。
何度か体の一部を喰ったようだ。
そして腐敗を植え付ける。
身体がジュルジュル蠢いて肉が膨れていくのを、存在感だけになったわしはチラ見する。
まだ体に戻るのは無理だな。
飛ぼうとして羽ばたこうとしたら左主翼が腐り落ち飛べずにたたらを踏むエブナエル。
『くっ』
消耗によってやつれた顔もまた魅力的だ。
はいはい。
わしにはホーリィというなぁ~。
右手に黒い槍を召喚、こちらに向かって投擲しようとしたとたんにその腕がずるりと崩れた。
『ここまでとは!だが!』
と左手に持ちかえる。
そして崩壊した右腕の残滓で補佐しつつわしに向かって来る。
困った。
わし体置いて逃げるしかないかな?などと考えていたら。
地面から無制限に現れた不気味な虫たちが嵐のように堕天使に襲いかかった。
たかり肉をむさぼるその虫は牙を持つハエのような存在だった。
その存在を振り払おうと不可視の障壁を展開し排除した、しかし、ダメージがそれを上回っていたが・・・
わしに向かって蠱惑な笑みを浮かべて黒い槍は投げられた。
同時に多量の魔法を無詠唱で放つ。
これで終わりだとばかりにだ。
空間を満たす破壊・・・は、起こらなかった。
ボトリ!
ゴトリ!
と音がしただけだ。
わしは音のした場所に行き、落ちている左手を口にほうばる。
咀嚼しつつ。
うまいなぁ~直に喰ってみたかったが、これしかないのが残念だなぁ~。
などと思いながら。
『おい!まだ生きてるんだろ?』と、美しい髪の毛を鷲掴みにして持ち上げると・・・
『認める訳にはいかぬ~!このようなことなど~』と譫言のように呟いていたが・・・その顔が右側から腐っていき目玉が転がり落ちる・・・それと同時に。
彼女の顔がわしの首に鎧にだが食らいつき、そして自爆した。
爆発に巻き込まれた鎧の部分が破壊されたがその頃にはわしの体は再構築されていた。
首を鳴らしながら辺りを見渡す。
そういえば、目玉がどっかに転がっていったよな。
それでも食うか。
あ、あったあったと拾い上げる。
そして、摘まんで口に~
と・・・ピキッっと音が・・・
割れた目玉から小さな天使状のものが現れた。
わしのほうを見て怒っているようだ。
ブンブン飛んでわしの毛を引っ張ったり鎧を叩いたりウザいので。
ふむ、《誘惑》と《プレジャー》をかけてみた。
『だ~れが、あんたみたいなブサイクに~!』などと言うので煩わしいので一回しまっておくことにした。
しまわれた天使は・・・考えていた。
闇の月の王の目的が私の考えている通りならグラトニーにグリードを喰わせてあの方の分体を作った、そして、神力の発露を得させるために・・・我らを喰わせる・・・ならばその通りになるかを見定めよう、私の力の回復と共にこやつらを滅ぼしてしまえばいいのだから・・・だが、この小さい体では、、この意思を維持しきれるだろうか?
そんなことを考えているとはつゆ知らず、わしは自身のカウントダウンの開始に気が付きながらこれだけはしておかないとなぁ~っと思った行動をすることにした。
何のカウントダウンかって?
《王の進軍》だよ。
わしの体の再生は、驚くスピードで治った。
やっぱりあのコーマが手を抜いてたようだ。
わしが来たのは、元エルフ城つまりコボルトキング事ハクの城に遊びに来た。
女性に囲まれてキャッキャウフフとされている、ハクに声をかける。
さも邪魔そうなものが来たというような顔をする女性陣を無視しつつ
『ゴブリンキング様ではないですか、このようなところにお忍びでお越しになるとは?お呼びになられれば飛んでいきますものを。』とハクは恭しく跪こうとするそれをいさめ。
『時間がないのでな、単刀直入にな。』と、わしはニヤリと笑いながら、腰のあたりを紐で括られた小さな天使を見せる・・・わしの方を見て暫く悪態をついていたので。
『ハク申し訳ないが、魔神モードになれ、今すぐなれ、早くなれ。』とわしが言うと。
キョトンとした顔でハクが『ハァ?』という感じだったが魔神モードに・・・
着流し姿の見目美しい美男子へと変わった。
周りの女達から黄色い悲鳴が上がる、中には失神するものが出たほどだった。
『これでよろしいですか?』とハクがわしに声をかけたその時。
うるさいなぁ~犬顔の奴に用は・・・と言ったところで小さな天使の声が止まった。
暫くハクのことを見つめて固まった後。
ハクの左頬にしがみつき『七回結婚して!!』と言って目がハートマークになった。そのまま置いて帰ろうとするわしにハクが。
『これは一体?』
『まぁ、大事にしてやってくれ。そいつは元堕天使。さっきまでわしと闘っていた奴の成れの果てだ。』
『え?え??え~!』とハクの叫び声とともに、周りに寄ってくる女どもに罵声を浴びせる元堕天使。
こうしてわしは邪魔者をハクに押し付けることに成功したのだった。
よしよし、ちっとは苦労しろ~




