ゴブリンキングの輻輳 その21
オーガクィーンのビシュヌは、個人的な悩み事をついに自分の重鎮たちに話した。
『このまま、隙あらばかの国を落とすという姿勢が正しいのか?』
『その姿勢は間違っておりません。しかしながら・・・・』と重い口を・・・
『なにか?』
『かの国と我等との力の差をかんがみれば・・・』
『そうか、わが国は霊峰におわす土地神様のおかげで実りにも民の安寧にも恵まれた。しかし、民の存在変化は止まり。かの国との武力のひがの拡大・・・・経済においての他国との係わり合いをかの国が広げているにもかかわらず、わが国ではない。ならば、わが国はかの国の傘下に入り協調していくほうが発展が望めるのではないか?』
『しかし・・・我等が彼らに屈するのは・・・・』
『で、あろう・・・・わらわも同じぞ。その考えでとまっておった。だが、いつ牙をむくか分からぬ、われらに対して。今回このような情報を出したばかりか防御方法、対処の対策まで行う・・・・お人よしぶりじゃ。』そして、フフフと笑った。
『たしかに。たしかに。』おうぎょうに頷くも、賛成とも反対とも言わぬ重鎮。
『昔であれば、相手はゴブリンの王じゃったが、今や魔王・・・わらわとて歯が立たぬ。』
『そんな!』
『いや、事実であろう?』
『・・・・・・・さよう。』
『であらば、こう考えることにした。
奴に利用され利用し我等を強くする。
たとえ民の血が流されることになろうとも協力し力をつけるのだ・・・そして、その後・・・奴が隙を見せることがあらば・・・・その時が来るとは思えぬが。』と笑った。
『そのような気弱な!』
『決めたぞ!かの者に下る!そして、力を得よう!!民に伝えよ!!そして、反対意見を聞け!!反抗するものがいれば、わらわが説得しよう。』と、酷薄に笑う、それは獣のような獰猛な笑みだった。
しばらく後、オーガクィーンのビシュヌは第二ゴブリン城で魔王の姿になっているゴブリンキングに会う。
ゴブリンキング達は、立ち話になることを謝りながらも真摯に対応した。
『取り込み中すまんな。』とビシュヌ
『こちらもバタバタしててすまんな。』
『ああ。すまん、どうしても今言わなければならんと思ってな。』と思いつめた顔のビシュヌ。
『で?なんだ?技術協力か?それとも経済協力か?』
『いや、わらわらを貴様の傘下に・・・』
『なんで?』
『は?』
しばらく二人は固まった。
ビシュヌの連れたお供の鬼人二人が険悪なそぶりを見せる。
自分の主が馬鹿にされたと思ったんだろう。
『なんでだ?だって、お隣さんだろ。まぁ、ちょっと危険なお隣さんだったが・・・・前いろいろ助けてくれたじゃやないか。感謝してるんだぞ、わしは。なのに傘下になるだ~。馬鹿かお前。』
『な!なんじゃと!!凄く悩んで決心したんだぞ!!そんな、わらわを馬鹿だと抜かすか!!』
お供の二人の手が武器に伸びる・・・・
『『同盟で。』』とメアリーとゴブリンキングが同時にビシュヌに右手を差し出す。
『うっくっ!』と固まるビシュヌ。
しばらくして。
『これ!どっちの手をとれば?』
『『もちろん、こっち!!』』と、二人が同時に答えた。
困った顔でビシュヌが笑った。
『さ~て、同盟も結んでもらったし。ビシュヌさんとこにも協力してもらうよ~』わくわくほくほくとメアリーが、何か考えながら意気揚々と部屋から出て行った。
『なっ?』と、ビシュヌ
『あ~。あきらめろ~この国では、あいつが一番危ない生き物なんだよ。魔王でもお構いなしでハリセンで叩きのめすしね。』
ビシュヌはちょっとだけ早まったかと引きつった顔で後悔した。
『・・・・・搾取のエリア・・・・・ん?・・・・大丈夫・・・・』
《念話》でマツハと話しながらアンチマジックなどの障壁を重ねがけしていく吸い取られ消されていく障壁の量に負けないように障壁魔法をかけ続ける続けていける限り搾取のエリアの影響は受けないでも・・・一人で続けていくのは無理・・・でも、近くにいた冒険者達が《念話》《遠話》で話し合いながら、状況を確認。
すぐに自分のもとに知らない冒険者たちまで集まってきて声をかけてくる。
『大丈夫?カリンちゃん。換わるよ!!』と、男の魔法使いが障壁を張る係りを換わってくれた。
『何人かここで障壁はれ。交代でだ。』
とか、反撃しなくちゃ。
どうする?などと話し合っている。
空。
それも高空を飛ぶ空飛ぶ商店街には風除けの障壁がもともと張ってあった為、異常事態に気がついた。
飛んで移動しているこちらが魔神達の攻撃を受けるとは思わなかった為に、メアリーが対処していなかったが風除けの障壁が搾取のエリアにかき消されるのを肌で感じたカリンの師匠譲りの感性による対応が皆を救ったのだ。
なぜか搾取のエリアに固定され動けぬようになった空飛ぶ商店街は今や魔神の城から飛び立つ眷属やガーゴイルの、まとになってしまうだろう。
こちらからの攻撃は魔法攻撃が主になるかもしれないが、搾取のエリアがある限り・・・・外に対しては・・・・
『カリンねーちゃん、俺行ってくるよ。』
は?馬鹿か!
ちょ!
お前羽ねーだろ!!
などと声がエッジに向かって放たれる。
が、エッジは。
『大丈夫!大丈夫!かーちゃんに落とされる崖よりここ高いけど何とかなるって~』と、笑いながら言う。
『・・・・・隙間・・・・・・空ける・・・・・・』
『あんがと。ねーちゃん。』と背を向け箱舟のとまる桟橋の一つに走るエッジ。
おい!っと止めようとするものもいるが。
『平気平気待っててよ。』
しばらくして《念話》で、エッジから『いいよ~。ねーちゃん。』
搾取のエリアを無理やり障壁でこじ開けて穴を開ける。
ただ無理やりなので、魔力の消耗は想像できないほど大きい、一気に顔色が変わるのを周りの冒険者に見られるがかまわずカリンは左手に《爆砕》の呪文を用意してエッジに打ち込む。
『どわ~!!』
後ろから不意打ちをうたれたエッジはこじ開けられた穴から落ちながら
『う~らら~!!』と叫びながら落下する。
自殺だ!
飛び降り自殺!
それもカリンちゃんとどめさした!
などと声が聞こえるが・・・・
『いって~よ!!ねーちゃん。』
『・・・・・・援護・・・・・・』
本人に打ち込んだよね?と、声が聞こえた。
カリンは眩暈を起こしたのかふらっとしたところをアーノルドに支えられながら魔力回復のポーションを受け取って飲んでいる。
しね!
爆発しろ!
リア充蒸発汁!!
などと妬みの言葉が心地よく響く。
投身自殺したエッジは、空中で眷属やガーゴイルを踏みつけ両腕に持った斧で切りつけることで速度を殺しながら着地する。
まさに崖を突き落とされながら編み出したダメージコントロール法・・・・普通死ぬって・・・・・
『かーちゃん、あんがと俺生きてる。』目と同じ幅の涙を流しながらそういうエッジ。
『・・・・・・・早く、やれ・・・・・・』と、アーノルドにもたれかかったままのカリンから《遠話》が飛ぶ・・・もちろんカリンのこめかみにはうっすらと血管が浮かんでいた。
その時、《王の進軍》がかかる。今起きていることの大まかなことが分かってあわてて身を起こすカリン。
『・・・・・ここと同じ・・・・・あちこち・・・・・・・』
『え?これってあちこちでおきてるの?』
と、《遠話》で連絡を取り合う冒険者。
全員が青ざめている。
『城~あれかな?見っけ!突撃~!!』と抜けたセリフが《遠話》で、皆に伝わると・・・笑いが飛び出る。
冒険者は強い。
体だけじゃなく心も。
よ~し、あの馬鹿ががんばってるんだからやれっことすっか~!!
と、作戦を練って簡単な打ち合わせそしていっせいに行動を開始した。
眷属を蹴散らしながら進むエッジ。
空飛ぶ商店街ではよろつく体を起こし。
でも、アーノルドに寄りかかったままで・・・・
くっ!爆発しろ!
などとの声のちらほら聞こえる中だが。
矢を無限袋のポシェットから取り出すカリン。
『・・・・魔力転換・・・・・追尾・・・・貫通・・・・・爆裂・・・・・・・増殖・・・・・・増殖・・・・・増殖・・・・・』手のひらの矢が光、魔力の矢になったと思ったら空間上に魔力の矢がひしめき出す。
額に汗が浮かぶカリンかなりつらそうだ。
再び障壁を無理に動かし搾取のエリアを開く。
『・・・・行け・・・・』師匠直伝魔法の発動である。
多量の魔力の矢が地に広がり魔神の城周辺にひしめくガーゴイルと眷属達に襲い掛かった。
爆発があちこちで起きる・・・
おお~!っと、冒険者から声が上がる。
『いてーよ!カリンねーちゃん!俺にもささってるよ。』
ずっこける冒険者達。
『・・・・・・・援護・・・・・』
『だから、ささってるって。』
『・・・・・援護・・・・・』
『・・・・だったらしょうがないか。』
『『『『『しょうがないのかよ!!』』』』』』』
わーい!!と、エッジが城に取り付き。
斧を一本づつ左右の手に持ち。
城門を破壊して内側に蹴り飛ばし中に入る、もちろん中で城門を守っていた者達は城門自体に潰されて光の粒子になっていった。
『おし!どこだ?』
それからは。
どこだーーー!!ドタバタバキドカドカーン!!
こっちかーーー!!メキメキボボーーーン!!
などと眷属と扉や壁を眷族を巻き込みながら破壊しながら進むエッジ。
皆がこいつもしかして城の中で迷子になってないか?と、ちょっとゲンナリし始めたころ。
ここかー!!ドドーーン!!っと、扉を蹴破る。
『何が来たかと思えば、ホブゴブリンではないか?毛色は違うようだが?』と、魔神が言った時はじめて、冒険者達は気がついた。
そうだよ、忘れてたよあいつなんだか自信満々だし強いから・・・・そうじゃん、あいつホブゴブリンじゃん。
『だね~。俺まだ、ホブゴブリン。でもね~ちょっと違うよ。』と身構える。
そこに、魔神からの魔法の束が飛ぶ。
かなり回避して見せるが、数発当たって後方に吹き飛ばされるエッジ。
壁に亀裂を作りながらめり込む・・・だが、そこから跳ね起きて。
階段付きの玉座に向かって走るエッジ。
『ん?しぶといな。だが、これならどうだ《アトミックレイ》』
ぐわっ!!腹に直撃を受けて後方に吹き飛ばされた。
だが、ゆらりと立ち上がるエッジ。
口に溜まった血を吐き出し。
口を手首でぬぐう。
『ん?なぜ穴が開かない??傷が無いだと?』
『いって~!!』とエッジ
だが、魔神は余裕だった。
現時点でこいつは立って入るがダメージが無かったわけではない、むしろ相当ひどいはずだ。
《アトミックレイ》再び光線がエッジを襲う。
ニヤリと笑うエッジ
《バルキリーブレッシング》裸の上半身に光る鎧のようなものが出現する。
走るエッジ。紙一重で回避したが、わき腹をかすめる光線。
光る鎧が消えると同時にわき腹から血を噴出すもスピードを落とさない。
《バルキリージャベリン》×6
エッジの周辺から光の槍が魔神に向かって放たれる。
魔法の盾が光の粒子を散らして消える。
階段を走ったまま登りあがりながら・・・
《練気》《気闘法》《炎の加護》《雷の加護》
と白、青、赤、雷の雷撃の色をエッジが纏う。
『おろかな、そのようなことをやったとしても私には何も届かない!』
『そう?』
ダメージ遮断の障壁と魔法の盾はそれほど厚かったのだ。
だが。
《ダブルアックストルネード》!!
と叫ぶエッジ。
発動する技。
吹き飛ばされる、魔法の盾。
『まだまだ~!!』もう一回発動する技。
『もう一ちょ~!!』と、さらに発動。
目を見開く魔神ダメージ遮断の障壁が吹き飛び護りの無くなった、魔神は、波動をエッジにぶつけた・・・・だが。・
『こ・れ・で・・・どうだ~~~!!』と、もう一度発動させる。
『ぐっぎゃ~~~~~ああああ!!』と、血しぶきを上げ玉座ごと破壊され階段から落ちる魔神。
波動の直撃を受けてあちこちから血を噴いているがエッジは・・・
『お前の攻撃なんか、とーちゃんの拳骨や、かーちゃんの訓練に比べたらたいしたこと無いよ。それにさ~なんで、魔神って・・・自分にとって不利益になる場所にいるんだろう?闇の精霊シエイドよ・・・・』闇の精霊がわらわらと現れて球状になり命令を待つ。
『・・・かのものの精神力を奪え!!』といったと同時に襲い掛かる闇の精霊達。
もはや動けないところに襲い掛かられ精神力を奪われる魔神は耐えることができず昏倒する。
そこに止めを刺したエッジは。
『消える前に喰う。』といって喰い始める。
『うまくはないなぁ~』といいながら笑った。
食べ終わって宝物庫のある辺りに移動したときには、城が光になって消えていった。
お宝を収納袋にしまいこみ。
赤い液体の入った瓶を見つける。
『ワインかな?』
といいながら一本飲んでみた。
傷が治って技と魔法を使った時に起きる気だるい感じもとれたので。
『さ~て~行くか~!つぎつぎ~。』
俺は、走り出した。




