ゴブリンキングの輻輳 その18
スパークはゴブリンキングの話を聞いて大変なことが起きたのを理解した。
ゴブリンキングは大勢の者たちを守らなきゃいけないから対応に時間がかかるだろう。
でも、自分はそうでもない。
森に帰ってみんなにゴブリン城に、しばらく避難するように命じた。
みんな遊びに行きたがっていたので、楽しげだった。
まぁ、しばらく住民たちと遊んでいればいい。
きっと楽しいぞ。
自分は問題の地に向かうことにした。
道中他のペットやペットモンスターに混じって馬車に乗せてもらったり、馬やロバ、時には穏やかな魔獣の背に乗せてもらって移動したり、時には魔物に襲われている商隊を救ったりなどの冒険をしながら・・・
やれやれ、かなり現地に近い場所に着いた・・・小さな町。
近くには、畑や牧場があり牛や馬、羊やヤギがいた。
町の中にまで鶏や犬猫が闊歩する。
のどかだなぁ~。
教会の鐘が鳴りお昼を知らせる。
そういえばおなかがすいたなぁ~。
でも、そんな町でも近づく恐怖について語り合っていた。
どこそこの村が・・・・町が・・・親類と連絡が取れないなど・・・・
不安が隠せない。
店の何件かがしまってる。
避難しているのだろうか?
ふむふむ。
ぽいーん、ぽいーんと跳ねながら聞き耳を立てていると・・・いきなり真後ろからすくい上げるように抱えあげられる。
『あなた、すらいむ~?』
『ぴっぴぎゅ~?』体をひねり後ろを向くとそこには茶色の髪の毛の女の子がいた。
シロさんみたいなクルクルの髪の毛でキラキラとした大きなつぶらな目で見られると抵抗する気もうせた。
まぁ、こういう場合逆らってもろくなことがない。
めいいっぱい甘えた声を出し媚を売ってみることにした。
『きゅ~ぅ』
『決めた!』
ん?なんか決められたぞ???
『あなた、スラ太郎ね。』
あん?私にはスパークって名前が・・・・
『ネ~スラ太郎。決まり~スラ太郎。』
何さ、その太郎って・・・・
抱き上げられ自分の頭より上に持ち上げて、私を持ったままくるくる回り、スラ太郎を連呼される。
少し困ったが、小さい子のすることだ我慢だ。
その時、私のおなかが空腹を告げる音を発した。
ぐ~きゅるる!!
『おなかすいてるの?』
ウンウンと頷いて少し両目に涙を浮かべてみる。
いいだろ?媚びても。
両手でギュッと私を抱えたまま走り出す女の子。
どこにいくんだろ?と思っていたら。
どうやら彼女の家に行ったらしい。
いきなりモンスターである私が行ったらどうなるか想像に難くはないが・・・・大丈夫か?
案の定、母親から捨てて来い!と怒られている女の子、腕に力が入りちょっといびつにゆがむ私。
泣き出す女の子。
う~む、これでは困るので・・・・キラキラと懇願する視線を母親に向けてみる・・・そして、媚び媚びの泣き声をプラスしてみる。
そして最後にフルフルとその身を小刻みに震わせ涙目で上目使いをトッピングだ。
『ぐはっ!!だめ、そんな目で見ないで・・・・わかったから。今回だけだからね。』
『駄目だ!そいつはモンスターだろ。あのモンスター達の仲間かもしれないじゃないか!!』
奥からマッチョイ親父が・・・
『だって、パパ・・・』と、女の子。
さらに泣き出す。
おお、この子の父親か。
女の子に泣き出されるとオロオロしちゃうとこ見ると、そんなに悪い人ではなさそうだ。
と言う訳で、母親にやったような最強の攻撃を見舞ってやった。
『くっ!いいだろう・・・・ちゃんと面倒見るんだぞ。』
『うん!』と、さっきまで泣いていたのにうって変わって満面の笑顔だ。
いやはや、いくつになっても女性というものは恐ろしい。
女性といえば、メアリーさんからの頼みごとも突飛過ぎるので大変だった。
でも、あれが何になるのだろう?
ああ、そうだ。
おなかが減ってたんだった。
盛大な腹の虫の合唱を響かせ、私のおなかは空腹の大アピール中だ。
すぐに、食べ物をもらった。
野菜や肉・・・ゴブリンキングのところとは違うがなかなかにおいしいご飯だった。
私が食べてる間も『おいしい?スラ太郎?』と、私をなでる女の子。
『ぴきゅ~』と鳴いてみせると女の子は喜んでくれた。
大人たちはそういえば私が鳴き声を上げているのを不思議そうに見ていた。
スライムが鳴き声?
どこぞの魔法使いが自分好みに改良したんだろうってことで話が落ち着いたようだ。
うむ、ちょっと考えて行動しないといけないなぁ~。
明日からは、町の周辺を女の子と一緒に回っておこう。
花の冠を作って遊んでいた女の子は私にそれをかぶせて喜んでいた。
あれ?結構楽しくなってきていた。
そんなある日、家の前の道で女の子やその友達の子供達と遊んでいた私の前を何か先の開いた筒のようなものを持った馬に乗った男が大声で叫びながら町を通過する。
あの筒は、声を大きく響かせる魔法の道具なのかな?と、思いながら子供達と通過するそれを見ていた。
『ダークゴブリン!!北上中!!』と、叫んでいた。
父親と母親達が小さな荷物を持って子供達の名前を呼んでいる。
私を『スラ太郎・・・』と、不安げに抱きしめる女の子の手を引き両親とともに町の中央の砦のような場所に移動する。
分厚い両開きの扉が開かれ衛士達が『急げ!地下に向かえ!!あせせるな!階段がある!!』などと叫んでいる。
何度も訓練(実戦か?)もあったのであろう。
皆冷静に淡々と行動している。
その町を守っている衛士達の緊迫した状態を見るとやはり何か大変なことが起きているのだろう。
私はそれが何なのかそれをとめようと思ってこの地に来た。
ゴブリンキングより先に動けるのは今は私だけだと信じて・・・・
そのときは今迫ってきている。
両開きの扉が閉まろうとした時、私は見た・・・・赤い網のような巨大な丸い屋根の鳥籠のようなものが・・・




