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厨二病患者の躾方

作者: 空色

初投稿です。

生暖かい目で読んでくれたら、幸いです。

―俺の名前は片山健斗。年齢=彼女いない歴が欠点な、ごく普通の高校生だ。


正直にいうと、今までの俺は彼女を作る事にあまり興味を持っていなかった。


でも、そんな俺も本気の恋をした。


俺の恋した相手は校内でもマドンナ的な存在の黒野先輩だ。

流れるような長い黒髪が綺麗で、お淑やかで、天使をも思わせるその慈悲深さ、とても素敵だ…。



そんな彼女に憧れる奴は多く、何人もが告白をし、何人もが涙を飲んでいる。


俺もそんなヤツらの一人でしかないのかもしれない。でも、初めて本気になれた恋だ。いけるとこまでいってみたい、という気持ちが強い。


俺のような人間がそう思えることは、あまりないのだから。




……などと、最近まで考えていた。


…なぜ過去形だってか?


何故ならば、その憧れの先輩自身によって俺の理想は粉々に砕かれたからだ……




 ◆  ◆  ◆





あの時の俺は、ある意味純真無垢だったのかもしれない。

今から、その時の俺の話をしようと思う。






―初めて本気になれる恋。そう思えた俺には、熱い衝動がみなぎっていた。

もうとにかく先輩の為にに何かしたかった。


だから、俺はまず初めに学校帰りの先輩を尾行することにした。


……べ、別に変な意味はないぞ?

ほら、暗い夜道を1人で帰らせるのって、とっても心配じゃないか。



だから、先輩のために、先輩のために!(大事なことなのでry)ストーキングすることにしたんだ。



……本当ですヨ?



俺は素早く物陰から物陰へと移動する。


前方には先輩。

先輩の表情はこちら側からは確認はできない。先輩は俺の存在に気づく様子も無く、人気の少ないビル街を静かに進んでゆく。


俺はと言うと、先輩から5メートル以上の距離を保ちつつ、足音を最小限に抑え、なおかつ帽子とマスクを装備をしていた。


えっ?どう見ても変態だって?普通だよフツー。


とにかく、あの日の夜は月明かりが明るい夜だった。その日の先輩は、学校で生徒会の仕事を手伝っていて遅れたのだ。


先輩はいつも生徒会役員でもないのに、生徒会の仕事を手伝っている。

そんな所も先輩の人気の一つの要因だろう。


やっぱり、先輩は素敵だなぁ〜。



おっと、そんな事を考えている場合じゃない。先輩を見失ってしまうじゃないか。


そんな事を考えているのと同時に先輩は、ビルとビルとの間の薄暗い裏路地に入って行ってしまった。


ヤバい、見失ってしまう…。


俺は焦りながら、先輩の入っていった裏路地へ入って行く。


その裏路地に入った瞬間、若い男のいやらしさを含んだ声が聞こえてきた。


「だめでしょ〜お嬢ちゃん。こんな遅くまで遊んでちゃ〜」


…!?

先輩がDQNぽい男達に絡まれてる!!

どうしよう!どうしよう!助けなきゃ!

でも、俺が出て行ってどうにかできるのか!?


しかし、俺があたふたしていても悪い状況は進んでいく。


「そうだよ〜。じゃないと俺達みたにのに絡まれてるからなぁ〜イッヒッヒ」


もう一人の男が気持ち悪い笑い声をあげる。

そして、馴れ馴れしく先輩の肩に手を回した。


テメェ〜汚い手で先輩に触れるなぁ!


そんな事を思っても、口に出せない俺が情けない。


そんな時、先輩が何かを呟いた。


「…………れるな」


「…あぁ?」

肩に手を回した男が訝しめに呟く。


今度の先輩は男達に聞かせる様に強めに言葉を呟いた。


「……汚い手で私に触れるなと言っている」


「ぁあ!? んだと!? なめてんのかゴラァ!」


先輩が言った言葉に怒りを露わにするDQN


「うるさいな、少しは黙らないか。貴様ら」


「んだって!?アァン!?」


「同じようなセリフしか吐けないのか、貴様らは? これだからバカは困る」


先輩はそう一通り挑発した後、どうでもよさげにDQN2人の間を抜けようとする。

だがもちろんDQNたちは逃がそうとせず、1人が叫びながら先輩の肩を掴んだ。


「おいおい、なめてんじゃねぇぞオラごふっ!」


その瞬間飛び出したのは、先輩の回し蹴りだった。

たまらず、肩を掴んだ1人は吹っ飛ぶ。唖然としているもう1人にも、ついでとばかりに踵落としをお見舞いする先輩。

2人とも一撃で完全に落ちていた。


「だから触れるなと言っただろうが…」


言葉を残して、先輩は何事も無かったように立ち去っていった…。


……何、あれ?



ああ、分かった。これは夢だ。俺が先輩を考えすぎの所為で変な夢を見てるんだ 。


こういう時は頬をつねればいいんだっけ?


俺は勢い良く頬をつねる。かなり痛い。


頼む、夢であってくれ。俺は今ベッドで寝ていて、明日はどうやって先輩に近づこうかなとか考えてるんだ。


しかし、俺の願いは儚くも崩れさった。


痛い。かなり痛い。超痛い。

爪が食い込んで少し血が出てる。


……やっぱり、夢じゃ…ない……?


「う、嘘だ!

俺の知っている先輩は優しくて、清楚で、みんなの憧れで…」


溢れ出てくる感情が口から零れる。

それぐらい、驚いたのだ。

だって、お淑やかで素敵だと思ってた憧れの先輩が、DQNをバッタバッタと倒していた場面に遭遇したんだぞ!!


「それは全部、君から見た私の姿であって、本当の私ではない」


俺が一人頭を抱えていたら、どこからか声が聞こえてきた。


この声は……まさか…!?


「しかし、実際に私が言ったことは正しくはない。私の中での私も本当の私だが、他人の中の私も本当の私とも言える。

勿論、君の中の…私もね」


やっぱり……先輩だ!!

普段と大分、口調が違うけど、先輩だ…!


「人というものは所詮、外的な要素から形成される。だから、どの人の中の私も本当の私と言えるんだよ」


……さっきから先輩は何を話しているんだ…?


本当の私がどうとか…。


「つまり、このような話し合いは不毛なのだよ少年」


少年て俺の事だよな…

折角、憧れの先輩とはなせるのにチッとも喜びが湧いてこない…。


先輩が普段と雰囲気が違い過ぎるからかね…。


取り敢えず、俺はその事について訪ねてみることにする。


一応憧れの先輩なので少し緊張しながら。


「あ、あのぉ…一つ聞いても良いですか…?」


「ん?ああ、構わないぞ少年」


先輩の視線がこちらに向けられる。

やっぱり、少年て俺か…。


「普段と大分雰囲気違うんですけど……学校ではやっぱり、猫かぶ……やっぱ何でもありません…」


流石に憧れの先輩に猫被ってるなんて聞けないよな…。


しかし、先輩は俺が思ってもいなかった答えを返してきた


「なに、ただ単に昼の人格と夜の人格が存在しているだけさ」


………ウェ!?(゜Д゜)


今先輩はなんて言った?

昼の人格?夜の人格?

はぁ?


思わず俺は先輩に聞き返してしまう。


「昼の人格…夜の人格…ですか…?」


「ああ、その通りだ」


ああ!

僕ちん分かっちゃった!!

この人、ただの厨二病だ!!


分からない人の為に説明すると、この先輩みたいなこと言っちゃう……イタい人の事です……


「厨二病……乙……」


思わず頭を抱えたくなった。


「何を言う、断じて厨二病なのではない!!」


先輩が少し怒ったような反応を見せる。


本人は否定してるけど、誰がどう見ても厨二病だよ…。


「じぁ、学校でもその人格が出たりしないんですか?」


「そ、それは…昼間には出てこない設定だし…知り合いも沢山いて恥ずかしいし……私にもイメージとかあるし…」


設定とか、イメージとか言っちゃったよ、この人!!


「あれ?イメージとか、関係ないんじゃありませんでしたっけ?」


「う、うるさいっ!!少しは黙れ!!」


いきなり逆ギレ!?

一体なんなんだこの人!?


そこで俺は先輩へのよくわからない恐怖が生まれ、逃げるように来た道を戻った。


後ろで先輩が何かを言った気がしたが、聞こえなかったフリをした。




 ◆  ◆  ◆




夜、布団の中で考えるのはもちろん先輩のこと。


(先輩って、あんなおかしな人だったのか…)


普段の昼間の姿とはまったく違うあの姿に、俺は正直ビビっていた。


なんだよあれ。

怖ぇーよ。

変人にもほどがあるよ。

もう好きとかそういうレベルじゃねーよ。(とりあえず、寝よう…)


先輩のことは少し気になるが、それについて考えるのは明日にしよう。


願わくば夢であってくれ…。


結局、俺の願いは届かなかった…。




 ◆  ◆  ◆




次の日の放課後、俺は突然先輩に呼び出された…。


学校の空き教室にて、俺と先輩は無言で向き合っていた。


誰かがこの状況を見たら誤解されるであろう。言っておくが色っぽい雰囲気は皆無である。


俺からしてみれば、DQNと呼び出されたのとと大して変わらない。


先輩は思案顔で俯いている。ココに来て話していいものか悩んでいるように見える。


…呼び出したんだから早く用件を話してほしいものだ。


朝、机の中に入っていた手紙を見つけた時はドキドキしたが、宛名に先輩の名前が書いてあったのを見た瞬間気持ちが萎えた。


内容はこんな感じだ。


『片山くんへ。

昨日の件でお話があります。放課後、三階の空き教室に来て下さい。待ってます。


黒野恵より』


と、短い文章を女性らしい丁寧な字で書かれていた。この文章の雰囲気からは、あの厨二病な先輩は想像し難い。


しかし、昨日今日の出来事だ、いまだに鮮明に覚えている。


ついでに言うと、(めぐみ)とは先輩の名前だ。


そんなこんなで、放課後に三階の空き教室を見回って、先輩を見つけて今に至るわけだ。


俺が脳内での回想を終えても、先輩はまだ考え込んでいた。


いい加減話して欲しい…。


俺が苛立ちを覚えて始めた頃、先輩はようやく重い口を開いた。


「よ、よく来てくれた少年。君を呼び出したのは他でもない、私にき、協力して欲しいことがあるのだ」


協力?突然なに?

てか、何でこの人こんなにどもってんの?


「協力…ですか?」


「あ、ああ。その通りだよ」


何故か先輩の視線は泳いでいる。もしかして緊張しているのか?


一体どんな事を協力

させられるんだろうか?世界の支配構造を変えるとか?


そして先輩は意を決したように、顔を真っ赤にしながら、その協力の内容を口にした。


その内容に俺は固まる事になるのだ…




「わ、私のせ、性格を治すのをて、手伝ってほ、欲しいのだ…!」



………はぁ?(・・)

コノヒトハイッタイ ナニヲイッテイルンダ…?


「せ、性格を治すのを協力ぅぅ?先輩のをですか?」


「あ、ああ」


意味分からん…

昨日はあんなにノリノリだったのに…。


それを率直に聞いてみた。


「そ、それはな…私の中には、魔族の血をひく第二人格の嬰羅(エイラ)が出てきてしまうからだ…」


嬰羅とか、イタタタタタタ……。

てか、血をひく人格ってなんだよ…。

思わず額を覆う。


俺は先輩からとてつもない面倒事の香りがしたので、早急に退避することにした。

「ごめんなさい、無理です。他をあたって下さい。さよなら」


そう言って、素早く空き教室から出て行こうとした。


だが、俺の制服の袖を掴む手によって、それを阻まれた。


なんと、俺の制服の袖を掴んでいたのは先輩だった。いや、ここには俺と先輩しかいない訳だが…。


「お、お願いだ!今更こんな事、誰にも相談出来ない…」



先輩は俺を見ながら、必死な様子で頼み込んでくる。

そんな様子に思わずたじろぐ。


しかも、先輩は俺より頭一つ分小さく、自然と見上げる形になるわけで…。


その威力と言ったら、先輩じゃないけど今すぐ誰かに電話で

『機関からの強烈な精神攻撃を受けている!!』

って言いたいレベル!!


この人は多くの人の憧れで、当然かなり可愛い。

そんな人の上目遣いをくらって、断れると思うか?

無理だろ?


「つ、つまり、厨二病を治せばいいんですね?」


「…厨二病という言葉は気になるが、まぁ、その通りだ…」


先輩は相変わらず、捨てられた子犬のような目で見上げてくる。

しかも、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。



やめろよ。そんな目で見るなよ。抱きしめたくなるだろ。


「わ、分かりました。協力…します…」


「本当か!?」


結局俺は承諾してしまった。


そんな俺を、今度は満面の笑みで見上げてくる。


やばい…可愛い…。性格はアレだけど、やっぱり憧れの先輩だからな…。

手が勝手に抱きしめようと動いてるよ…。



すんでのところで手を止めた俺は、先輩に聞いてみる。


「協力といっても、まずはどんなことをしたらいいんですか?」


正直厨ニ病の治し方なんてわからない。

どうしたらいいんだ?


「そ、そうだな…。私のこの癖は緊張したときに出るのだから、まずは人との関わりに緊張しないようにしないとな…」


「なるほど、じゃ、具体的にどうしましょう?」


「こ、恋人ごっこをしよう!」


はぁ?

今、何をほざきやがったこのアマは?


「こ、恋人…ですか…?」

「そうだ!人間関係に慣れるには、やはり恋愛関係に慣れるのが1番だろう?」


「それは、そうかもしれませんが…」


いくらなんでもそれはねーだろ、という意味を込めた俺の視線をまったく気づきもせずに先輩は続ける。


「と、いうわけで頼んだぞ、彼氏役の片山くん?」



どうしてこうなった…



思わず俺は、頭を抱える。先輩はそんな俺の様子を気にした様子もなく、一人で話を進めていく。


俺はここで引き下がるワケには行かなかった。


何故ならば…


「ちょっと待ってくださいよ先輩!!そんな事したら、先輩のファンに俺が殺されます!!」

という訳だからだ。


たとえ、ごっこだとしても先輩のファンに見られたら……想像するのも恐ろしい…。


ていうか、この人に自覚はないのか!?


俺は必死に先輩を説得を試みる。


今までにない必死さを見せる。

実際に命が掛かっているからな…!



「お、落ち着いて下さいよ先輩!!厨二病を治したいからって、恋人ごっこなんて倫理が破綻してますよっ!!」


「だから厨二病ではないと言っとろうが!!」


「どう見ても厨二病だっ!!」


思わず強くツッコんでしまう。先輩は一瞬たじろいだか、直ぐに持ち直す。


「ハハーン、君は私に畏怖の念を感じているのだな。フッ、隠さなくてもよいぞ。この私、嬰羅は強すぎる力ゆえ、多くの者に恐れられているのだからな」

先輩がどや顔で厨二病を展開させる。


正直、uzeeeeeeeee!!そして、メンドくせぇぇぇぇ!!


いい加減にムカついてきた…。

なので、先輩の眉間にチョップをくれてやることにする。


俺のチョップを受けた先輩は、直ぐに涙目で文句を言ってくる。


「い、痛いっ!!な、何をする!?私に刃向かって、無事で帰れると―痛いっ!!」


まだ、厨二病を続けたのでもう一発チョップを食らわせてやる。


そのたびに、先輩が厨二病を展開させて、また俺がチョップをする。この繰り返しだった。


どれくらいたったであろう?


先輩が涙目で額を抑えながら大人しくなった頃、やっと俺のチョップ攻撃は終了した。

先輩がジト目でこちらを睨んでくる。そして、なぜか先輩は正座だった。


「…まだズキズキする…。こんな事をするのは君が初めてだ…」


先輩は眉間を撫でながら、グスッと鼻を啜る。少し涙声だった。さすがにやり過ぎたか…?


「この私が人間風情に………冗談です、冗談!!だからチョップはやめて!!」


先輩は俺が手をチョップの形にしているのを見て、とっさに眉間を手でガードの形をとり、目を瞑った。


まるで先輩を躾ているみたいだ…。


先輩は俺を見て、ビクビク怯えている様子だった。


取り敢えず、話を戻さなきゃな。


「先輩。一つ聞いてもいいですか?」


「…はい、なんでしょう?」


先輩は随分大人しくなっている。まるで、借りてきた猫状態だ。


俺がこの機会を逃す理由はない。

なので、疑問をぶつけることにした。


「厨二病を治すのはいいけど、普段の生活ではその症状はでないんですか?」


「……時々、言葉の端から漏れることは…あります…はい」


もう先輩は厨二病って言うところをツッコんでは来なかった。


「どうして、今まで猫被ってたんですか?」


俺は聞くまでもない質問を口にする。


「それは当然、そんなキャラじゃクラスで浮くに決まってるからです!!」


先輩は言い終わってから、直ぐに自分の失言に気付いて真っ赤になる。


…一応自覚はあるのか…。


全く、何なんだこの先輩は…?

厨二病の癖に、周りの反応を気にして、挙げ句の果てに、空回りする。



難儀な人だな…。


でも、俺は不思議とこの厨二病な先輩をほっとけないと思えた。自分でも分からない。不思議とそう思えたんだ。


「…ったく…。仕方がないですね…。恋人ごっこ云々は置いといて、手伝いますよ、厨二病治すの。よろしくお願いしますよ、嬰羅先輩」


俺がからかうような声で先輩に語りかける。


「…え…?う、うむ当然だな。人間は皆、私にもっと敬意を…イタッ!!だから、チョップはもうやめて!!」


ムカついたから、再び先輩の眉間にチョップを食らわせた。


全く、これからが大変そうだ…。




でも、そんな周りの環境の変化に胸の高鳴りをを感じていたのだった。    


 ◆  ◆  ◆ 



先輩との妙な関係が始まった翌日、俺は先輩に呼び出されていた。


場所は前と同じ空き教室。

他の人には見られたくないので、場所がそこなのはありがたかった。




「それじゃ始めましょうか、先輩」


さっそく声をかけると、先輩は不遜な態度で返事をした。


「うむ、そうだな。少年よ」


「もう昨日のシュンとした態度は終わりですか…。まぁいいですけど」


一旦咳払いをして本来の話に戻す。


「それで、今日は具体的にどうします?」


「無論、デートだ!」

先輩は当然だと言わんばかりの表情で、告げた。


……この人、昨日の俺の話を覚えてるのか?誰かに見つかったりしたらマズイというのに……。


そんな俺の態度にはまったく気付こうとせず、先輩は続ける。


「恋人とすることといえば、まずはやはりデートだろう?ふっ、そんなこともわからんのか。やはり貴様は童貞だな」


「おいこらふざけんな」


思わずツッコミと同時にチョップを繰り出してしまった。

すると先輩は昨日のことを思い出したのか、なんだかしおらしくなってしまう。


……まったく、この先輩は……。


その話し方がマズイということにいい加減気づいて欲しい。


先輩はシュンとしたまま喋ろうとしないので、しかたなく話を進める。


「それで、デートですか」


「はい…」


まぁ確かに、誰かに見られる危険性があること以外は悪い案ではないように思えた。


「しょうがないですね。しましょうか、デート」


「ホ、ホントにっ!?」


「はい、いいですよ。気をつけてれば、誰かに見られる危険性も低いでしょうしね」


すると先輩は、また不遜な態度で、


「童貞ごときがこの私との逢瀬ができることを感謝するがよい…」


「だからふざけんな」


……ホントに大丈夫なのか、この先輩は……?







取り敢えず、デートをする前に、そのデートの内容を決めなきゃな…。


「あの、先輩。デートの事なんですが、どこか行きたい所とかあります?」


俺は今までの人生で、デートの経験なんてない。

だから、手っ取り早く先輩に聞くことにしたんだが……


「知らん!!」


「はぁ!?なんでですか!?一つくらいあるでしょ!?」


「私はいつも、放課後は真っ直ぐに家に帰っていたからなっ!!」


と、きた。

意味が分からない。

何故、どや顔で胸を張っているのか、意味が分からない。


こんなでよくデートとか、言い出せたな…


「本当に知らないんですか?なんかあるでしょう…」


俺はあまりの事に呆れたが、先輩は思いしない返し方をした。


「…だって、いつこんな性格がバレてしまうか分からないし…」


シュンとした様子を見せる先輩。そんな姿を見せられたら、俺が悪いみたいじゃないか。


だから、少し優しく問いかける。


「そんな感じなら、治せそうなもんですけどね」


「そんな簡単なら苦労しない!!」


で す よ ね


放っておくと、先輩はどんどんと落ち込んでいく。


なんだよ…いつもみたいに厨二病を展開してくれなきゃ調子狂うじゃないか…。



「私だって誰かと遊びに行きたいのだ…。

中学の時は、こんな性格がバレてみんなに距離をとられてしまった…。

それがトラウマになって、積極的になれなくなったんだよ…。だから、私は昔から孤独なんだ…」


先輩が悲しそうに瞳を伏せる。

普通厨二病ぐらいで距離をとられるもんかね。どうやら、男子と女子には大きな差があるようだ。


今更気づいたんだけど、先輩って誰かと一緒にいるとこってあまり見たことがない。


「君には喧嘩の場面を見られたし、君は私の厨二病を知っても、変わらずに接してくれた…だから…」


―友達になってくれると思った。


先輩がそう呟いた気がした。




てか、変わらずにって言うけど、実際は大分ショックだったけどな。


勿論そんな事は口にしない。

俺だって最低限のデリカシーはある。


相変わらず、先輩は良く分からない。

厨二病で他人を巻き込んだと思ったら、直ぐに落ち込むし、挙げ句の果てに寂しがりや?


放っておく事の方が無理な話だ。

こんな、一人で寂しがっている少女を。

仕方がない、俺が引っ張って行ってやるか。でも、今更そんな事恥ずかしくて言えやしない。

だから、俺は少し冷たく接してしまう。


「先輩ってヘタレですよね」


「うっ…」


「それにぼっち」


「…ううっ…」


先輩は俺の言葉に肩を落とす。

ったく、仕方がないな。本当に仕方がないな。


俺はただ、純粋にこの頼りない先輩を元気づけたいと思った。




「行きますよ、先輩」


「えっ?」


先輩が聞き返して来る。分かって無いみたいだ。


だから、俺は…


「デートですよ、デート。先輩が言い出したんじゃないですか」


と言って、手を引っ張ってやる事にした。先輩の女の子らしい柔らかい手の感触に、思わずドキッとしてしまう。


俺はそんな気持ちを隠すように、冷静に努める。


「…うんっ!!」


俺の気持ちを知らない先輩は、満面の笑みで握り返してくれた。


先輩の頬はほんのりと朱に染まっている。


でも、俺は気付かない。


俺自身も頬を朱に染めて、口元がだらけきってる事を…



 ◆  ◆  ◆



「…えっ?」


先輩はここまで黙って俺についてきたのだが、1軒の家の前に立ち止まると、さすがに堪えきれなくなったように問いかけてきたた。


「ここってもしかして、君の家か……?」


「そうですよ。よくわかりましたね」


「そりゃあ明らかに表札とか出てるし…。でも、どうしてなんだ……?」


そう、今いるのは俺の家の前だった。別にやましい気持ちはまったくない。

ただ……、


「先輩に、見て欲しいものがあるんですよ」


それだけだ。

俺はどうしても先輩に自分のことを知って欲しかった。

デートといっても何も思いつかなかったし、つーかこれも一応デートだろ?


「見せたいものって、何?」


「それよりまずは上がってくださいよ」


「う、うん…」


先輩は、おずおずといった様子で家に上がってきた。



正直、女子を家に招くのは初めてで、かなり緊張していた。


だが、先輩はそれ以上に緊張しているようで、靴を揃える手も心なしか震えているように見えた。




俺は震える先輩の手を優しく握って、俺の部屋へ引っ張って行く。


今日は家族が出かけていて、本当に良かった…。こんなところを見られたら、なんて言われる事か…。


そんな事を思っている内に、二階の俺の部屋の前に着く。


先輩はさっきから俯いていて、よく見ると、耳が真っ赤に染まっている。


やっぱり、緊張してるのか?

俺は先輩の手を握る手の力を少し強め、ドアノブに手をかける。


そのまま、ゆっくりと扉を開き、先輩を招き入れる。


「ようこそ先輩。少し汚いと思うけど、リラックスして下さいね」


先輩からの反応はない。俺の言葉は耳を素通りしてしまってるようだ。


取り敢えず、先輩を部屋の中でも一番綺麗なクッションに座らせてやる。先輩はか細い声でお礼を言ってきた。


まったく、先輩は肝心な時に内気だからなぁ。


大して長くない付き合いだけど、なんとなく分かった。




俺は押し入れの中にあるダンボールから、一冊のアルバムを取り出す。


それを先輩膝の上で開く。そして、一ページ一ページゆっくりと捲っていく。


「…おぉ、これは君が幼い頃の写真かな?昔から、かなりのやんちゃ坊主だったのだな」


先輩がさっきの緊張が嘘のように、興味深そうにアルバムを覗いている。


昔からって…今の俺はそんなに、やんちゃか…?


先輩にそう聞くと、クスクスと笑いながら、『あぁ、凄くやんちゃだ』



と言ってくるモンだから、恥ずかしくて先輩に視線を向けていられない。


なんだか悔しくて、俺は対抗して凄く恥ずかしいセリフを言うことにする。



「お、俺が他人にアルバムを見せるのは先輩だけです。正直かなり恥ずかしいけど…先輩に見て貰いたくて…」


俺の言葉に、先輩はたださえ赤かった頬が一層に赤くなる。


なんだか気恥ずかしくて、二人とも黙ったまま、アルバムのページをめくっていった。




そして、アルバムのページをめくる先輩の指が、あるページで止まる。


「こ、これは…」

先輩の指がプルプルと震えているのが分かる。


驚くのも無理は無い。

だって、そのページにある写真は、全部先輩を撮った写真だったからだ。


正直、引かれたと思う。


でも俺は構わなかった。そんな事より、この人の寂しそうな顔は見たくなかった。


だから、驚いている先輩に向かって言葉を投げかける。

今の俺なら、自然と優しい言葉を言える気がした。


「えと…あの…、せ、先輩は自分の事をいつも孤独みたいな言い方してましたけど……お、俺はいつもを先輩を見てました。憧れでした。だから、その、先輩は…」


一人じゃない。


そう言いたかったけど、恥ずかしくて上手く言葉を繋げる事が出来ない。


顔が凄く熱い。今鏡を見たら、そこには顔を茹でダコみたいに真っ赤にした、一人の男が写り込む事になるだろう。


先輩には、俺の言いたいことが伝わったらしく、顔がこれ以上赤くならないってくらい赤くなる。


「そ、そうか…。あ、ありがとう…。そう言って貰って、私も嬉しい…」


先輩が恥ずかしそうに俯きながら、俺の制服の袖を握ってくる。


その時、俺の胸がキューっと苦しくなって、なんだか切ない気持ちになった。


あぁ、分かった。やっぱり俺、この人のことが好きなんだ…。


この厨二病で、ヘタレで、寂しがりやな先輩のことが…。


二人で過ごしたのはたったの三日程度、でも俺はその三日間で、先輩が好きになっていのだった。

この三日間は、今まで生きてきて、一番濃密な三日間だった。それでいて、一番楽しかった。充実していた。


俺は面倒くさいといいながら、先輩と過ごす時間が何よりも楽しかったんだ。

だって、あんなに個性的な先輩は他にいないだろ?


先輩の喧嘩の場面に遭遇して、先輩にとんでもない事実を告白され、

そして二人でアルバムを見ている。



胸を張って言うことができる。この三日間は最高に楽しかった。それで、先輩の事が大好きになったのだ。


だから、俺はそれを伝えた。言葉に精一杯の誠意と想いを込めて。


「先輩、好きです。厨二病で、ヘタレで、頼りない先輩が大好きです」


「……まったく…悪いとこしか言ってないではないか…片山くん…」


呆れたように先輩は嘆息をする。

…俺の想いは伝わったかな?


恐らく伝わったと思う。


だって先輩も優しさが籠もった瞳で、俺を見つめてくれているんだから。


俺と先輩は自然と見つめ合って、二人とも目を瞑った。


そして、俺と先輩の唇が近づいてゆき、先輩の吐息が俺の頬をくすぐる距離まで近づいて―









俺は先輩に両手で突き飛ばされた。

突き飛ばした本人は、顔を真っ赤にしながら高らかに宣言する。


「に、人間風情がこの私に手をだ、出そうなどと…ひゃ、百万年早いわ!!」


どうやら、極度の緊張から、ここにきて厨二病が炸裂してしまったようだった。


はぁ…やっぱり先輩はヘタレだ…。


一人、その事実を再確認する。



どうやら先輩の厨二病は、まだまだ治りそうにない。



まぁ、そんな先輩と過ごす毎日もそんなに悪くないよな、と思う自分がいた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 厨二病でヘタレな先輩がなんだか可愛らしくて面白かったです。
2012/04/23 01:15 退会済み
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