わたしがうまれたりゆう
8月14日 土曜日
帰省先で日記を書く。まさか彼の机でこんなことを書くコトになるなんて思いもしなかった。ほんとうに、あの頃からしたら想像なんて出来ない。窓の外の景色も天気も全然変わらないのに、当たり前のように過ぎてきた時間が、嘘のよう。
やる事があって来た場所だけど、今はまだ忘れて、まずは羽を伸ばそうと思う。そのほうが、きっといい。
8月15日 日曜日
帰省二日目。娘はとても楽しそう。人見知りの抜けない子だけど、彼の母親とも馴染んでくれてよかった。お墓参りの後、2人で縁日に出かけたらしい。わたがしを買って貰ってはしゃいでいたけれど、袋のキャラクターの方がお気に入りらしい。昔彼と行った時、私が選んだのと同じだった。子供みたいだと、私を指さして笑った彼の顔が懐かしい。
そんな彼とよく似た笑顔で、彼の母親は私にも、娘にも優しい。娘には彼の血は入っていない。知っていても変わらない笑顔に、暖かいけれど寒さも感じる。申し訳ない。
8月16日 月曜日
帰省三日目。帰るはずだったけれど、渋滞が大変だからと理由をつけて遅らせてしまった。決心がつかない。後がない。
8月17日 火曜日
このままじゃダメ。私が悪い。分かってる。ダメ。まだ、やっぱり、言えない。
8月18日 水曜日
―空白、乱暴に塗り潰された跡―
8月19日 木曜日
帰省六日目。ただ私が天涯孤独だからというだけで、私と娘のたった二人で彼の実家へ押しかけて来たのに、迎えてくれた彼の母親に感謝。14日からもうすぐ一週間、お盆もとっくに過ぎているのに私はまだここにいる。
そしてやる事もまだ、出来ていない。21週目に入ってからもう5日が過ぎている。22週目に入ってしまうと私は判断が出来ない。ちゃんと決めないといけない。四ヶ月は過ぎているけれど、彼の判断はもう聞けない。私が決めないといけない。
―日付なし―
彼の母親には、全部話した。何も言わなかった。何も言わないでいてくれた。私は彼女に、つらい判断をするかもしれないのに。罵られれば楽だったろうか? 誰が?
8月21日 土曜日
『ママ、ちょうちょがいる』と娘が言った。それが、私の決意を信じた理由。帰省七日目。22週目。私は私と娘と、彼と未来の娘の家に帰る。
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おねえちゃんが見たのは、『オハグロトンボ』というそうです。黒いちいさなトンボです。ちょうちょみたいに羽をうごかして飛ぶので、間ちがえたんだと思います。おばあちゃんは、『オハグロトンボ』は『神さまトンボ』といって、死んだ人のたましいなんだといっていました。おかあさんは、おとうさんの声をきいたといっていました。だから、わたしはおかあさんとおとうさんもわたしに会いたいと思ってくれたから、生まれてきたのだとおもいます。
わたしがうまれたりゆう いちねんにくみ あきや しいな