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部長とボク 吸血鬼篇



 ――吸血鬼。東ヨーロッパに散在する民間伝承が起源。それにより様々な姿で描かれているが、劇作家達の手によって取り上げられるようになると後のスタンダードな吸血鬼の設定が定着することとなる。


 ……ふむそれはそれはっ。


 つまり、その起源を『ドラキュラ伯爵』のエピソードを持ってして語られることも多い吸血鬼であるが、歴史はそれ以前から存在するということなのである。


 ……おぉなんとなんとっ!


 以下にその例として、『ドラキュラ』の登場する以前の吸血鬼から、有名なものとして『吸血鬼カーミラ』について解説しよう。この『カーミラ』はそのタイトルの通り、スタンダードな吸血鬼のイメージとして『ドラキュラ』が定着してしまった今日では逆に珍しい、女性の吸血鬼がメインに描かれているのである。


「……そんな馬鹿なっ!!」

「誰が馬鹿よ!」

「んぅごふぅっ!!!?」


 ……おかしい。僕は今し方まで無駄に重厚感を漂わせた文机、実際重い上に場所をとるので大抵床の間の前でやたらと小物を並べられ最早動かして来れない状態になっている文机、その上で優雅に夏の夜風を満喫しつつ、部活の夏合宿用の課題に取り組んでいたはずだった。それがなぜ一瞬で縁側の先の坪庭の中の小池にダイブしているのだろう?


 我々が所属する業界をもっと宣揚するのだとか高尚なことを言いながら、実際は心霊スポットと名高い様々な某所に赴き逆に探索者へドッキリを仕掛けまくるという、無駄な上に地味に疲れる夏合宿の日々。それを実にレトロな蚊取り線香の煙にすかして、僕はどこか遠い目をしながら過去へと追いやっていただけだ。何も地雷なんか踏んでいないはず。


「はっ、環境雑音だからと見逃していたが、さっきまで聞こえていたひぐらしの鳴き声がフラグだったのk」

「君うるさい。私うるさいのキライ。もう一撃いってみる?」

「マジすいません! なんか調子乗ってました! 後生です部長!」

「……そう」


 縁側まで何とか戻ってきた僕が華麗にジャンピング土下座をきめて見せると、先程まで傍に来て棒でつついていた部長は残念そうに部屋へと戻っていく。が、部長が踵を返す直前背後でごすっと音がしたことを僕は一生忘れない。というか普通にこの凶器は死ぬと思う。


 僕は縁側に転がっていた靴下を拾い、中に入っていた石に付いていたのであろう砂を拭いながら、ちょっと泣いた。


「だいたい、特定の妖怪について調べるようにって課題で資料だけ漁って何とかしようなんて私はいただけないかなー? 足を使わなきゃ、足を。部員の誇りを持ちたまえ、よ」

「特定の妖怪って、西洋妖怪じゃないですか、日本じゃ資料しかないですよ部長」

「にしても、カーミラはないでしょー。GLだよ? 君がそんな趣味だなんて私びっくり。変態なのはいけないと思います!」

「知らなかっただけですよ。それより何で僕の部屋に……その……居ついてるんですか?」


 そう、文机に向かっていた前からちらちらと気になっていたのだけど、夏合宿用の拠点である旅館に帰還してすぐ浴場に向かって行った部長が、なぜか僕のいる部屋に入ってきてずっと居ついている。着崩された浴衣姿が、まぁ……目のやり場に実に困る。


「そんな趣味の君なら私大丈夫かと思ってv」

「それはもういいですから、ほんとに」

「では説明しよう☆」

「…………」

「何? この台詞は不服?」

「いえそうではなくて、その……」


 その……なぜに布団に枕をもう一つ追加しているのでしょう? そ、それは……と僕が状況に納得のいく現実的な冷めた答えを模索する間もなく、さらに部長は布団の中に潜り込んでしまった。


「…………」

「何してんの? こっちこっち」

「あ……あぁ、はい? えっと、は、はい」

「どうかした?」

「い、いえ。 なんでもないです。で説明は」

「あぁ、説明ね」


 なんでもないことないです。正直どっきどきですたい。とかはっきり言えるわけがない僕は、消極的ながらもこの状況説明をさり気なく促すのが精一杯だった。そして予想通りというかそんな僕の希望はまったく伝わらず、部長は説明の意味を勝手に自己解釈して、なぜか夏合宿の課題の説明を始めるのだった。僕に合掌。


「それでね。そもそも君は勘違いをしているようだけれど、私は『吸血鬼という妖怪について』という課題を出したのよ。つまりね、日本妖怪にも吸血鬼はいるの」

「いるんですか」

「いるのよ、結構。野衾のぶすまとか、野鉄砲のでっぽうとか、いろいろね。蝙蝠の妖怪の他にも、ムササビの妖怪とも言われてたりするの。上空から襲い掛かって、人や動物の血を吸うのよ。面白いでしょ?」

「面白いかどうかは……。でもまったく聞いたことないですよ」

「江戸時代はメジャーだったんだけどねー」

「で、今は昔と」

「いやー、それが見たのよ前にここで」

「…………は?」


 な、なんだか雲行きが怪しくなってきた。それはどっきどきが一気にぞっくぞくに変わった瞬間だった。そしてこういう場合はかならず後の自身に関わってくることを僕は知っている。状況説明をと急かそうとした過去の自分が恨めしい。が、無常にも部長の話は止ることはなく、僕に出来るのは悲壮な覚悟だけだった。


「それでね、この野衾って妖怪は時が経つとさらに出世?するの。面白いでしょ?」

「ですから面白いかどうかは……」

山地乳やまちちっていうんだけど、この妖怪は眠っている人間の寝息を吸っちゃうのね。吸われた人は翌日死んじゃうんだけど、吸ってる時を別の誰かに目撃されると、逆に吸われた人の寿命が延びるらしいの」

「へぇ、すごいですね……ってもしかして」

「そう。私は小さい頃ここで野衾に会ってるから、今度会った時は山地乳になってるかなぁーなんて」

「それはつまり、部長が僕の布団に居るのは」

「うん、君が横で私が山地乳に襲われないか見張ってるの! 私を守って、お願いv」

「……こ、これは」


 これは…………すごくラッキーなのでは。心配して損しちゃったゼb たまにはいいこともあるんじゃないか僕。妖怪万歳!! 吸血鬼万歳!!













 あれ、でも部長が寝ているということは、僕が狙われた場合、もしかして………………DEAD END?


「お休みー」


 あぁっ、部長寝ないで! てもう寝てるし!! かむばーっく!!!



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