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ケミカライズ☆イエロー



 正直に言おう、驚嘆を禁じ得ないと。


 高光しづか、22歳独身、双子座のB型。なんか小動物みたいでカワイイといわれた身長149cmがきっとチャームポイント。最近、教育実習生という新しい肩書きがついた。そんなわたしは今、軽い気持ちで将来の夢を追い続けてしまったことを真剣に後悔し始めていた。


 ことの発端は、実習のラスボス的な課題、研究授業が終わって肩の荷をきれいさっぱり谷底へオーバースローで降ろしてしまったことにある。油断していたのだ。この半ばおまけみたいについてきた文化祭への参加という甘い罠にドキドキワクワクなんかしちゃったりして、調子に乗ってクラスの出し物のかけあいと調整を引き受けてしまった自分がとっても恨めしい。


 どこの学校でも出し物の花形は食べ物系で、予算を食うわ管理が面倒だわって、学校側は毎年この手の山のような要望をざっくりさばくのに四苦八苦しているらしい。それに対して、今年は頭にオーなんとかって食中毒が流行ったものだから、口実を得たとして面倒な仕事を食べ物系禁止令で片付けようと企んで散々に揉めに揉めた。そんな中無駄に生徒人気の浮動票的民意があるからって実習生ごときが案を通せるわけもなく、翌日のクラス会議には、『氷ぐらいなら何とかなるんじゃない?』的な投げやりの理由から『かき氷屋』という現実が突きつけられるのだった。


 夢見る少年少女に現実を突きつけることほど、大人が恐れを知らない行為もないとわたしは切に思った。苦笑する生徒の仮面の裏に見え隠れするダークサイドに、本気で気づかない様子でいる担任に、わたしはこの実習で一番のベテランスキルというものを感じたものだ。


 と、いうわけで、その矛先が確実にわたしの身長を上回る数値の剛速球でわたしに向かってきたわけだ。


「はーい先生、どうぞv」

「あ、はいどうも」

「来てくれてありがとー先生、ずっと待ってましたよー☆」

「うん、約束したから」

「どうどう? 自信作ですb」

「そうね、オリジナリティあるね」


 生徒たちの笑顔がとっても眩しい。その光に何も考えず身をゆだねてしまいたくなるくらいに。その輝きに理由が思い出せないけど涙がとまらないくらいに。その永遠にも等しい一瞬を、わたしはわたしの前にある、かき氷から目を離せないでいた。

 たしかに、発想の転換だとは思う。限られた枠の中で生徒たちは見事な案をつくりあげていた。一見すると何の変哲もないかき氷屋。ただひとつ、メニューに工夫をするだけで、まったく別のモノに変貌をとげているのだから。その結果がこの、目の前のきいろいかき氷である。


「メニュー、なんだか変わってるのね?」

「そうですよー、劇的に変わってますv」

「きいろ味って、レモン味よね?」

「またまたー、そんな普通じゃ面白くないじゃないですか☆」

「あ、バナナ味とか?」

「えー、そんな普通のかどうか見ればわかるじゃないですかb」


 えぇ、わかりますとも。何か超越した感じの違和感が。なんというか、端的にいうと、色に透明感がまったく見えない。何の味だろうと、これはシロップなのだから、普通は半透明に透けた清涼感が感じられるはず、なのだけれども。ほんとに何なのでしょうね、この目に痛いくらいの、のぺっとしたケミカライズな発色は。


「あの、黄色何号とかね、つかってたr」

「そんなことしたら予算かかっちゃいますってv」

「そ、そうよね、そうよね」

「それより、早く食べないと溶けちゃいますって☆」

「う、うん、ごめんね、食べるね」

「さぁぐぐっとb」


 意を決してわたしはそれを口に運んだ。そして……あ……れ……あぁ……あ……まい……え……これて……そ……なま……さ……か……。










 たく……あn……?




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