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第3話 お金持ち女騎士さん。

「ふぉれひひへほ、ひゃっはひはれはほはへふひゅうひょふはおいひいへふね(それにしても、やっぱり誰かと食べる昼食は美味しいですね)。ひほひへふぁべるのひふはへへ、ふひひほあいがひがふひはひまふ(一人で食べるのと違って、不思議と味が違う気がします)」


 モグモグしながらしみじみ喋ってくれる春日部さんだけど、まず俺は「なんて?」と返しそうになっていた。


 迎えた昼休み。


 俺と春日部さんは、約束通り空き教室でお昼を一緒に食べていた。


 自分のクラスの教室でもよかったが、それだと周りに人がいるし、色々好き勝手に喋ることができない。


 転校してきて初日の俺は今何をしても目立つし、そんな中で普段浮きまくっている彼女と一緒にいれば、クラスメイト達の注目を嫌でも受けることになる。


 そうなると話の端から端まで誰かしらに聞かれて勘違いされる可能性があるし、俺自身が厨二病だと思われるかもしれないから、俺たちは人のいない空き教室を占領して弁当を広げていた。


 二人だけの空間。


 ここならどんな厨二病を放っても構わない。


 面倒だが、俺もアルフウタ・ドルドスでとりあえず通しておくことにした。本名はしっかり弓野楓太っていった純日本人なんですけどもね。闇魔法も使えません。


「時にフウタ? 質問も今二人きりの時ならぶつけていいと言っていたのでいくつか聞きたいのですが、大丈夫ですか?」


 春日部さんがコンビニで買ったであろう焼きそばパンを齧りながら見つめてくる。


 俺は頷いた。どんな質問でもオールオッケーですよ、と。オカンの作ってくれた卵焼きに口を付けながら応えた。


 彼女は口の周りのソースの汚れをティッシュで拭いて続ける。


「フウタはお金、普段どうしているのですか?」


 すごい現実的な話が来ました。


 お金をどうしているのか。


 これにはさすがにちょっと困惑。


 どうしてるって、簡単にどういう意味なんだろう。


 よくわからず、探るように俺は問い返す。


「どうしてるって、それはお小遣い的な話のことですか?」


「お小遣い……という概念は少しわからないのですが、生活するための金銭の話を今しています。あなたも私のように元いた世界からの財産を売り払ったのか、と。少々気になりまして」


 厨二病設定はここでも続くらしい。


 頬を引きつらせ、俺は宙を見上げながらどう答えるべきなのか、と一瞬考えた。


 そして少し間を置いてから答えさせてもらう。


「生活費に関しては親が払ってますよ。高校生ですからね」


 カッコは付けないスタイル。


 そりゃあそうだ。


 高校生がお金に関してイキったところで無理があるからな。


「え! 親が、ですか!?」


「そうですよ。文句ありますか?」


「無いです! というか、あなたの親は共にこの世界へ転移してきてくれたのですか!? なんと恵まれた環境……!」


 まあ、恵まれてはいる。


 親がいるのが当たり前なんて口が裂けても言えない。ましてや弁当をちゃんと作ってくれる親がいるっていうのも恵まれたもんだ。そこは驕るつもりなんてない。感謝の気持ちしかなかった。


 ……けど、だ。


「……なんかその言い方だと春日部さんのご両親はいないように聴こえるんですけど……」


「はい、いません。もっと正確に言うと、ユジュベルバにいます。私の転移してくる前の世界には父も母もいるのです」


「その設定まだ続いてるんですね?」


 俺がジト目で言うと、彼女は真剣に「設定じゃありません!」と否定し、ヤケクソっぽく焼きそばパンにかじりついた。


 で、またもごもごしながら続けてくる。いい加減口の中のものを全部飲み込んでから話して欲しい。口の周りにも青のり付いちゃってるし……。


「私は真剣ですよ、フウタ! 何度も言いますが、設定などではなく本気でユジュベルバの住人であり、剣聖候補筆頭だったのです! 信じてください!」


「ウンソウデスネシンジテマス(棒読み)」


「絶対嘘! 信じてない! バカにしてる顔ですそれは!」


 ぐぬぬ、と歯ぎしりする春日部さんだった。


 そんな彼女の反応を流しつつ俺は逆に質問する。


「ちなみに春日部さんはどうしてるんですか? 今、サラッと元いた世界の財産を売り払ったとか言ってましたけど。一人暮らしなんですか?」


「一人です。当然です。毎日どんな時でもぼっちですよ? ガッコーがある日も休日も、朝も昼も夜もいつもいつもいつだって私は一人ぼっちです。でも平気です。平気なんです。舐めないでください。泣いてもいません。寂しい奴だと思われても動じないんですから」


 すごい早口だった。一人とか孤独とかいう言葉に過剰なくらい反応するなこの人。


「そういえば最近一人焼肉なるものに行きました。ケーサツの方が紹介してくれた、ほーむれす支援……? というところの職員さんにすまーとほん? を持ってみるようお勧めされたのですが……そこで知り得た文化です」


「文化て。いやまあ、一人焼肉って言葉は確かにありますけども」


 文化っていうほどでもない気がする。


 ただの言葉だ。言葉通り一人で焼き肉店へ行き、そこで肉を食らうというもの。


 というか、セリフの端々にツッコミどころが多過ぎる。


 ホームレス支援を紹介されるのにスマホを持てるくらいの金があるっていうのか。


 住まいはどうしたんだろう。本当に色々気になるんだが。


「とてもとても素晴らしいものでした。網の上でお肉を焼く感覚……! 戦場でも動物の肉を焼いて食べることはありましたが、一人焼肉には勝てません……! あの小さな網の前に座っている時だけは一人ぼっちなことを忘れさせてくれるんです……! お肉も最高に美味しいですしね……! はぅぅ……!」


 焼き肉を思い出したのか、齧りかけの焼きそばパンを手に持ちながら「じゅるり」と涎をすする春日部さん。


 一つ一つ問うていくことにした。何度も言うが、ツッコミどころが多過ぎる。


 この人、本当に異世界から転移してきたのかもしれない。


 それくらいの知識レベルで戸惑った。


「ちょっと待って春日部さん。すごく根本的なところからの質問なんだけど、ホームレス支援って何? そこに行ったけどお金はあるんだ?」


 俺が聞くと、彼女はキョトンとしながら頷いた。


「ありますよ? 生活に困らないくらいにはあります。騎士時代、割と売れる宝石などを溜め込んでいたので」


 えぇぇ……マジか……。


「ご、ごめんなさい。嫌ならいいんですけど、もしその宝石っていうのが残ってるのなら俺に見せてもらうことってできますか……?」


 失礼と図々しさを承知でお願いしてみた。


 すると彼女は問題なく「いいですよ」と返してくれ、持って来ていた簡易バッグの中をゴソゴソと漁り始める。


「……ん! これですね、A級パール宝石です」


「!?」


 バッグの中から取り出して見せてくれたもの。


 それは眩い光を放つ、正真正銘のパール宝石だった。


 思わず目を丸くさせてしまう。


 嘘だろ、という感想以外出てこなかった。何だこれ。売ったらいくらになるんだよ。


「他にもまだ色々貯めているのですが、とりあえず簡単に三つほど宝石を売ったらそこそこお金を得られました。しばらくは何も売らなくてもよさそうです」


「ま、マジですか……」


 頷く彼女は嘘なんてついていなさそうだ。


 持っているスマホは最新型の一番良いグレードだ。


 たぶんそれはスマホショップの店員に押し売りされて簡単に買ってしまったものなのだろうが……にしてもすごい。


 あれだけ光り輝くパールの宝石を見たのは初めてだった。


 俺の中で春日部さん厨二病説という概念が一気に揺らぐ。


 この人の言ってることは本当なのかもしれない。


 異世界ユジュベルバは実際に存在していて、彼女の名もちゃんとユリアス・カスケードなのかもしれない。


 異世界転移なんて非現実的な話だが、それも信じなければならないのかも、と。俺は固まった状態でグルグル思考を続けた。


 ――で。


「フウタ? どうかしましたか?」


 春日部さんに声を掛けられ、ハッとする。


 確認したいと強く思った。


 提案をしてみる。


「春日部さん……?」


「……? はい。何でしょう、フウタ?」


「放課後、俺と一緒に遊びに行きましょう」


 呆然としたまま俺が言うと、彼女はまた一気に目を輝かせた。


 ぼっちじゃない放課後。


 それにときめきを抱いているようだった。


 でも、俺の思惑はもっと他にある。


 可愛い女の子と遊ぶよりも他。


 彼女の正体を確認するための遊びをしたい。


「チャンバラ……しましょう」


「……へ?」


 春日部さんの疑問符を受け取り、俺は続ける。


「あなたの剣の実力、俺に見せて欲しいんです」


 そう言うと、彼女はニヤリと笑んだ。


 いいですよ、と。


 そう静かに言って。


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