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第2話 女騎士さん、従順すぎる。

「賢者フウター、ようやく私と話す気になりましたか。こうして元の世界にいた者と話すのは久方ぶりです。あなたもこちらに来て苦労しているのでしょう? 気持ちがよくわかりますよ。なぜなら私自身もこの世界に来て大変な思いをしているからです」


 ……ええっと。


 一言に困惑していたし、状況がよく読めていなかった。


 青海高校に転校してきて、朝のホームルームでクラスメイトを前に挨拶したばかりなのだが、俺は休憩時間を使って一人のギャルを適当な空き教室へ連れ込んだ。


 連れ込んだって言ったらいやらしい表現だけど、残念ながら今はそういう冗談も言ってられない。


「さあ、賢者フウター? 二人で元いた世界、ユジュベルバに帰る方法を探しましょう。安心してください。今ばかりは私も仲間です。剣も魔法も何もかも使えない状態ですので」


 ギャルさんは真剣な表情で俺に手を差し伸べてくる。


 彼女は新種だった。


 髪色も金に近い茶褐色で、制服も適度に着崩されているギャルスタイル。それなのに発する言葉は訳のわからない厨二病チックなモノばかり。


 厨二病ギャルと形容する以外に無いわけだが、今までにこんな人種には出会ったことが無い。


 ギャルといえばテンション高めに最近発売されたスタボの新商品がどうとか、インストに上げた写真がどうとか言ってる印象だ。


 剣と魔法の世界とかユジュベルバとか、そんなこと言ってる人は見たことが無かった。すごくすごく珍しい。友達になりたいけど、それも一筋縄にはいかない感じだ。あの教室内の雰囲気を見るに。


「……えっと、確か春日部さん……でしたよね?」


 俺が切り出すと、彼女は首を横に振る。


「それはこの世界での偽りの名です。ユリアス・カスケード。今さら言わなくてもあなたなら知っているはずでしょう?」


 今度は俺が手を横に振る番だった。いやいや、と。


「すいません、たぶん何か勘違いされてます。俺は賢者でも何でもないし、あなたのことは春日部ユリアスさんってクラスメイトの人から聞いたので……」


「何を言ってるんですか、賢者フウター! あなたは自らが賢者であることも、そして私の本当の名すら忘れたと言うのですか!? あれほど戦場で共に戦った仲なのに!」


 ズイっと顔を近付けられ、俺は思わず彼女から目を逸らしてしまう。


 近い……!


「……あの、夢か何か見られてるのでは? 大丈夫です、俺も経験あるので。夢で自分が闇魔法を使ってて、それで無双する……みたいな」


「夢なものですか! いえ、この世界に転移してきたという事実は夢であって欲しいところですが、私が剣聖一歩手前の存在であったことは夢でもなんでもありません! 完全な事実です!」


「……え、えぇ……」


 いったいなんて返せばいいのか。


 初めてだった。厨二病ギャルっていうのもだけど、何よりここまで自分の中で世界観を構築している筋金入りの厨二病と対面するのは。


「それはあなたも知っていることではありませんか! 今さら何を言っているのです! 目を覚ましてください、賢者フウター!」


 ズイ、ズイ、ズイ、と。


 春日部さんの顔はどんどん近付いて来て、もうほんと、キスできそうなレベルで近かった。


 誰か他の人に見られてたら確実に勘違いされるレベル。


 俺はもはや彼女の顔なんて見ていられない。


 厨二病患者だけど、綺麗だし、可愛いし、いい匂いするし、心臓がバクバク跳ねまわっていた。助けて欲しい。転校早々こんなギャルゲー顔負けのイベントが発生するなんて夢にも思ってなかったぞ、マジで。


「ちょ、ちょ、ちょっとわかった。わかったからいったん離れて? さすがにこの距離で密着するのは誰かに見られたらマズいから……」


 言いつつ、なるべく春日部さんの体に触らないよう、そっと肩に手をやって弱々しく押し返す。


 すると、彼女は簡単に俺との距離を少し取り、しょんぼりしていた。


「賢者フウター……ユジュベルバの住人にようやく会えたと思ったのに……」


「期待に添えなくてすみません。俺は賢者でも何でもないただの一般人ですので……」


 言って、転校前に渡された学生証を財布から出して見せてあげる。


 春日部さんはそれを手に取り、ジッと眺めてからさらにしょんぼり。


「……ぐすっ……じゃあ私は……また一人でこの世界から脱出する方法を模索しなければならないというわけなのですか……」


 しまいには涙目になってしまっていた。


 泣くほど厨二病設定を守り続ける彼女に心の底から尊敬する。


 さすがの俺もそこまではできなかった。プロの厨二病だ、この人は。


「えっと……春日部さん?」


「何ですか、賢者フウター……?」


 だから賢者じゃないて。


 心の中でツッコみつつ、俺は続けた。


「よくわからないけど……そんなに元の世界に帰りたいんですか?」


「帰りたいに決まっているじゃないですか! 元いた世界でも一人だったけど、この世界だとさらに私は孤独を強いられているのですから!」


「え……」


 いやまあ、さっき突然ホームルーム中に俺に厨二病かましてきてくれて、その時のクラスメイト達の反応を見ればそれも納得できるのですが。


 まあ、ぼっちですよね。厨二病はぼっち。孤高になる運命。だいたいドン引きされたり邪険にされたりするよね。うん。悲しい。


「聞いて笑え! なんと私、こちらの世界に来て誰かと一緒にご飯を食べたことがありません!」


 本気で笑えないエピソード来たコレ。


「あ、いや、ありました! 転移して間もない頃、行く当てもなく放浪していると、ケーサツ(?)という方々に保護されたのです! そこで出されたカツドンを一緒に食べましたね! ハハッ!」


 最後の空笑いは声が震えていた。スカートの裾をギュッと握って、涙も浮かべてる。そろそろこの人のことが本気で可哀想に思えてきた。


 厨二病設定、そこまで守らないといけないのだろうか。何か執念みたいなものを感じる。


「ガッコーでも当然一人ですよ!? 舐めないでください! 最近は人があまり来ない体育館横の便所で食べてます! これが落ち着くんですよ! なぜなら誰かが来てソワソワしたりとかしなくて済みますからね! ベストポジションです!」


「もういい! やめて! 君はよく頑張ってるから!」


「そうは言っても、最初は男性女性問わず、教室で私に声を掛けてくれる方も多かったんです。けど、なぜか騎士時代の話をすると皆私から離れていって……」


「わかった! 俺は聞く! 聞くよ! 騎士時代の話でも剣聖の話も異世界の話も何でも聞く! どんなくだらない話でも聞きます!」


「騎士の時も一人の時間は多かったんですけどね……。なぜかこっちの世界の一人はダメージが大きくて……えへへ……ぐすっ……あれ? 涙が……」


 見ていられなかった。


 使ってください、とばかりに俺はポケットティッシュを春日部さんに差し出した。


 そして続ける。


「春日部さん。同士として、俺はあなたの味方です。どんな話も聞きますから、とにかくこれで涙拭いてください」


「……え……でも、あなたは賢者でもなければ、フウターでもなんでも無いんですよね?」


 言われ、俺は一つ息を吐く。


 封印していた古のセリフを今ここでよみがえらせる。


 その決心をし、ギラリと瞳を見開いて切り出す。


「ふ、フハハハハッ! その通り! 我は賢者でもなければフウターなどという存在でもない!」


「――!?」


 春日部さんがビクッとする。


 突然の俺の変貌ぶりに冷や汗を浮かべていた。


 恥ずかしさで死にそうになるけど、気合で続ける。


「真の姿を隠していたが、仕方ない! ここで貴様に教えよう! 我の真の名はアルフウタ・ドルドス! 暗黒魔法の使い手であり、マスターの権限を有する最高位者よ!」


「なっ、なっ、なんだってー!?」


 全然疑う様子がなかった。


 素直に驚く春日部さんを見て、俺はますます思う。この人のことをどうにか守ってあげなければ、と。騙されやす過ぎるだろ、と。


「し、知らない! 知らないです! 暗黒魔法の使い手、その最高位にいる存在があなただったのですか、フウター!?」


 だからフウターじゃないて。


 アルフウタ・ドルドスだって。


 ツッコみたい気持ちを抑えつつ、俺は片目を手でキザっぽく隠しながら続けた。


「クッ、クククッ! そうだ! 知らなかっただろう! たぶん……アレだ! アレ! 貴様とは生きていた世界が違っていたのだ!」


「ユジュベルバじゃなかったのですか!? どこ!? どこなの!?」


 またしても近い。


 いい加減自分の容姿の良さを自覚して欲しかった。


 暗黒魔法の最高位者も可愛い女の子には弱いのだ。それくらいわかってくれ。


「……お、教えない」


「へ……!?」


「お、教えるわけがないだろう! 秘密こそ我の特権なのだ! 闇に抱かれて姿を隠すダークマターのようにな! ふ、フハハハッ!」


 いくらなんでも苦し過ぎた。


 厨二病のキレも悪い。


 悪いが……。


「くっ! そうですか! それなら仕方ないですね! ダークマター!」


 彼女はすごく素直。そして従順。もう、びっくりするくらいに。


 ヤバいな。この人の将来がすごく不安だ。悪い人に騙されてホイホイついて行って変なことされないかすごく不安。暗黒魔法の最高位者、めちゃくちゃ不安。


「しかし、こうして巡り会えたのも何かの縁です。良ければ……そ、その……わ、私と一緒に……」


「昼ご飯でも食べますか?」


 俺が言うと、春日部さんは表情を一気に明るくさせ、強く頷いた。


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