第1話 転校初日、異世界転生した女騎士さんと出会う。
突然だが、厨二病という概念を皆さんはご存知だろうか。
心身の成長が特に活発化する中学二年生頃の男女、その一部の人に見られる特有の精神状態を指し示す言葉だ。
具体的にどんなものなのかをさらに説明するならば、暗黒破砕弾というファンタジーチックな技があったとする。
これを一般的に読むとすると、暗黒破砕弾といったところなのだが、厨二病患者の場合、暗黒破砕弾などと読んだりする。
暗黒終末波という技名だと、暗黒終末波と。こんなところだろうか。
現実世界に生きる者として、申し訳ないがこんな技を生活上出す必要は無いし、そもそも俺たち人間は出せない。
ゲームの世界だけに留めておき、趣味でキャッキャ言いながら楽しむ分には問題ないが、ここで厨二病患者の厄介な点が出て行く。
そう。この病の罹患者は、総じてこうした痛々しい技を本気で出せる(出せないと知りつつも楽しんでいる者だっているが)と思い込み、一般的な生活を営む人々に向かって嬉々として放つのだ。
実際にかつての俺がそうだった。
約二年前。中学二年生の頃。
俺――弓野楓太は、ある日たまたま闇の魔力を与えられる夢を見て、自分が闇魔法使いだと本気で信じ込んだ。
日常生活を送っている時は魔法など使えないが、これは自分が世界の統括者(妄想)から魔力を抑え込まれているのが原因だとし、家でも学校でも、その他人が大勢いる中で大っぴらに「俺には恐ろしい闇の賢者の血が流れている。近付くな」と片目を抑えながら牽制していた。
それで右目には眼帯をし、左手には包帯を常に巻いて、流木から作った杖を持ち歩いていたのだ。
周りからすれば何事かと思うだろう。
高校一年生になった今の俺でも思う。変人ですか、と。
ただ、そんな死にたくなるような過去を抱えつつも俺は成長した。
痛々しい発言や恰好を避け、真人間になれるような努力をし、ようやく普通として生まれ変わることができたのだ。
友達もゼロだったところから、高校に入って何人か親しい存在を作ることができた。
ダークマターだの終末世界の始まりだの、訳のわからないことを言っていた時代からすれば考えられないほど休日は誰かと遊びに行けるようになったし、すごく充実した日々を送ることができているのだ。
だから、それを新しい学校でも続けようと思う。
真人間として生き、転校先でも普通に生きよう。
そう考えて、不安と緊張が入り混じる中、俺は転校初日を迎えたのだが。
……事件はここで起こった。
俺の目標を打ち砕きかねない事件が。
「――それじゃあ、自己紹介を頼む。難しくなくていい。簡単に名前と得意なこととか、そういうのでいいからな」
新しい朝。
県立青海高校一年C組の教室にて。
俺は教壇の中心に立っている担任にそう言われ、目の前に座っている三十人ほどのクラスメイト達に向かって自らの名前を口にした。
「弓野楓太です。漢字は今先生が書かれた通り、弓矢の弓に、野原の野。楓に太いで楓太。得意なことは……なかなか挙げるのが難しいんですが、人の名前を覚えることです。よろしくお願いします」
言い切って頭を軽く下げる。
すると、前方から問題なく手を叩いてくれる音がした。無難な挨拶ができたらしい。俺は心の内でほっとする。
「それじゃあ、弓野は後ろの端っこ。あそこの空いている席に座ってくれ」
すぐ隣で、担任の男教師がにこやかにそう言ってくれる。
俺は返事をし、そっちへ歩き出した。
席へ向かう道中、二、三人の男子が俺へ目配せして軽くよろしくの挨拶をしてくれる。
安心だ。不安だったけど、問題なく俺はこのクラス、そして学校に馴染めそうだった。
『……ここだな?』
指示された空いている席にも着き、俺は改めて前を向く。
後でこの席の周りの人たちには挨拶しとこう。
そう思いながら担任の方を見つめていたのだが、なんとなく横からただならぬ視線を感じた。
「……?」
チラリと横目で見やると、そこにはギャルっぽい雰囲気を漂わせているブロンドカラーの髪をした女子が座っている。
よくわからないが、彼女は不自然なほどこっちを見つめていた。
チラ見とかそういうレベルじゃない。
ガン見だ。
顔を俺の方に向け、ジーッと。まるで恐ろしいものでも見るように俺のことを見てきている。
「……???」
さすがに看過できなかった。
知らないふりをしようと思ったが、俺が横目でチラ見していることもきっとバレているはず。
後で挨拶もしようと思っていたし、ここで無視すれば印象が悪くなる。
ホームルーム中で担任が喋っている最中だが、俺は彼女の方を見てにこやかに小首を傾げてみせた。
すると、だ。
「……え?」
驚いたことにこの状況の中で彼女は立ち上がり、そして震えるように俺へ問いかけてきた。
「あ、あなた……もしや……もしや……!」
教室中の視線が一気に俺の方へ向けられる。
空間全体に疑問符が浮かび上がっているような、そんな感じ。
「もしや……賢者フウターなのですか!?」
……?
ギャルな彼女に問われるが、俺は疑問符を止められない。
フウター……?
よくわからないが、この綺麗なギャルさんと俺は知り合いでも何でもなかった。そもそもこっちは転校生だ。この地域に住んでたわけでもないし、何の縁もゆかりも無く、幼馴染の女の子だっていたことがなかった。再会イベントとかそういうのはあり得ない。
「フウターなんでしょう!? そうでしょう!? そうなのならばそうだと言ってください!」
「え、えぇぇ!?」
頓狂な声をでかでかと出してしまう。
突然めちゃくちゃ詰め寄って来たこの人。ホームルームの最中なのに。
「私はユリアス! 世界・ユジュベルバで女騎士だったユリアス・カスケードです! 覚えているでしょう!?」
「い、いや、え、えぇぇぇぇ!?」
美少女ギャルに訳のわからないことを言われた転校初日。
俺は、きっとこの先の人生でこの日のことを忘れることはないだろうと思う。




