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明るくないのに目が眩む

「白鉄君って一年生?」


 そう訊いたのは好里先輩だ。


「はい」と返すと


「やっぱりー。そんな感じがしたんだよねー! よかったね世々子ちゃん、周りの人が全員先輩って結構しんどかったでしょー?」


 好里先輩は毎文語尾に伸ばし棒が付くような喋り方をする。

 ザラつきがあり、落ち着いた声質なのだが、喋り方のせいで常にテンションが高い印象を受ける。

 シアトリカルな身振りはないが、テーマパークのキャストさんみたいだ。

 一方、堂藤世々子はこちらを睨んだまま動かなかった。

 俺はどうすればいいか分からなかった。

 同学年だとしても、女子と云うのは何とも言えない。

 男子だったらどんな性格でも結構すぐに打ち解けられる自信はあるのだが。


「この部に私の方が先に入ったんだからな。そう云う意味では私は先輩だ」


 堂藤は無表情のまま口だけを動かすと云った工合に、言い放った。

「たかが2・3週間の差だろっ」と云う猿渡先輩のツッコミもスルーされた。


「ごめんなさいね、うちの世々子がー。悪い子じゃないから仲良くしてあげてねー」


 好里先輩は堂藤の姉の様に振る舞い、飼い主の様に頭を撫でた。


「なあ潮戸、新入生の異能ってどんな感じのなの?」


 しばらく静かだった灯里先輩が質問した。

 俺は自己紹介で自分の異能を言えるのが楽しみで仕方なかった。

 俺の周りで異能を持っている奴なんていなかったからだ。

 ……いや、もしかしたら引っ越す前の学校でも、俺が積極的になって探していれば"異能友達"ができていたのかもしれない。


「潮戸、聞いてる? 白鉄さんの異能を知りたいんだけど」

「ん? 本人が直接言った方が速いと思ったんだけど……てか、俺こいつの異能知らねぇわ」

「えぇ……」


 灯里先輩は言葉を失ってしまった。


「今までに例のないことなんだけど、俺はペース鳴カーで白鉄が異能を使う時刻を予知した。予知が当たれば――外したことはないが――その時刻に対象がどんな行動を取ったのかを俺は理解できる。そう云う能力者として生きてきたし、それは確かだ。けど、あの時、予知が示した時刻になったとき、俺は白鉄が何をしたのか分からなかった」

「え? 運命を捻じ曲げたみたいなことか?! こいつ主人公気質なんじゃねーの?」


 猿渡先輩は興奮気味に言ったが、俺には心当たりがなかった。


「んー、予知を外したって云うより、予知の内容を上書きされたって云うか……」

「あ、それなら心当たりがあります!」


 俺が言った瞬間、猿渡先輩が異能を発動した。

 俺と猿渡先輩の間に、人間を極度に抽象化したフォルムの白い物体が現れた。

 背は180cmくらいありそうだ。

 座っている俺を見下ろす形で――そいつには目をはじめ、顔のパーツはなかったが――シャドーボクシングを始めた。

 こう云うのを式神と言うのだろうか。


「上書きできるって云うことは精神に干渉するタイプの異能かもしれないし、予防線を張らせてもらうぜ。近距離で殴り合ったなら俺の異能は負けないってこと、予告しておくぜ」


 俺はもちろん一戦交える気はない。

 しかし、異能の初見時のインパクトが強いのは自覚しているので、慎重に説明する必要がある。


「先に断っておきますが、俺はこの異能を三・四回しか使ったことがないです。だから、この異能でどこまでのことができるかは定かではありませんが……俺はギターを銃に変えることができます」


 俺はケースからギターを出して、実践してみせた。

 アハ体験みたいなものではなく、突然ライフルに変わったのを見て、一同は後ずさった。


「もちろん、人を撃ったことはありませんよ。あ、猿渡先輩、目を瞑ってもらってもいいですか?」


 俺はもう一つ見せたい能力があるのでそう促したが、猿渡先輩は拒否した。


「いや怖ぇよ。そう云う危険な役は潮戸にやらせろよ。俺は一応、お前を見張ってるんだからな」

「おっけー」


 潮戸先輩は目を瞑りながら返事をした。

 俺はライフルをギターに戻して、潮戸先輩に質問した。


「そのまま、目を瞑ったまま答えてください。潮戸先輩、ギターは何に変身しましたか?」

「え? 銃でしょ。スナイパーライフルって云うのかな? 銃身が長くて格好良い奴」

「何の話をしてんだ?」


 猿渡先輩はすぐに食って掛かった。


「ギターはさっきから()()()()()()()()?」

「いや、そうじゃないんです」


 人生で初めて他人に自分の異能を説明できる感動で、声が上擦ってしまった。

 年度初めの自己紹介のときには自分の好きな何かを言うと云うのがセオリーだが、その度に無難な食べ物やアーティストを考えるのには辟易していたのだ。

 これが、人生で初めての自己紹介だ。


「俺の異能は、ギターを銃に変えることができます。そして、その銃をギターに戻すことができます。銃を持っているところを目撃されたとしても、その人にギターを見せれば、記憶を改竄できます。馬鹿でかい銃声を聞かれたら、ギターの音色を聞かせれば改竄できます」

「じゃ、じゃあ僕もその銃を一度見たってこと?」


 灯里先輩は半信半疑のようだ。


「ねー、もう開けていい?」


 潮戸先輩は目を開けた状態で訊いてきた。

 急に目を開けると、周りが特段明るく感じるものだが、少しの間ぶりに潮戸先輩の瞳見ると、こちらの目が眩んでしまった。


「おい潮戸、本当にライフルが見えたのか?」

「あー……何の話だっけ、それ」

「潮戸先輩が言ったんですよ。ただ、目を開けたときにギターを見てしまったので、記憶が上書きされたんです」


 部室は沈黙した。

 なかなか受け入れ難いだろう。

 しかし、静けさに押し潰されそうなので、俺は話題を変えることにした。


「何でこんなに能力者がこの街にはいるんですか?」


 去年まで住んでいた場所は(恐らく)そうではなかったので、俺には"能力者界隈の常識"が足りてないのかもしれないと思ったのだ。


「知らん」


 しかし、潮戸先輩は一蹴した。


「異能関連のあれこれは婦照先生が民俗学者と連携して調査しているらしい。ソウシの噂が流行り出したのと何らかの関連があるらしいけど、科学的な裏付けは不可能なんじゃない?」


 確かに、偶然だったり、ファンタジーな理由の方が納得できるかもしれない。

 俺は続けて質問した。


「ソウシって何ですか?」

「あーソウシ知らないんだ、県外の人は」


 潮戸先輩はわざとらしく肩をすくめた。

 俺はますますこの人が部長に任命されているのかが分からなくなった。


「知識マウント取るなよクソ部長。俺は逆に、ソウシがローカルなネタだってことを知らないお前にびっくりしてるよ」


 助け舟を出してくれたのは猿渡先輩だった。

 目下、この先輩の方がリーダーに適任であるように思える。今の件だけでなく、紅糸さんへの対応に関してもだ。


「ソウシって云うのは"双子"って書くんだけど、都市伝説の一つなんだー。この世界には自分と完璧に心が通じる人が必ず一人いるんだけどー、その人のことを知れば知るほど、自分も相方も死へと近付いちゃうって云う話なのー」


 好里先輩は空中に"双子"の字を書こうと苦戦しながら解説してくれた。

 双子と云う都市伝説は聞いたことがなかった。

 何と云うか、他に類を見ない切り口の話だ。

 明確な怪異が存在しないのだ。

 双子が出会い、親睦を深めたら互いに死ぬ。そこに悪意はないのに。

 その噂と能力者にどんな関連があるのかも質問しようとしたが、部員一同は外出の支度を始めていた。

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