能力者達
「失礼しまーす」
俺は学校の一番奥の部屋に連れてこられた。
何度も廊下を曲がったせいで道順は覚えていないが、ここがこの学校の"一番奥"な気がしてくる。
とんでもなく緩やかな長いスロープを歩かされていない限り、一階であることは確かだ――つまり階段は使ってないと云うことだ。
部屋の中では四人の男女がお菓子を食べていた。
冷房が付いていて、よく焼けたロールパンみたいな色味と質感の、しっかりしたソファーも備わっている。
しかし、潮戸の仲間は彼と違ってそこまで友好的な態度を示さなかった。
この街に越してきてから一番の冷ややかな視線を感じる。
この街で初めてバスに乗ったとき、以前住んでいた所のバスとは勝手が違い、運賃の前払いをスルーしかけたときですら、今と同じくらい冷や汗をかいたが、優先席のお婆さん達は温かく笑ってくれたと云うのに!
「きせき、その人誰?変なこと言って関係ない人を巻き込むのは禁止事項だからねー」
ソファーに座っている女子が、隣にいる女子にチョコを食べさせながら言った。
二人とも背が高いし足癖が悪い。雰囲気も似ているし、姉妹だろうか。
「まあ、ここ座りなよ」
潮戸は気にせず、床に置かれた緑のクッションを指し、自分はその近くの床に座り、壁にもたれた。
「こいつは関係者。今日から仲間に加わってもらう、白鉄明楽。俺が今朝見つけた能力者で……」
「はあっ!?」
小柄な男子が声を荒らげた。
見た目で判断するに、普段はこんな大声を出すタイプの奴じゃないのだろう。
「その人は能力者じゃない!どう見ても瀬革でも内見でもないだろ!?」
「ん?白鉄も能力者だけど?てか、セガワとナイケンって誰だよ」
「あ、これもう終わりでーす。解散、解散」
一番手前にいた男は早々に荷物を片付け始めた。
ポロシャツから、生成途中の雪の結晶の様に角張り、筋肉質な腕が除いている、無精ひげの強面の男だ。
「また潮戸がLINE見てなかったってオチかよ。やる気がないなら帰れよ、俺のやる気も失せる」
潮戸は辛辣で的確な言葉を気にせず、スマホを見ていた。
今初めて仲間からの連絡を確認したのだろう。
「ありがとう灯里。眼鏡の方が瀬革蓮希で……背の高い方が内見湊ね……把握。あ、白鉄、グループ招待させて」
「あのー……いまいち状況がよく分かってないんですけど……」
「じゃあ、私が説明する」
チョコを食べさせられていた女子は自信あり気な顔で手をパンっと叩き、場の空気を我が物にした。
「まず、私達は異能持ちの人だけで構成されている、学校非公認の部活の部員。非公認だから名簿を作ったりとかは必要ないんだけどー、一応潮戸先輩が部長。で、その部長さんは学校にいる、私達以外の能力者二人を今朝の段階で特定して、そいつらの詳細を灯里先輩に調べるよう頼んでたんです」
灯里先輩――先ほど大きな声を出した小柄な人だ――は俺に向かって会釈し、「こき使われました」とぼやいた。
「それなのに、潮戸先輩は灯里先輩が送った能力者の情報を一切見てなかったし、情報にない能力者――シロガネさん、だっけ?君のことね――を何の連絡もなしに連れてきたせいで地獄みたいな空気になってるの。……ついてこれてる?」
「ちょい待って」
俺より先に待ったをかけたのは、無精ひげの男だった。
「スラスラと部の内情を話してて分かりやすい説明だったけどよー、白鉄明楽くんは本当に能力者なのか?潮戸の説明不足で連れてこられただけで、俺達、異能力バトルものの漫画の主人公に憧れてる厨二病集団だと思われてるんじゃねーの?」
四人の視線が一気にこちらに集まった。
「えーと、俺も能力者です、はい。潮戸さんの腕時計の能力も見ましたし、皆さんが異能を持っていると云うことは疑ってません。それで……潮戸さんの勧誘を受けてこの部に興味を持ったんですが……ここは何をしている団体なんですか?」
「オーケー。それについては部長の威厳を取り戻すべく、俺から話そう。もっとも、もっと早くに話すべきだったんだがな……」
潮戸はラックから一冊の絵本を取り出した。




