ペース鳴カー
ふつふつと音がしていたので手を開くと、それは手汗の湧き出る音だった。
登校中にペース鳴カーで能力者を探知してからの二時間……正直、テストでどんな問題が出たか覚えていない。ずっと興奮と緊張の渦の中だった。
最近は特に熱心に祈っていたからだろう。運勢が良くなっている。
今日だけで三人も能力者を見つけてしまった。
眼鏡の頭が良さそうな奴と、背の高い運動神経が良さそうな奴……二人ともチームに引き入れたい。
だがそれ以上に、定期テストの実施日なのにギターケースを担いでいた、右の前髪を立ち上げている奴が気になっていた。
帰り際、人の群れを掻い潜っていくギターケースを見つけてすぐに追った。
よく考えたら俺独りで追跡するのはかなり危険だった。
俺のペース鳴カーは戦闘向きじゃないからな。
シロガネアキラが快諾してくれたとき、息を殺していた手汗が一気に溢れた――とてつもなく安心したからだ。
「俺は潮戸きせき。潮のドアで潮戸、きせきは平仮名。善くないことだと思いつつ、名前を盗み聞きしちゃったんだけど、シロガネはプラチナと同じ白金って書くの?」
「いや、白い鉄でシロガネ。親戚以外で同じ苗字の人とは会ったことがないな。ついでに、アキラは明るいに楽しいで明楽。よろしくね、潮戸さん」
「よろしく。そう言えば、白鉄君の能力は……」
俺がペース鳴カーを解除しつつ、会話を続けようとしたときだった。
一瞬00:13の表示が手元の腕時計に表示された。
「何をしているんだ、白鉄明楽!!」
すぐにペース鳴カーで時計を作り出して投擲した。
しかし、腕に巻き付く前に、白鉄は体の前に持ってきたギターケースでそれを弾いた。
「……何って、喉が渇いたから水筒を……」
こいつ、善人ぶりやがって、本心ではずっと機を伺っていたのか。
俺が能力を一瞬でも解いたのなら、反転して攻撃するつもりだったのか!
あいつの能力は、きっとギターケースが鍵だ。
俺は今から始末される。具体的には、俺が能力を解除してから13秒後にだ。
運命の潮流の分かれ道までの距離を計る……それが俺のペース鳴カー。
しかし、運命の征く末を傍観することしかできない。
既に祈った。縁起が良い数じゃないのが気がかりだが、俺が13秒の間にできるのは覚悟だけだ。
白鉄明楽がケースから黒い何かを出すのを見留めて、俺は徐に目を閉じた。
「白鉄……お前……まじでその中に水筒入れてたのか……
?てっきりナイフかピストルなんかを出してくるのかと思ったぜ……」
白鉄は、心外だ、と言う風に眉を顰めて水を飲んだ。
「あ……」
開けっ放しになっていたケースから教科書やノートが転がり落ちる。
「え?それ全部詰め込んでたのか?」
「うん、毎日そうしてるけど?……あ、大丈夫。後は俺が拾うから」
「……」
こいつ、思い切りがいいと云うより、ガサツなだけな気がしてきた。
「一つ言っておくと、潮戸さん、俺の能力は人を殺すことができるものです。もし先ほど、あなたが俺を攻撃していたら……俺は迷いを一切なくして、能力を使うつもりでした」
ペース鳴カーが予見した運命の分岐点は、白鉄明楽と俺の運命が交わる場所だったのだと思う。
2026年7月20日の午前11時41分、白鉄明楽を信用したことで、俺の運命は異変した。
まあ、その異変さえも元々運命に組み込まれていたのかもしれないが……。
そして、2027年7月20日、2028年7月20日、2029年7月20日…………
この街で最も静かな場所で、この日付になると、あの夏を思い出すんだ。




