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この街で一番静かな場所で
雨上がりを想像できない程の降り様だった。
私が、まだ物心つかない私が聞いたノイズは、人が発したものだったのだろうか?
今でも偶に、梅雨や秋雨が始まると、雨粒の音を私を呼ぶ声と聞き違えてしまう。
人の声のわけがないし、たとえ人の声だとして、私を呼ぶわけがないのに。
私の記憶の中で最も古い日、荒れ狂う川の前に犇めき、成す術なく濡れていく大衆を前に、一つの交換が行われた。
私はそれを最前列で見ていた気もするし、眼前の光景を大勢の大人に遮られていたような気もする。
マンションの広すぎる一室に速歩きで駆け込めば、それで今日も充分だった。
私がこれからどこに征くのか、それを私は知ることはできない。私がどこから来たのかが分からないからだ。
前世や来世は信じていない。
昔々、大暴れした川の水が、栗江湾に静かに湛えられた水になっているとは考えられないし、それが回り巡って普通の雨に生まれ変われるとは思えない。
そんな工合のことを、この街で一番静かな場所で、ずっと考えている。




