呪われた転校生が辺境の魔法学園にやってきた
王立辺境防衛魔法学園「グレイリッジ」に転校生がやってきた。
どこか憂いを持った黒い目をした美しい少女だった。
「……ノクティア・フォン・ナイトレイン」
転校生は教壇に立ち、そう名乗った後に続けた。
「私には近づかないでください」
生徒たちがざわついた。「どういうつもりなの?」とカレンの声が聞こえた。カレンは伯爵令嬢で、クラスの中心人物だ。目をつけられるとやっかいな存在だと言えよう。
ユリウス・ルーク・エルムフォードは興味無さそうにその様子を見ていた。
グレイリッジ魔法学園は辺境ながら名門で、王都からやってくる学生も多く、身分差別は酷かった。
ユリウスのエルムフォード家は騎士上がりの準男爵家で、学園の学生内での序列は最低だ。そのうえ、「結界科」という最も地味な学派に進もうとしているユリウスは、いわゆる学園の「日陰者」だった。目立たず、平穏に学生生活を過ごすことがユリウスにとって最も大事なことだった。
「ナイトレイン家は元辺境伯崩れの男爵家だぞ」と誰かが言った。
男爵家では、この学園では底辺層だ。それであの態度では、初日からこの先が思いやられるな、とユリウスは思った。
※
ユリウスの予想はすぐに当たることになった。
一限目の授業が終わると、カレンとその取り巻きの二人が、さっそくノクティアの席を囲んだ。
「あなた、男爵家程度のくせに『近づくな』とはどういうことなの?」
カレンが教室中に響く大きな声でノクティアに問い詰めた。
「……私に近づくと、その方が不幸になるのです。ですから……」
ノクティアは静かに、しかしはっきりと答えた。
「は? どういうこと? 呪いでも持っているっていうの? そんなやつに同じ教室にいて欲しくないんだけど」
カレンはさらに声量を上げる。誰も彼女には逆らえない。
「私にもなぜかわかりません。ですから私に関わらないでください」
ノクティアは今度は寂しそうにそう言った。
「あら、そう。では無視してほしいのね。ではあなたはここにはいないものとして見做しますわね」
カレンはそう宣言した。
※
それから、ノクティアに近づき、話しかける者はいなくなった。
ユリウスはなぜかノクティアが気になり、気づくとユリウスの目はノクティアを追っていた。
皆から無視されるようになったノクティアは安心したようにも見えたが、やはりどこか寂しげでもあった。
かと言って、最下層民の自分が何かできるわけでもない。
二限目の授業中、事件が起きた。
ユリウスの前の席に座る、カレンの取り巻きの一人、ミレイユという女子学生が、小声で詠唱しているのが聞こえた。
——「氷針」?
それは氷属性の初級魔法だった。威力は小さくとも、人に当たればちょっとした傷はできてしまうだろう。
ミレイユは先生の目を盗んで指先をノクティアの方に向けた。
ユリウスはノクティアを守ろうと咄嗟に結界魔法の詠唱を始めようとした。
が、当のノクティアが突然手のひらをこちらに向きて掲げ、制止するような仕草を見せたため、ユリウスは一瞬詠唱を止めてしまった。
その間にミレイユが詠唱を終える。
しかし——「氷針」は発動しなかった。いや、氷の針は霧散した。
「え? 何で?」
ミレイユが声を上げ、先生が振り返った。
「どうかしたか?」
ミレイユはノクティアを睨みながら「いえ……何でもないです」と答えた。
ユリウスだけは、ミレイユの手の甲に薄く古代魔法文字が浮かび、ノクティアのほうにうっすらと線のようなものが伸びているのを見逃さなかった。
※
二限目、そして三限目が終わるとノクティアが席を立った。手洗いに行くようだった。
ミレイユも席を立ち、その行く手を阻むようにノクティアの進路上に立った。
ノクティアがミレイユを避けようとするとミレイユもそちらに動き、思いっきり肩をぶつけた。
「あら、何かにぶつかったかしら。何もいないはずなのに」
魔法での嫌がらせが不発に終わって苛立っていたのだろう。理不尽な腹いせだ。
ノクティアがぶつかった肩を抑えて痛そうにした。
「なんか体調が悪いのよね、この教室が呪われている気がするわ」
ミレイユの顔色は確かに悪くなっていた。
「だから私に関わらないでって言ったのに……」
ノクティアはぶつかった肩を抑え、走り去っていった。
四限目が終わり、昼休みになると、カレンのもう一人の取り巻きのアメリアが、席に座るノクティアに向かって歩いて行き、押しのけた。
ノクティアが「きゃっ!」と小さく悲鳴を上げ、席から転げ落ちた。
「あれ、何か聞こえた?」
カレンがその様子を見て、クスクスと笑っていた。
ユリウスは思わず駆け寄り、ノクティアを抱き起こした。
「何なの、あんた? そこには何もいないはずなのに何をしているの? いやらしい」
カレンがユリウスを非難するように声をかけた。
ユリウスは女子の体に思いっきり触れてしまったことに気づき、ノクティアから手を離した。
「ごめん……」
「誰に謝っているのかしら。準男爵家のご子息だからちょっと頭があれなのかしらね」
三人がまたクスクス笑った。
ユリウスは何も言い返さなかった。
その代わりに、ユリウスはノクティアの手を取り、教室の外に連れ出した。
二人は中庭のベンチまで来て、そこに座った。
ユリウスはそこで我に返り、ノクティアから手を離した。何度もノクティアに触れてしまったことを恥ずかしく、申し訳なく思った。
「ごめん……」
気づくとノクティアも顔を赤らめていた。
「……私こそごめんなさい」
「いや、君が謝ることは何もないよ」
「でも私のせいで……」
ノクティアのせいで、ユリウスもカレンたちに目をつけられたことを気にしているのだろう。
「はは、やっちゃったなー」
おどけたようにユリウスは言った。
「本当にごめんなさい」
ノクティアの目から涙が流れ出したのを見てユリウスは慌てた。
「いや、ぜんぜん大丈夫だから気にしなくていいよ」
「いつもこうなってしまうの……。ただ私は魔法の勉強をしたいだけなのに、皆、私を放っておいてはくれないの」
「あなたも私に近づいたら不幸になるわ。放っておいてくれる?」
そう言うノクティアに、ユリウスは首を振って答えた。
「たぶん僕は君に取って特別な存在になれると思う」
「え?」
「あ、いや、変な意味ではなくて……。自己紹介してなかったね。僕はユリウス・ルーク・エルムフォード。準男爵家令息で、この学園で最底辺の男子だ」
「最底辺……」
「そう、これ以上不幸になりようがないってこと。あと、僕は結界魔法が得意なんだ。だから君が言う『不幸』も、僕なら結界で防げると思う」
ノクティアが初めて少し微笑んだ。その笑顔の美しさにユリウスは心を掴まれた。
「冗談でも嬉しいわ」
「冗談じゃないよ。ノクティア、君が『不幸』と読んでいるものはおそらく……」
「私ね、支援科に行きたいの」
ノクティアがユリウスの言葉を遮った。
支援科といえば、強化や治癒など、人を助ける魔法を中心に学ぶ学派だ。
「人を傷つける私が、おかしいよね」
ノクティアは悲しそうに微笑んだ。
人を傷つけまいと遠ざけながら、人とつながっていたいのだ——ユリウスは同情を禁じ得なかった。
※
ノクティアとユリウスがいた中庭に、他の生徒たちがやってきた。
「あっ」とユリウスが声を上げた。
「今日の午後は魔法の実技試験だ」
生徒たちの中にはカレンとアメリアもいた。しかしミレイユの姿はない。
カレンたちは苛立たしげにノクティアに視線を向けていた。
実技試験は上級魔導士のセドリック先生が張った結界内での、実践的なものだった。魔物が多く発生する辺境のグレイリッジ魔法学園では、実戦を想定した教育方針でも有名なのだ。そして、カレンのような攻撃科志望の学生にとってはストレス解消の場にもなっていた。
結界内では魔法によるダメージが軽減されるので、先生も生徒たちに自由に実戦訓練をさせるのだった。
「先生、転校生のノクティアさんは試験のことをよく知らないと思うから、私たちが教えてあげたいと思います」
カレンがさっそく名乗りを上げた。ノクティアに痛い目を見せようとしていることに誰もが気づいたが、誰も何も言えなかった。
「ああ、そうだな。じゃあ、まずはおまえたちで適当に始めてくれ」
先生も伯爵令嬢のカレンに意見することはほとんどない。
「じゃあ、やるわよ、アメリア」
カレンとアメリアが試験用の結界内に入り、ノクティア睨みつけた。
「僕も入るよ」
「でも……」
「大丈夫だよ。僕がノクティアの『呪い』の正体を見つけるよ」
ノクティアはまだ不安そうにしていたが、やがて意を決した表情になった。
「ありがとう、……ユリウス」
ユリウスはノクティアが名前を呼んでくれたことに嬉しくなり、調子づいた。
「ノクティア、僕が君の人生の救世主になる!」
ノクティアは呆気に取られたかと思うと、笑った。
やっぱり笑ったノクティアはきれいだな、とユリウスは思った。
ノクティアとユリウスが結界に入ると、カレンとアメリアはすでに詠唱を始めていた。
「氷針!」
二人が同時に詠唱を終え、ノクティアに魔法を放った……はずだった。
二人の手元で氷の針が形成された……かと思うと、蒸発して霧散した。
「何なの?」
「ミレイユが言っていた話、本当だったのね。こいつ『魔女』よ!」
アメリアは叫んだ。
「なんてことなの。『魔女』は本気で退治しないと」
そう言ってカレンがまた詠唱を始めた。
「中位魔法が来るな」
「どうしよう……」
ノクティアが不安そうな、そして悲しそうな顔をする。
「この結界内なら何が起きても問題はないよ」
ユリウスがノクティアに声をかけた。
ユリウスにとってはノクティアの「呪い」の正体を見極めることが重要だった。
「氷槍!」
カレンがノクティアに向けて伸ばした腕の先に氷の槍が形成された。
「魔力増幅もオマケしてあげるわ。これに懲りたら私には逆らわないことね」
槍が飛んでくる……かと思ったら、その場で槍が激しく砕け、大量の氷片が四方に飛び散った。
咄嗟にユリウスはノクティアの前に立ち、飛んできた氷片を防いだ。
「ユリウス……大丈夫?」
カレンとアメリアのほうを見ると、二人とも大量の氷片が全身に突き刺さり、倒れていた。
結界の効果でダメージが軽減されているはずだったが、カレンは全く動かず、アメリアも苦しそうにしていた。
「……やっぱりこうなってしまうのね……」
ノクティアがその場に泣き崩れる。
セドリック先生が慌てて結界の中に入り、二人に治癒魔法を施したが、効果が薄いようだった。
「何なんだ、これは……」
先生は授業を中断し、倒れたままのカレンを担ぎ、何とか立ち上がったアメリアを連れて医務室へと向かった。
一人、ユリウスだけは冷静に思考し、ある仮説を立てていた。
※
事件の当事者のノクティアと、一緒に試験を受けていたユリウスは学園長室に呼び出された。
アルフォンス学園長と、現場にいたセドリック先生に加え、もう一人、黒い外套を着た女性がいた。学園の人間ではなさそうだった。
ノクティアとユリウスがその三人の前に着席すると、女性が口を開いた。
「王室魔導庁監査局の監査官、イングリット・ヴァイスです。状況は伺っています」
「監査官」と聞いて、ユリウスは一気に緊張してしまった。
「ノクティア・フォン・ナイトレインです」
「ユ、ユリウス・ルーク・エルムフォードです」
イングリットが話を進めようとする前に、ノクティアが発言した。
「あの……カレンさんたちは大丈夫でしょうか?」
「命に問題はなさそうですが、特にカレンさんは魔力が回復せずに意識を失ったままよ」
「そうですか……」
「あなた、ノクティアと言ったわね。いったいあの子たちに何をしたの?」
「私は何もしていないです……」
「何もしていないのに、あんなことになるわけがないでしょう?」
「私にいじわるをしてくる人が必ず不幸になる『呪い』なんです……」
「『呪い』ねぇ……。そんな非魔導学的なことで済まされたら、監査官なんて仕事いらなくなっちゃうのよね」
「あ、あの……」
それまで緊張しきっていたユリウスがやっとのことでうわずった声を出した。
イングリット監査官の鋭い視線がユリウスに向けられる。
「何ですか?」
「魔導学的に説明してみたいと思います」
「ほう。準男爵の学生ごときが『呪い』を魔導学的に説明すると言うのですか?」
緊張し続けているユリウスの耳にはイングリットの声は届かず、構わず説明を始めた。
「ノクティアの『呪い』ですが、おそらく魔力を向けられた相手との間に『魔力連結』が張られる、というのがその正体です。その魔力連結によって、術者の魔力がノクティアに流入して、さらにノクティアの魔力干渉によって魔術式が歪んで、魔法が中断したり、暴発したりするんです。さらに魔力連結が魔力を奪い続けて、身体にも影響出ているのだと思います。まだカレンたちが魔力を吸い取られ続けているのであれば、有効距離も長いと考えられます」
気づくとユリウスは緊張も忘れて夢中で話を続けていた。
「そんなバカな……もしそんなことが起きているなら危険すぎる……」
セドリック先生が口を挟む。
「何が起きたにせよ、退学は免れないでしょう? 聞くところによると他の学園でもいつもトラブルを起こしているそうじゃない」
イングリットが言う。監査官は生徒を退学させるのが仕事なのだろうか、とユリウスは勘繰り、そう思うと腹が立ってきた。
「周囲の大人たちが無理解だとそういう話になってしまうでしょう」
ユリウスはそう言って、しまった、と思ったが、もう後には引けなかった。
「魔力連結はすごい能力だと思うんです」
「何をバカな。『呪い』そのものではないですか?」
イングリットが苛立ったように反論する。ユリウスを見下しているのは明白だった。
「『呪い』なんて非魔導的なものではないんです。これはノクティアの素晴らしい能力なんです」
「は? 人から魔力を奪い取るような能力のどこが素晴らしいのよ」
「ノクティアは魔力の流れの制御ができていないだけなんです。これは僕の仮説ですが、この魔力の制御ができれば、例えば王都から辺境に治癒魔法を届けたり、魔力を集めて強力な攻撃魔法を発動できると思うんです。それが実現できたら王国の魔導学を変革するくらいすごいと思いませんか?」
「それどころか王国の魔導インフラや魔導軍を変革するような大発見でしょうね」
イングリットが反応する。
「ですよね」
ユリウスは嬉しそうに同調した。
「そんな夢のような魔導技術が実在すれば、の話よ。そんな話が信じられるわけないじゃない」
興味なさそうにイングリットは否定した。
しかし、ユリウスはそれでも引き下がらなかった。
「では実演させてください」
「は?」
「僕がノクティアの魔力の流れの制御をします」
「いや、本人が制御できていないのに、準男爵程度のあなたにそんな制御できるわけがないでしょう?」
「僕は魔力は少ないですが、結界魔法と魔力制御は得意なんです。ノクティアの魔力連結の通路に小さな結界で弁を作って、魔力の流れを制御できると思うんです。……あの、どなたかに実演のご協力いただきたいのですが……」
「ふざけないで。そんな危険な実験に手を貸せるわけがないじゃない」
イングリットが意地の悪い笑みを浮かべて一蹴した。
ユリウスはセドリック先生の顔を見るが、セドリック先生は視線を逸らした。
すると、それまで黙っていたアルフォンス学園長が口を開いた。
「わしがやろう。……学生の可能性を信じてやらんで何が教育者か」
アルフォンス学園長がセドリック先生を一瞥してから、ユリウスの顔を見た。
「何をすればいい?」
「まずは魔力連結を確立します。何か簡単な魔法をノクティアに向けて放ってください。『探知』とかでいいです」
ノクティアが不安そうにユリウスを見ていた。
「必ず君が好きな勉強を続けられるように、いや、夢を叶えられるようにする。僕を信じて」
まだ不安そうにしながらも、ノクティアは頷いた。
「よし、ではやるぞ」
アルフォンス学園長が短い詠唱をする。
「探知」
魔法が発動された瞬間、学園長の手の甲に古代魔法文字が浮かび、ノクティアとの間にうっすらと魔力の糸が伸びて消えた。
「ほう、これは奇妙だ。『探知』でもノクティアが検知できんな。目の前にいるというのに」
「このままの状態だと、学園長の魔力はノクティアに流れ続けます。ノクティアも魔力を溜め込み続けられないので、魔力は漏れ出して無駄になるだけです」
「ふむ、確かに魔力が漏れ出ている感覚があるな。で、どう制御するのだ?」
答える代わりにユリウスが詠唱を始めた。
「結界弁」
アルフォンス学園長の手の甲のあたりが薄く光った。
「学園長、もう一度『探知』をしてもらえますか?」
学園長が頷き、『探知』を発動した。
「おお、今度はちゃんと発動した」
学園長の言葉にユリウスは小さくガッツポーズをした。ノクティアも驚きながらも、ユリウスに笑顔を見せた。
「ユリウス君の『結界弁』が魔力漏洩と干渉を防いでいるのだな」
「はい、そうです」
イングリットが何か言おうとするのを遮り、ユリウスは続けた。
「まだ終わりではないです。ここからが本題です」
ユリウスがまた詠唱を始め、「探知」を発動してノクティアとの「魔力連結」を確立した。
それから続け様にいくつかの結界魔法を発動した。
「準備ができました」
ユリウスが大きく深呼吸する。
「ノクティア、魔力が右の学園長側から左の僕の方に流れていくのをイメージしてみて」
ノクティアが頷いて目を閉じる。
その場が静まりかえり、皆の意識がノクティアに向いていた。
やがてユリウスが何かを確認したかのように頷き、口を開いた。
「僕は攻撃魔法は一切使えません。セドリック先生よくご存知だと思いますが」
セドリック先生が頷いた。
「アルフォンス学園長、『氷針』をお願いします」
「大丈夫なのか?」
ユリウスは頷いた。
「あなたの生徒を信じてください」
学園長が詠唱を行う。
「氷針」
学園長の指先に氷の針が生成され……なかった。
代わりに氷の針はユリウスの指先に生成され、イングリットに向かって放たれた。
イングリットはのけ反ったが、氷針はイングリットの手前で止まった。
「大丈夫ですよ。防御結界を張っていますから」
「何なの、これは……」
「魔導学に革命を起こす『魔力連結』です。『結界弁』で『逆流』を許可し、出口を僕の側に付け替えて術式経路を制御したんです」
ユリウスが「魔力連結」を発動した当人のノクティア以上に興奮し、誇らしげに言った。
ノクティアはその様子を見て、思わず笑ってしまった。
「何がおかしいのよ……」
イングリットが不機嫌そうに言った。
「これはすごい発見だろう。大人として認めてやるべきだ」
学園長がイングリット監査官とセドリック先生に言った。
「同じように魔力連結に結界弁を作って制御すれば、カレンたちにも魔力を戻すことができそうですな」
セドリック先生が言った。
「少し訓練すれば、ノクティア自身が連結の解除もできるようになると思います」
ユリウスが自信をもってそう言った。
ノクティアは嬉しそうにユリウスを見た。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
※
ユリウスの実験の成功にも関わらず、結局、ノクティアはグレイリッジ魔法学園を退学処分となった。「魔力連結」の制御がまだできない以上、一般の学生と同じ教室にいるのは危険性が高い、という結論だった。
実験を主導したユリウスも、監査官を脅した非行により、停学処分を受け、そのまま退学届を提出した。
その代わり、アルフォンス学園長が二人を王都魔法学園に推薦し、二人とも入学が決まった。
王都魔法学園は王国一の学術研究機関であり、ノクティアの魔力連結について強い興味を示す研究者も多く、二人を監察局監督下の「特待研究枠」の学生として受け入れた。
ノクティアのいじめを主導し、自滅したカレンもまた、グレイリッジ魔法学園を自主退学し、王都の伯爵家に帰ったという。自身の魔法の暴発がよほどトラウマになったようだ。
ノクティアが王都に来ると知ったらどう思うだろうか、とユリウスは少しおかしくなった。
※
「ユリウス、あなたは私の人生を救ってくれたわ。本当に感謝してもしきれないわね」
そう言うノクティアにユリウス答える。
「ノクティアの才能に誰も気づかなかっただけさ」
「でも、あなたは見つけてくれた」
ノクティアは少し恥ずかしそうに言葉を続ける。
「ねえ、ユリウス……これからも友達でいてくれる?」
ユリウスは少し考えて、「いや」と答え、まっすぐノクティアを見た。
「僕は友達以上の関係を望む」
ノクティアは驚いて、「何それっ」と顔を赤らめた。
そして、「それもいいかもね」と小さくノクティアは言った。
二人の「魔力連結」の糸が薄く光った。
その伸びかけた糸を、ノクティアは息を呑んで——ほんの一瞬だけ、自分の意志で閉じた。
ユリウスはそれを見て笑い、ノクティアの温かい魔力が戻ってくるのをかすかに感じた。
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