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魔学再生  作者: 寺花 虎
1/6

ある師と弟子の胸中 

このお話はただの世界観説明です、、、。

もの好きな方はよろしければどうぞ、、、。

長ったらしくてスイマセン

『魔法使いは、

 時間や空間。生や死。太陽や大地。

 宇宙の形や毎夜振るう剣の間合いでさえも疑える人物である』


 世界で最も有名な魔法使いの一人、アレックス・ロースターが著した『魔法戦闘 攻防基礎』。

 世界で初めて設立された魔法学園の教師の中に彼の名前が挙がった事実は、世界に驚きと安堵を与えた。

 彼が教鞭を握るにあたって世界中に出版したその本を読みながら、

 誰もいない列車で一人の(わらべ)が揺られていた。


「ふん、、、」


 その見た目は、少年とも少女とも判別のつかないほど幼く見える。

 純白の道袍は幾重にも重なり、車両の揺れに合わせて静かに揺れている。

 内衣は落ち着いた藍色。

 緻密な刺繍が施され、細やかな文様が袖口から裾へと続く。


 その様は、武術家にあこがれた児童のようであったが、

 同時に、顔や背の小ささを塗りつぶすような圧倒的な風格を纏っていた。


「それにしても、人というのは逞しいものよ。

 あれだけ熱を入れておった()()を放り捨て、御伽噺(おとぎばなし)だと揶揄しておった力をこうも簡単に受け入れてしまうのだからな」


 童は読んでいた本から目を離すと、古びた車窓から外の景色を眺めた。

 見つめる表情はどこか憂いを帯びているようにも取れた。


「努力も訓練もなく、ただ願えば炎が灯り、土は従い、空は低くなる」


 車窓から眺める景色に映る、かつて人々の声が響いていた町々は、

 今や瓦礫と錆の匂いが支配する、終末の様相を呈していた。


「御伽噺とは違って、その奇跡が与えられたのは聖人や賢者だけではなかったようじゃの。」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


宇宙の彼方から飛来した未知の元素――「エーテル」。

それは人間の感情や精神に反応し、現象として姿を変える。

やがて人類は、その不可解な現象を御伽噺(ファンタジー)になぞらえて「Magic:魔法」と呼ぶようになった。


半世紀前、宇宙はマナと呼ばれるエネルギーで満ちあふれ、四半世紀前から世界は魔法の時代に突入した。

人々がその存在を正式に認めてからすでに十数年が経つ。


だが、社会の土台は依然として科学技術に依存している。

正確には「科学の残骸にしがみついている」というべきだろう。

なぜなら魔法の存在が、科学の根本原理そのものに疑念を生じさせ、進歩を完全に停滞させてしまったからだ。


魔法は人間に異常な力を与え、思考や感情に呼応して科学の代替を軽々と実現する。

数千年をかけて積み上げてきた科学の成果を、魔法は一瞬で模倣し、さらには凌駕してしまう。

だがその力は体系化も共有もされず、個々の魔法使いの能力に留まっている。

結果として魔法は大衆に還元されず、生活の基盤は依然として旧来の科学に縋り続けるしかない。


科学と魔法がせめぎ合う「過渡期」。

個人が異常なまでの力を振るうそこに登場したのは、魔法を武力として利用する新興勢力だった。

彼らの存在は従来の科学兵器では抑えられず、各地で制御不能な混乱を生み出していく。

さらに原因不明の災害や、科学では説明不可能な事件も頻発し、世界は瞬く間に秩序を失っていった。


かくして、人類の文明を支えてきた科学は瓦解の危機に立たされる。

魔法の正体は未だ謎のまま、世界は混乱と暴力と奇跡のただ中に放り込まれている――。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 人も生き物もすっかり寄り付かない荒れ果てた町並みを眺めながら、その童は再びつぶやいた。

「簡単に手にすることができた力とは、容易く振るわれ、容易く破滅を招く。

 全くもって節操のないことじゃよ全く。

 大体、、、!」


 童は言葉をつなげていくにつれ、言葉には熱が帯びていく。


「大体!何度も言っとるが力とは本来、積み上げるものじゃろうが!血を流し、汗を垂らし、ようやく手にできるからこそ、振るわれる力にも重みがあるんじゃ。それを、こやつらは何じゃ、ただ指を動かしただけでポンポンポンポン。責任も敬意もなく、ただ気まぐれに振るう。こんな無様なことがあるか!」


 老人のような嘆きと憤りを滲ませながら、童は拳を握りしめた。


「わしらの時代にはな、力を持つことは即ち、それを制することと同義じゃった。だが今はどうじゃ?持つだけの者が増えすぎて、肝心の『制する者』がどこにもおらんではないか!」


 ふう、と荒い息をつき、童は肩を落とす。


「、、、いかんの、またこの調子じゃ」


 ため息をつく童は再び視線を手元の本に戻し始めた。

 そんな疲れた様子の童を前にようやく口を開いたのは、列車の通路に立った大男だった。


「師とは似ても似つきません」


 その童を師と仰ぐその大男は、表情を変えることなくそう言った。

 車両の天井に頭頂部が付こうかというほどの巨躯を持つ男。

 漆黒の単打を身につけ、中に鉄軸を差し込んでいるのかと見える程に、その姿勢はぴしりと正されている。


「ふふ、ありがとう」


 おだてているのか、本心なのか、若干ずれたような返答を淡々と述べる彼の様子に少し笑みがこぼれる。


「まあ、に従うのもまた、人間の生き方よ」

「、、、。」


 かつて、人間が「科学」に侵される前、彼らの扱う秘術は重宝されていた。

 確実に傷を癒やす薬、鉄をも凌ぐ鋼の肉体、天や時のその先を視る力。

 機械や電気などなくともその時代は実に豊かだった。


 しかし、時代が「科学」によって豊かになるにつれ、秘術の恩は薄れていき、

 何より利益をもとめない彼らの精神性は、経済の中心に座する者達から疎まれた。

 「科学」は彼らを排斥し、その者たちを高山の奥底に追い込んだ。


「まあ、その『(ちから)』を制する者も現れ始めたようじゃしの。

 それに、此奴らを救ったのは何においてもその「魔法」なんじゃからの」



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 未知の力によってすべてが壊れていく様を、誰もが想像していた。

 だが皮肉なことに――あるいは、それもまた必然だったのか――

 ――その世界を救ったのもまた、「魔法」だった。


 世界各地に現れた少数の魔法使いたちは、人々の前に救世主として立ちはだかった。

 国家を防衛する者、未知の災厄を討ち払う者、病を癒やす者……。

 彼らは散発的ながらも奇跡を積み重ね、徐々に魔法の力を社会へと還元していった。

 やがて、魔法は単なる異質な力ではなく、人類にとって「新しい技術」だと認識されるに至った。


 こうして、人類は第二の選択を迫られる。

 魔法を一過性の才能に留めるのか、それとも体系化し、文明を支える基盤として昇華させるのか――。


 そして、その答えとして設立されたのが 「ノークティック魔法学園」 である。


 この学園は、世界の叡智を結集した研究教育機関だ。

 魔法を「学問」として確立するために、基礎理論から応用技術に至るまで体系的なカリキュラムが整備され、日々の実践を通じてその法則性を探る研究も進められている。

 建築、物流、農業、医療、軍事、防災――かつて科学が担っていた領域に魔法を適用する試みが、ここから世界へと広がっていった。


 世界中の知識も歴史も、技術も才能も、そして人々の希望も期待も、

 文字通り世界のすべてがこの学園に集中していた。


 「魔法」は今、人類を再生する新たな「科学」へとなろうとしていた。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「かつて儂らを僻地に送り込んだ「科学」は「魔法」へと姿を変え、

 奴らを混沌に堕とし入れた「魔法」は再び「科学」へと姿をえた。

 本当に逞しいものじゃよ、人間とはの、、、。」


 童の口元が微かに歪む。

 童は弟子の顔を見上げると、まるで何かを試すような眼差しで問いかけた。


「この本曰く、『魔法』とは感情に根ざし、自らと世界に満ちる『エーテル』を糧として、人間に宿る力を顕現させるもの。

 ……さて、この理、"アレ"に似ているとは思わんか?」

「仙術ですね」

「さよう。魔術、呪術、錬金術、占星術、妖術、、、。

 わしらのほかにも世界には否定されたは多くある。」


 かつての歴史を顧みながら、視線を本に戻し、(ページ)をめくりながら言葉を続ける。


「どれもこれも、かつては人が求め、磨き、受け継いできた技よ。

 しかし価値が移ろえば、それまで信じられてきたものも、一夜にして迷信とされ、異端となり、ついには消え去っていく。」


 師は続ける。


「じゃが、人目から消えたからといって、それが無に帰したわけではない。

 忘れられた術は、ただ静かに身を潜め、時を待つ。

 ……そして今、そして「科学」という(すべ)が否定されたなら、あるいは——」


 その表情はどこか楽しげなものへと変わっていく。


「消えたと思われたその術たちも、再び日の目を見るやもしれんな。」 


 珍しく嬉しそうな師匠の様子を眺めながら、弟子は少し眉をひそめるように(それでも顔は動かない)師に問いかけた。


「その時はその術はどのような形をとるのでしょうか。

 やはり「魔法」に、、、?」


 心配そうな、心配していなそうな弟子を導くように、童は言葉を返した。


「果たしてどうかの。いずれにせよ

――この先に行けば、分かることとなるじゃろうて。」


 その表情は楽しげなまま変わらない、しかし発する声には複雑な心境が読み取れるような気がして、弟子は返す言葉を見失った。


 まさか師がぽっと出の「(すべ)」に遅れを取ろうはずもない、

 結局、「科学」はそれをなし得ず、何より師はすでに人の域を超えているのだ、、、。

 60寸をゆうに超える大男は黙るように頭を巡らせていた。



「それにしても心配なのは、儂のことじゃ…。

 また、あの時ように仲間外れにされぬと良いが…。

 今度は向こうさんも強いからのぉ。

 かくなる上はわしもやり合わなければならんのかのぉ?」


 童は何やらうかない顔をした(ように見えた)弟子を見みると、ふざけたような口調で話題を変えた。


「、、、師よ。」


 それを受け、弟子は初めて表情を変えながら、ようやく言葉を発した。


「面白い冗談ですね。はっ!はっ!はっ!腹がねじれるかと思いましたよ!はっ!はっ!はっ!」


 もはや顔だけにとどまらず、慣れない動きで両手を腹に抱え、弟子は芋虫のように身をよじりながら突然笑い始める。


 童は内心後悔していた。

 彼が自分に求めてきた仙術だけではなく、

 もっと師として人との関わり方とか、まともな情緒なんかも教えておけばよかったと。

 (向こうに行ったらそういうことも考えなくてはの…。)


「やめいやめい!もうわかった、儂が悪かった。

 お主はこれまでのお主でよい、、、。」


 未だに言葉を続けようとしている弟子を制止しながら、童はやはりこの先のことを憂うのであった。


「お主、向こうで上手くやって行けるのか?心配じゃのう…。」

「む…。」


 陸地の上を走っていた列車は港を越え、海へと出た。


「それにしても師よ、なぜ列車なのですか。

 師ならば空を渡ることくらい」

「決まっておる。」


 童はいたずらっ子のような、悪い笑みを浮かべる。

 かつて書館でみかけた本の内容を思い浮かべながら海の先に見える()を眺めて言う。


「これから行く場所は御伽噺の場なのじゃ、記念すべき最初の入学式(セレモニー)ならばそれ相応の登場をせんとのぉ。」



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 

 その列車は鉄の線路を持たず、ただ空中を滑るようにして飛行している。

 どんな原理で飛んでいるのかなど今や考えるまでもない。


 向かう先は――ノークティック魔法学園。

 荒廃に覆われた大地を遠く離れ、外海に浮かぶ一つの島。

 魔法を研究し、修めるために建造された人工の大地である。


 世界において唯一(ただひとつ)の学術機関。

 人類を混迷へと叩き込んだ「魔法」を、再び文明の再生と繁栄へと導く学問、「魔学」へと昇華させるために――。

お読みいただきありがとうございました。


感想、レビューよろしくお願いします。

(優しい感想も嬉しいですが、辛い感想も喜びます。)


今後とも『魔学再生』をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
世界観設定としては普通。
2025/10/01 08:00 退会済み
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