ープロローグー
正午便の飛行艇が着水する。ハッチが開くと同時に、
海の青臭さが鼻を突く。
タラップの向こうに迎えの女性型アンドロイドが立っている。
女性型アンドロイド「お待ちしてました、本田兵長。」
本田はアンドロイドに荷物を手渡すと懐から紙タバコを取り出した。
女性型アンドロイド「兵長、ココは禁煙です。」
本田「あ、そっか。」
指摘されて、慌ててタバコをしまう。
女性型アンドロイド「そちらのお荷物をお持ちしましょう。」
本田「いや、いいよ。コッチは俺が持つから。」
本田はそのアンドロイドをようやく、まじまじと見た。
茶色の髪をボブカットに揃えて、くっきりと可愛らしい目鼻立ち。顔はカスタムなのだろうか?既製品とは若干異なる印象を受ける。
時々、動くリボン型の、後頭部に標準装備された集音器が彼女がアンドロイドであると判断できる唯一の部分だ。服装は内勤用の制服である。したはタイトスカートだ。
本田「そういえば、君の名前は?」
玉「玉と呼ばれてます。」
本田「あぁ、型式にOがつくからかな?」
玉「このシリーズで基地に配備されてるのは私一人でして。あ、分からないことがあったら聞いて下さい。こう見えて、古株なんです。」
本田「へぇ、よろしく頼むよ、玉さん。」
迎えの車まで歩きながら話していた二人。
玉がトランクに荷物を押し込むと本田は助手席に、
玉は運転席に乗り込んだ。
船着場を出ると、何件もしないうちに、一面、田園風景に変わった。
黄金色の稲穂が時折の風になびいている。
本田「……こんな時期に移動かぁ。」おもむろに懐から、
紙タバコのケースを取り出すが、アンドロイドの目線がそれを制する。
玉「前任が殉職されましたから。」
本田「……あんま、気分のいいことじゃないね。」
火をつけてないタバコを咥え、車の天井を仰ぐ。
沈黙。
車は平和台公園の横を通り、勤務地の都城に向かった。
内戦の傷跡、そんなものは此処にはない。
綺麗なものだ。
のどかな田園風景に所々に農作業ロボットの格納庫が点在するだけだ。人影はなく、警備ロボットの横を通り過ぎる。
本田「どこも一緒か。」
玉「……あ、見えてきました。駐屯地です。」
金網のフェンスに囲まれた、ひときわ、大きい建物群が出てきた。
本田「娯楽施設はある?」
玉「それが、熊本に行かないと無いんですよねぇ。」
うわ、まじかよ。本田は顔をしかめる。
本田「中央は恵まれてたんだなぁ。」
玉「ご飯は美味しいらしいですよ?」
本田「そりゃ、ありがたい。」
ようやく見た人。ゲートを通って、無駄に広い駐車場に止める。
玉「え?あの人もアンドロイドですよ。」
本田「分からなかった……。」
自分の荷物を受け取る。男性型アンドロイド。人員を補完するために、地方は配備が進められている。とは聞いていたが、見るのはコレが初めてである。
本田「入ります。本田晃一、本日付で着任しました。」
狭山「よく来てくれた。兵長。」
大佐の部屋、執務室。紙の束に埋もれた。顔がひょっこりと顔を出す。眼鏡にひげ。どこにでもいる、制服組と言った風体。
狭山「今日は、部屋のセットでもしといてくれ。明日からで悪いが、現場の指揮をやってもらうぞ。」
本田「分かりました。」
狭山「あぁ、それと施設の地理も覚えろよ。玉、案内してやれ。」
本田の横で敬礼する玉が短く返事をする。
玉「行きましょう。案内します。」
部屋を出て、兵舎に向かう。流石にココまで来ると人間に出会う。若手と軽く会釈を交わしつつ自分にあてがわれた個室に向かう。
2つのカバンを開けて荷解きを始める。ここで新しい生活が始まるのだ。
本田「……」
玉「その本、どこに置きます?」
本田「ああ、自分でやるから大丈夫だよ。(エロイのもあるし)」
相手がアンドロイドでも、さすがに気が引ける。
後は一人でと本田は玉を部屋から追い出して、もくもくと自分好みに部屋をコーディネートしていった。
玉に連れられて、施設を見て回る。地図で見るより歩数、実寸の体感ができる。
本田「人とアンドロイドの見分けが大変だ。」
ここに、お世話になりたくないと病院棟を後にして、西の大きなハンガーに入る。
玉「あ、ちょうど戻られましたね。」
本田達と同時くらいに1台の装甲兵員輸送車が入ってくる。
初老の整備員が輸送車に近づくと、ハッチからゴリラのような大男が出てきた。
整備員「西尾!今日は、何も壊してね〜だろーな!」
ゴリラがうるさそうに頭をかく。
西尾「害獣退治に一丁ジャムっただけだよ。伊勢のおっさん。」
伊勢「あれほど、フルオートで撃つなと言ったろう!?ゴリラめ!」
ジャムったライフルを受け取った伊勢はぶつぶついいながら奥の部屋に入っていった。
玉「紹介の手間が省けました。」
本田「ちゃっかりしてる。」
玉に連れられて、本田も中へ入る。
それに西尾も気がついた。
西尾「玉、それが新しいうちの大将かい?」
本田「本田だ。よろしく、西尾……」
西尾「警備担当、軍曹だ。よろしく!大将!」
右手で握手、西尾はその違和感に手を離した。
西尾「硬え、義体か?それ。」
本田「力はあるようだな。軍曹。他の兵員は?」
西尾「俺以外はロボットさ。補充はねーよ。」
そこへ伊勢も戻ってきた。
伊勢「セミオートだけだぞ!馬鹿野郎!」
西尾「はえーな、おやっさん。」
玉「こちらは伊勢さん。整備長です。」
本田「本田です。お世話になります。」
伊勢「お前さん、リユースだってな。カスタムパーツ使ってんのかい?」
本田「いえ、既製品です。」
伊勢「なら、納期は大丈夫そうだな。よろしく。死ぬなよ兵長さんよ。」