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生きている蜘蛛

作者: 荒ぶる猫

小物制作に打ち込む少年が、より高みを目指し努力する姿。

 最近私は小物づくりに凝っている。

先達の方々から見たら作品と言うには烏滸がましいくらいに低レベルの出来だけれども、作る度に自分の技術力の向上が理解できて暇が有ったらこそこそと家族に内緒で制作している。

 作品作りの切っ掛けはあるフリマアプリで見た、生きているかのような針金で作られた蜘蛛のピアスだった4980円、学生の身である自分には少し値段は高かったがすぐに購入を決めていた。

 購入してもピアス穴に着けることなく細部を観察した。

 針金一本とビー玉で見事に蜘蛛の頭の先の触枝から始まり、腹部のビー玉を包み込み身体の終わりの出糸突起まで乱れなく制作されていた。

 すぐに自分もこのような作品を作ってみたくなりホームセンターへ行きラジオペンチと針金を一巻き購入した。

 しかしすぐに自分の経験不足が露呈してしまった。作品は曲がりやすく繊細なので持ち歩くのが躊躇われた為ホームセンターに持って行かなかったせいで針金は細すぎ編み込みに使用するのは柔らかすぎて触腕から作り始め脚を編んでいくと自重でつぶれてしまった。

 また時間を見て針金を買いに行ったときは購入時に入っていた小箱にピアスを入れて持って行き一番硬さが近い針金を買うことができた。

 これで練習して同じ蜘蛛のピアスが作れるようになるかもと思うと心が躍った。

 ピアスは複雑に織り込まれていて外から見てわかる部分はそのまま模倣して、内部の細かい折込は再度修復ができるようにスマートフォンで動画を撮影しながら針金を折らないように解体して折込の参考にした。

 自分で試行錯誤して再現を目指している間にも、このピアスを作った人の作品が出品されたのでもう一つ購入し、フリマアプリのメッセージ機能で自分がピアスを再現するために悪戦苦闘をしていると伝えたら製作者の方が「そんなに気に行ってくださったんですか」と大変喜んでくださり、貴重なアドバイスもいただけた。

 でも私が着用しないと知った製作者の方が少し残念そうに「まだ身に着けてらっしゃらないんですか?私はこの子達は身に着けられて命が宿ると考えているんです」と寂しそうに語った。

 私はその方の言葉を聞いて壊れないか不安になりながら蜘蛛のピアスを身に着け数日間生活をしてみると蜘蛛のピアスは外すたびに形を変え、ある時は獲物を待ち伏せるような縮こまった姿になっていたり、今まさに獲物に襲い掛からんと八足の足を広げた姿になっていたり、足を少し絡ませて困った動けない等の見る度に姿を変化させるこのピアスは身に着けて初めて一つの作品として生きていくのだと感じそこまで考えて制作している方に無機物から生命体を作り出す細やかな手技に自分の考えの浅さを思い知らされた。

自分でも生きている子達を作るため亀の歩みではあるがワイヤーアートに夢中になって取り組んでいる。

 私もいつか針金一巻きで様々な生命を生み出せるように努力しているが、曲げ方の力加減が絶妙で固くめげて制作してしまうと着用中に折れてしまう。命を生み出すことはとても大変な作業だと心の底から思わされ、心の中で師匠と崇める蜘蛛のピアスの制作者の域にはまだまだ追いつけそうにない.…

 蜘蛛のピアスを購入してからしばらくたつが元気いっぱいの蜘蛛たちに囲まれた自分の作品の死屍累々、自分の作品にも生命を宿す修練は終わりが見えないのであった。


針金は金属疲労で折れてしまう事多いですがワイヤーアートにはとても魅力を感じます。

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