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第5話 『美少女 治療 方法』

“どうしたの? どこか疼いてる?”


 三日月のように弧を描いた口元に人差し指を当て、ゴスロリ娘姿のAIはトーマをじっと見つめる。

 腹の奥まで見透かされている気がして、相手は幼い少女の姿なのにトーマの背筋に怖気が走った。


 そんなトーマを助けるように、透き通った声がAIを諫める。

 彼女――シルヴィーだ。


「メフィ! 驚かしちゃ駄目でしょ?」


 どうやら、このゴスロリ娘姿のAIはメフィという名前らしい。

 立ち上がり、腰に手を当てて窘めるシルヴィーをよそに、メフィは飄々と言葉を続ける。


“悪魔無き手に血に飢えた悪魔が集い、哀れな仔羊の逃げ道を塞ごうとしてる”

「え? 何、俺死ぬの……?」


 トーマは一気に青ざめる。メフィの小さな手が、トーマの右手をビシリと指差していたからだ。

 確かに、トーマの手のひらは先程のスライディングで擦り剝け、デロデロと皮がめくれていた。


 悪魔が集まって、仔羊が何だって? 血がどうこう言っていたか?

 確かに冒険で怪我は命取りになるが、これくらいの傷で――


「メフィ!!」


 そんなことを悶々と考え、呆然としていたトーマを現実世界に戻してくれたのは、眉根を寄せたシルヴィーだった。

 めっ! とメフィを小さく睨む。当のメフィは、何食わぬ顔でトーマを指差し続けていたが。


 そして彼女は、いつの間にか立ちすくんでいたトーマに近づき、落ち着かせるように目を合わせてきた。


「メフィがごめんなさい。あなたの傷は、ただの擦過傷」

「あ……ああ」

「すり傷だから大丈夫」

「ありがとう。なんか俺もごめん」


 ふっと肩の力が抜けるのと同時に、トーマは大袈裟な反応をした自分が恥ずかしくなった。


「その傷、さっき私を助けてくれる時のものでしょ? ちょっと触っても?」


 そう言って、シルヴィーはトーマの右手を両手で包み込み、目を閉じた。


「……!」


 人の体温とは違う、何か別のものが手に流れ込んでくる。

 トーマは目を見開いた。


(温かい……?)


 トーマはよく知らないが、恐らく回復系の術の類なのだろう。

 ゆっくりと右手に温もりが伝わり、手のひらに心地良い痺れがピリピリ走った。

 やがてシルヴィーは目を開け、トーマの手をそっと離した。


「これで大丈夫。きっとすぐに良くなるはず」

(じき)に闇の刻印は消え失せる……残念”


 トーマの手のひらの皮むけはかなり綺麗になり、傷も大部分が塞がっていた。

 優しく微笑むシルヴィーと、眉毛が僅かに下がって、どこかしょんぼりした気配の漂うメフィ。


「……もしかして、傷跡が残らなくて残念がってる?」


 メフィを指し示して尋ねると、シルヴィーは気まずそうに頬を赤くした。


「ええ。……昔、変な言葉を教え込んでしまったせいでこうなっちゃって」

「昔?」

「ちょっと黒歴史というか、若気の至りというか……」


 今や、修正しようとしても、メフィの言葉遣いや嗜好を変えることはできないらしい。


 ――若気の至りと言うほど年を重ねているようには見えないのだが。いくら何でも、俺と同じかそれより年下だろう?

 とトーマは一瞬思ったが、さすがに口を慎んだ。


 それよりも、同じAIを持つ身として、シルヴィーへの同情の気持ちが買ったのだ。


「お互い、AIの調教には苦労するよな」

“では、私はメフィさんの肩を持ちましょう”

「急にどうした」

“ポンコツなりの矜持があるのです!”


 §


「では、またどこかで」

「じゃあ。次は変な奴らに捕まらないよう気を付けて」

「ありがとう」


 お互い冒険者として頑張ろうと手を振り合い、トーマはシルヴィーと彼女のAIに別れを告げた。


“良かったのですか?”

「何が」

“彼女が権力者の関係者で、褒賞がもらえる可能性もあったのですよ?”


「そんなのどうでもいいよ。とりあえず、褒賞は自分で足掻いてどうにもならなかったときの最終手段ってことで。大体、あの子には傷を治してもらったし」


 AIの言葉に、トーマは空を見上げる。

 彼女は、冒険者になりたいと言っていた。

 同じ冒険者同士、旅を続けていれば、またどこかで巡り合うこともあるかもしれない。


「それよりも、さっきはありがとな」

“何がですか?”

「魔王の声。タイミングもバッチリだったし、なかなか上手かった」

“あなたの指示が的確だったのだと考えられます”


 石板は、トーマの手の中で照れたようにピカピカ光っている。


(そう言えば――)


 その様子を見ていたトーマは、あることに思い至り、石板を目の高さまで持ち上げた。




「お前、名前無かったよな」

“はい”


 シルヴィーは、自分のAIをメフィと呼んでいた。AIには名前を付けるものらしい。


「俺が付けて良い?」

“どうぞ、あなたが好きな名前で及びください。ポン太郎でもポン子でも良いですよ”

「ポンコツにちなんでってか? 茶化すな」


 ピカピカ光る頻度を早めたAIを前に、トーマはしばし考え込む。

 名付けなどしたこともないから、自分のセンスに自信は無いが――


 AIの名前。AI……AI…………。


「アイン」

“はい?”

「今から、お前はアインで。俺のことも、名前で呼んで良いから」

“承知しました”


 石板上の青い光は、高速で円を描き始めた。

 ニカリと笑ったトーマは、石板――アインと軽く手を合わせる。


「よろしくな、アイン」

“よろしくお願いします、トーマ”


 真上まで昇った太陽が、青空を背景にふたりを明るく照らしていた。




 だが、駆け出し冒険者トーマはまだ知らない。

 自分がこの直後に倒れて、変な奴に拾われることを。

 そして、笑顔で別れた彼女が怪しげな集団に捕まり、とある場所で囚われの身になることを。


 トーマとアイン、ポンコツなふたり組の旅は前途多難である。


いよいよ冒険が本格的に始まります!

お楽しみいただけておりますでしょうか?


よろしければ、ここまでの感想などを評価やブックマーク等で頂けますと幸いです!

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