猫と小判
黒い艶やかな毛並みの猫が一匹、夜中の神社で地面を掘っていた。
どれくらいそうしていたのだろうか。やがて猫は地面を掘るのをやめた。地面に埋まっていた古いツボにぶつかったのだ。
猫は口と前足を使ってツボの蓋を器用に外すと、その中に入っていた小判を一枚取り出す。そしてまた器用に蓋を戻すと掘った穴を埋め、小判を咥えて歩き出した。
やがて猫は長屋に着くと、そこに住んでいる母娘の布団のすぐそばにその小判を置いて、自分は布団の端で丸くなった。
朝になり目を覚ました娘が小判を見つけ、声をあげる。
「母さん、また小判があるよ」
「あらあら。仏さまのご加護かねえ」
母親はその小判を大事そうに抱えると、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
娘の膝丸くなっていた猫は、二本の尾をゆらゆらと動かしていた。
娘はそんな猫の喉を撫でると「クロはこの小判のことなにか知らない?」と尋ねた。猫は娘を見上げるとにゃあと鳴く。
百年余りを生きたこの猫は、人の世も小判の価値も理解していた。だが、二つの尾を恐れることなく自分を可愛がってくれる、この貧乏な母娘の方が、もっとずっと大事だった。
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