魔法陣を書き忘れた俺の股間を、人間のアニマルにするにはどうするんだよ!
―旅を始めたその日の夜
月夜の下、野宿の為の焚火を囲み、俺はエテルネスに、とある相談をしていた。
「お、オジキ」
「なんじゃ?」
「俺、違和感があるんだ。
絶対コレはこんな形をしていなかった。
記憶はほとんど残っていないが、これは覚えているんだ」
「だからなんじゃ?」
「だから……とっても違和感があるんだ」
「だからっ!ああ、もう。
頭を整理してから話してくれ」
「さっきトイレ行ったんだ!
そしたら俺のが……とにかく見てくれ!」
そう言うと、俺はズボンを下ろした。
焚火の炎の光に晒す俺の股間。
エテルネスはとっさに目を背け「汚い物を見せるな!」と叫び、次の瞬間股間を凝視した。
「な、なんじゃ。これ?」
「見ろ、俺のち〇こ……いつも獣のままなんだ」
「ココだけ神?」
「いや、ココだけ……なぜココだけいつも獣神ヴィストベルなんだ?」
俺がそう尋ねると、不安に駆られる俺の前で、エテルネスは全てが分かったようで叫んだ
「……ああ!そうか」
「知ってるのか?」
「……ここだけ、魔法陣を彫ってないわ」
「え?」
「だから、全身くまなく魔法陣を彫っておったがな。
お前のその……ケダモノだけ彫ってない」
「ち〇こで良いよ!めんどくせぇよ‼
ソレよりソレが一番大事だろうが!
何でち〇こだけ、そんな大事なモノを彫り忘れるんだよ!」
「いや……
ち〇こにそこまで、気持ちを込めて刺青を彫る必要が……
必要、だったのか?」
「当たり前だろうがっ!見ろよ、俺のち〇こをッ。
一番大事な所だろうが!
テメェ、天然で坊主みたく禁欲生活を、俺に送れって言うのか⁉」
「女の事……おしっこは出るのか?」
「出る。それより女の事だ!」
「おしっこが出るなら良かったのぉ。
それより、いや……相手次第じゃないのか?」
「どんな相手だ?」
「ああ、まぁ……人間にこだわりたいか?」
「当たり前だろうが!
ふざけたことを言うんじゃねぇっ!」
「それなら……
愛さえあれば、障害なんて……」
「越えられない障害が目の前のち〇こだ!
これじゃ女相手にどう愛を打ち明けたら良いんだ!」
「……正直に言うとか?」
「バカ野郎!
もっとそれ以前の問題として、使いたいときに使えないだろうがッ。
こんな毛むくじゃらなのどう使えっていうんだよ!」
「形も変だし、無理じゃのぉ」
ダメだ、コイツと話すと頭がおかしくなる!
そう思って頭を掻きむしっていると、エステルネスは何かを閃いたらしく「あっ!」と叫んでこう言った。
「そうじゃ、ヴィストベルのち〇この因子を、組み込むのじゃ」
「ああ?」
「実はな、心臓を因子にしてお前さんの体に埋め込んだ時、お前さんの心臓は人間の姿を保ったが、他の体の部位は、獣神ヴィストベルに似てしまったのじゃ。
刺青はそれを抑える目的で、全身に彫り込んだ。
他の被験者も同じ症状が出てな、手の因子を埋めた者は、手以外が獣神に似る。
それならば……ち〇この因子をお前さんに移植すれば」
「俺、人間のち〇こに戻るんだな?」
「おそらくは……
やってみないと判らないが……」
判らないって……いや、それはそうか。
「どうする、ええ?
一体どうして……ええっ?」
何を思ったり、そして言えば良いかも分からず混乱した頭。
そして俺は無様にも立ち尽くす。
ただどう考えても出せる結論はこれしかない……
俺をこんな風にした、キリトウへの憎悪と、ち〇こ復活をかけて、ち〇この因子を俺の名中に移植する事。
この二つだけだ。
俺は「だ、大丈夫か?」とエテルネスに尋ねる。
……奴は溜息を吐いたまま、焚火を見たまま何も答えない。
腹立つわぁ……
その傍らで俺は夜空を見上げ、その闇夜の中に、在りし日のち〇この姿を妄想するしかなかった。
ため息がこぼれる。
失われた記憶のその先に、つるっとした姿の俺の猛獣が、微かに思い出された。
ああ、悲しき俺の運命。
俺は一生をかけて、獣神ヴィストベルのち〇こを探さないといけないのか……
晴れた夜川岸では、俺達以外にも船旅の人間が幾人かいて、それぞれ焚火を燃やしては、荷物を守り、そして眠りについていた。
3時間ごとの交代、という事で俺はエテルネスと見張り番をする。
「誰も居なけりゃ寝るのだが、こうも色んな所に人影があると、泥棒に気を使わなきゃならん。
面倒な事だ……」
「ああ、そうだな」
そう言いながらまずは俺から先に眠りにつく。
◇◇◇◇
―旅には馴れたか?ダフィー……
気が付くと、俺はどこだかわからない場所に居た。
建物の中なのか、外なのかもわからない場所。
俺の事を伺うような目で見ている、目の前の女。
以前あった事がある、美しい女だ……
「また会った……」
『―ああ、また会った……
あははは』
なぜ笑われたのかもわからず困っていると、女は『―済まぬ、面白かったのでな』と言って、俺の目を覗く。
『―残念じゃったの、お前は女を愛せぬ身体じゃ』
「見てたのかよ」
『―ああ、そこでじゃ。
―お前の褒美を考えてみた、お前に力を授けてやろう』
そう言われると、初めてこの美しい女に対して興味と疑問を感じた。
「あなたは……誰?」
『―フィーリア……知っておるか?』
「いや……」
『―いずれ分かるであろう。
―ソレよりも問いに応えよ。
―おぬしに授ける力だが、キリトウが派遣してくる劣神を倒し、その部位を奪った時に、その部位をお前の体の一部と成すものとする。
―興味があるだろう?」
俺はそう言われた瞬間目を見開いた。
それはすなわち……
「ち……いや、陰部を持つ劣神を倒し、その部位を奪えば」
『―お前の、その……は元に戻るだろう』
ヌ、ヌぅおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおっっ!
俺の体に力と喜び、そしてヤル気が漲ってくる!
『―どうじゃ?』
「やります、やらせてください!
俺にその力を授けて下さい!」
『―よかろう、では……私を裏切るなよ、ダフィ。
―裏切れば、お前は死より辛い目に合わせる事になる。
―夢々忘れるな……お前に刻印を授ける。
―場所は……魔法陣の刺青が無い場所だから。まぁ……そこだ。
―しっかり励め、必ずキリトウの息の根を止めるのだ』
そして、俺はち〇こに秘跡を賜った……
◇◇◇◇
―旅は続いて、一ヶ月後の現在
……秘跡を賜る場所、他になかったのだろうか?
小舟の旅も終わろうという時、遠くに見える幾艘もの大型船を見ながら、俺は初めて過ごした夜の事を思い出していた。
フィーリアと名乗る女から、秘跡を賜った事は、今でもエテルネスに明かしてはいない。
あの後俺は目覚めて早速ち〇こを確認して見たんだ。
ち〇こは毛並みが艶々になっていて、それっぽい模様もある、でもこれが秘跡の証なのかは自信が無かった。
……もっとしっかり元の毛並みを見ておけば良かったと、今は思う。
「お、見えたぞ、あの尖塔はモーザンリップ大神殿だ!」
艪を漕ぎ続けていると、舳先の近くでエテルネスがそう声を上げた・
大船が風を受けて海に向けて走り出すと、その陰から高い尖塔と、大きな石造りの建物が姿を見せる。
「これが目的地か?」
「ああ、ダフィー。
エルワンダル大公様にもうすぐ会えるぞ。
もう少しでこの旅も終わりじゃ。
今夜は宿屋に泊まれるぞ」
「へぇ。そりゃ良かった。
小舟で俺達も良くここまでこれたな、やればなんとかなるもんだ……」
「今日はゆっくり寝られそうじゃ……」
◇◇◇◇
エルワンダル大公は、ヴァンツェル・オストフィリア国とダナバンド王国と言う二つの国に仕える、大きな領地を持つ大諸侯だ。
元々はエルワンダル族の族長の家と領土だったが、その一人娘の為に、かつてヴァンツェルとダナバンド全土を治めていた大帝国。
フィラーエ帝国の、皇室であるカストロフ家の人間を婿養子に取り、臣従した関係でこの家は特別な待遇を得るに至った。
そしてフィラーエ帝国が分裂した後も、エルワンダルは緩衝地として、二つの国が分割した。
そして引き続き、エルワンダル大公家が両国に仕える形で、ココに君臨し続けている。
◇◇◇◇
「そんな歴史ある大公様の都が、このモーザンリップじゃ」
一か月も大河アウベンを下った俺達は、遂に目的地へと辿り着いた。
ソレがモーザンリップと言う、大きな港町である。
「河用の港がアソコじゃ」
「河用?」
「ああ、海の方の港はもっと西にある。
河が運ぶ土砂によって埋められてしまうからな、ココにあるのは小規模な河用の桟橋だけじゃ。
だがソレでも立派な港だな。
なにせ遠くエルワンダルにまで、荷物を運ぶ船が停泊し、荷物を積んでいくのだから」
やがて俺達はそんな幾つも並ぶ桟橋の、小さな物の一つに小舟を係留すると、役人に停泊料を払って港の外に出た。
モーザンリップは大きくて華やかな街だった。
見渡す限り人、人、人の群れが行きかう。
これを見てさすがに不安に感じる。
「な、なぁオジキ」
「なんじゃ?」
「大公様って、一番偉いんだろ?」
「当たり前じゃ」
「こんな立派な街や、屋敷をもって、しかも西から東に5日も掛けて、川を下らないといけない大きな領地の貴族が。本当に俺達を向かえてくれるのか?」
「あん?当たり前じゃろ。
ワシと大公様は仲が良いのじゃ!
前に話しただろうが」
嘘くせぇ……
一か月コイツと一緒に居たけど、そんなに大した奴だと思えなかったぞ……
だから宮殿に着いたら、門前払いさせられるとかになっても驚かねぇ。
そう思いながら、人混みをかき分けて街を歩くエテルネスの背中について行き。
そして決めた。
よし、門前払いを食らったら逃げよう。
俺は自由になる!
こうして、疑いの目で見られている事にも気が付かず、エテルネスはとある宿屋に辿り着いた。
「ココがわしらの宿じゃ、まず荷物を置こう」
「宮殿は?」
「取次ぎを準爵様にお願いする。
急に行っても会えんからな」
……まぁ、そりゃそうか。納得。
宿屋で働いている少年に頼み、ボーヴァロド準爵と言う貴族の家に、旅を終えたことを報告する手紙を届ける事にしたエテルネス。
そして俺にこう言った。
「明日の昼前に、準爵様にお会いする。
そこからは、またしばらく宿屋に逗留するからな」
「すぐには会えないのか?」
「ああ、待つ時は2週間待たされる事もあるし。
さらに酷いと戦争に勝手に出かけて、忘れ去られた事もあるぞ」
げげっ!
何と言う、酷い扱い……
「大公様はそこまで変な事はせぬから大丈夫じゃ」
「それよりも、服を見繕わなければな。
貸衣装屋にこれから行くか……」
「な、なぁオジキ。
大分お金がかかっているけど、お金が続くのか?」
「うむ、まぁ……実は、な。
ワシは大魔王様が残した財産を隠し持っているのだ」
「へ?」
「驚いたか?」
「……着服していたのか?」
「違うッ。各地に残した隠し財産を、復讐の為に生かしているのだ!
ワシが盗んだみたいに言うな!」
そう言うと部屋の外に出て行くエテルネス。
……いや、アイツ勢いで押し切ったけどさぁ、普通はそれを盗んだと言うと思うぞ?
なんか釈然としない。
とにかく、そう思いながら大人しく奴について行って、俺は明日着る礼服を用意する事にした。
◇◇◇◇
貴族の朝は一番豪華な食事をする。
ソレが終わってから、様々な公務を行うのだが、客人の謁見はだいぶ後になってからする事が多い。
そうエテルネスから聞かされていたので覚悟していると、来て早々に準爵に謁見できた。
「おお、待っておったぞ、エテルネス!
そして、後に居るのは、手紙にあった甥だな?」
「はい、準爵様!
田舎から出て来たばかりの無作法モノですが、中々腕は立つので、今回は手伝わせようと思って連れてきました。
さ、ダフィ、準爵様に挨拶せよ」
「あ、はい。
ダフィー・り、リンカルネと申します。
宜しくお願いします」
噛み噛みになりながら、そう答えて頭を下げると、準爵様は「フム」と頷いて、優し気に微笑んだ。
「まぁ、大公様もあまり礼儀にうるさくはない。
敬意を持てば良かろう。
それより、持ってきたのか?」
準爵様はそう言うと、俺にはもう興味がないらしく、エテルネスに何かを尋ねた。
「はい、コチラに……」
エテルネスはもう分かっているらしく、蝋印で封じられた、何かの証書を準爵様に渡した。
準爵は近くの机にあったペーパーナイフを、持つと、ぺりっと蝋印を剝がしそして中の証書を確認する。
「確かに、チェルヴェニ・シュティート商会の預金証明書だな。
額も聞いていた通りある……」
「はい」
「これは父から受け継いだ遺産なのだそうだな?」
「左様です。
今回、この金を全額エルワンダルのこの計画に投資したいと思います」
これを聞いた準爵様は、本性を現したように悪い顔でニヤッと笑う。
「では、リンカルネ。
この話は大公様にお伝えする、面会日その他は追って連絡をいたす。
例の宿屋にいるのだな?」
「はい、お召しがあればいつでも駆け付けまする」
「分かった、それでは他にあるか?」
「特にはございませんが、ダナバンドで流行っている、香料を手土産に持参致しました。
女性が好む甘い匂いとの事ですから、ご家族の方に差し上げて下さい」
そう言ってエテルネスは、美しい小箱を差し出した。
「おお、それはそれは、良きものを頂いた」
「喜んで頂いて何よりです、それでは……」
そう言ってこの準爵様の所を後にした俺達。
1~2週間は待たされる事を覚悟で、宿屋に下がったのだが、連絡は直ぐに来た。
翌日の夕方ごろ、大公様の使いの者が宿屋に来て、明日の夕方迎えの者を寄越すから、参上するようにと伝えたのだ。
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