俺を連れて、勇者を裏切った男の素性
陸路は関所が多く、行き先を尋ねられることが多い。
その為俺達は船に揺られて、1ヵ月の旅を続けた。
「……ワシ等の行方を眩ますのに必要だからな」
そういうエテルネスに「ほーん」と言いながら俺は言った。
「オジキ、船なら関所が無いんか?」
「オジキ?
お前……まぁええわ。
法律でな、川は全部国王の所有物になるんじゃ。
じゃから川にある関所は、国王が作った一部のモノ以外は存在せん。
と、言うのもその昔。
管理不十分な地方の川の関所に勤務する奴が、勝手に税金取った上に、そのお金で軍資金を作って反乱を起こしたのじゃ。
じゃから以後関所は、滅多に作られたりはしなくなった」
「やべぇなソイツ!
かなりラリったクソ野郎じゃん!
国の金盗んで、その金で自分の国にドロップキックとは相当だぜ……」
マジで大した野郎だと感心していると、エテルネスは唖然とした顔で「え、ソコは感心するところなのか?」と、返した
「まぁ、うん……お前さん変わっておるの。
まぁええその後は、な。
それなら川から関所を無くした方が、良いとなったのじゃ。
結果実際にモノの値段が劇的に下がったから、民衆の不満も減り、治安も良くなったので今に至るみたいじゃな」
なるほどね……流通コストが下がったのね。
関税が無くなるだけで、皆の生活が楽になったのか……
こんな感じで、俺とエテルネスは際限なく続く川下りの時間を、無駄話で埋めて行った。
◇◇◇◇
そんな訳でひと月にも及ぶ旅と言うのは、話すのに十分な時間だ。
忘れられる訳もなく、コイツは俺を苦しめた憎い相手である。
それと同時に恩人でもあり、この男に興味が湧いてくるのは当然でもあった。
色々尋ねる機会は腐るほどある。
そこで旅を始めて1週間が経った頃、意を決してこんな質問をぶつけた。
「そう言えばオジキ。
何で魔王の所に居たんだ?」
船尾で船の櫓を漕いでいたエテルネス。
彼は、何時かこう尋ねられる事を覚悟していたみたいで、表情一つ変えずに答える。
「……ワシはリッチに育てられたんじゃ。
まぁ正確には、ワシの親がリッチになり、そのまま育てられた。
親は魔導士でな、そのまま魔王様の所で幹部に出世し、その縁でワシは、魔王様の所で魔導研究所に勤め、そして修行もしていた。
じゃから、人間でありながら、ワシは魔族の方に親近感があるのよ」
えっ、パパはアンデット?
どんな事をしても、蘇って子育てしなきゃと、心に決めて一度死んだ人?
パパ、立派だとは思うけど、色々執念深い人なんだな……
「親は死んでも、オジキを育てたって言うのか?
それは立派なもんだ」
エテルネスにそう言うと、ハイライトが消えた目で彼はフッと笑った。
「……母に隠れて彼女がいたらしくてな。
パパはそこで腹上死した」
「はい?」
「つまりいけないエッチな事をしている最中に突然死したのじゃ、たまたま嵌めていた“死者の指輪”のせいでリッチになったがな。
良くある話じゃ……」
「良くある話なのか?」
「ああ、良くある、良くある」
「そうなのかぁ……」
「その後大変じゃったがな、パパは死んだが、ママに頭を下げて浮気の件を謝っていたが離婚するまでも無く別れる事になった。
……死んでるんでな。
それでワシはパパに連れられて旅に出た、魔導士の修業中だったからな、そのままパパに魔導を教わったのじゃ」
「それは、まぁ、大変だったな……」
そう、言葉を濁すと、俺の思いに気付かず、エテルネスは自分の過去を語る。
「まぁ、自分でも不思議な人生だと思うぞ。
それで色々あって魔王様に仕える事になったが。
ある日魔王様は、ヴァンツェル・オストフィリア国との最終決戦の為、非常に強力な魔道具を製作しようとされた。
そこで目を付けたのが、ダナバンド王国の、南に浮かぶネッドウェイズ島にあるコーフヴィストベル山。
その下に封じられた、獣神ヴィストベルの死体。
その死体を部位ごとに切り分け、それを因子と成し、魔道具に特別な力を付与しようと計画したのじゃ。
ワシはリッチになっていた父と一緒に、その研究をした。
あの頃が一番人生で楽しかったのぉ。
そして研究も進み、ワシも若くなくなり、多くの知識と実力を身に着けた頃、全てが終わった。
勇者キリトウが現れて、ワシの父や他の幹部、そして……魔王様を殺したのじゃ。
ワシは、捕らわれの身となり、魔王様の命で働かされていた人間の振りをした。
生き残るためには仕方が無かったのじゃ。
……死ぬのが怖かったからな。
そして、キリトウはこの研究に興味を持った。
そしてあの悪魔はこう言ったのじゃ。
『人間にこの因子を埋めれば、チート人間が出来るんじゃないか?』とな。
……そう言えば当時、チート人間とは何かが分からなかったな。
……話を戻そう。
いかに恐ろしい魔王様とは言え、さすがに生命を冒涜はしなかった。
だが、キリトウはそれを思いつき、そして実行したのじゃ……
その結果は恐ろしくもおぞましい物となった。
人間はドンドン死んでいった……
魔物も、動物も、奴が気まぐれで選んだ生き物は全部死んだ、例外はいない。
誰も生き残らなかった。
勇者キリトウは人間の為に戦う、勇者と聞いておったが、実際は全然違う……
そして恐ろしい実験はどんどん続いた。
やがてキリトウとその取巻き達は、死ぬ度に少しずつ術式を変え、刺青で術式を体に彫り込むやり方開発した。
その結果には吐き気がするが。
それでも、だんだんと、いずれ死んでしまう人間の、生きる時間が長くなる。
そして……お前さんは生き残った。
予定されたヴィストベルの因子の全てを肉体に組み込み、そして体に定着した初めての被験者となった。
後は人格を消滅させれば完成じゃ。
これでキリトウが望んだ、奴に忠実な無敵の戦士が誕生する。
……それを邪魔したかった。
父、そして主である魔王様の命を奪ったアイツに一泡吹かせたかった……」
悲しみが浮いた声音で、語るエテルネス。
揺れる小船の舳先は水面を滑らかに切り裂き、下流へ、下流へと流れて行く。
そんな僅かに撓む水面を眺めながら、俺は怒りを覚えていた。
コイツはてめぇ勝手に言いやがる。
「……実験の為、俺をいたぶって楽しかったか?」
返答次第では殺そうと思いながら尋ねた。
奴は、項垂れながら、申し訳なさそうに言った。
「……悪かったと思っている。
術式には自信も少しあった。
だが、どうせ死ぬし、失敗すると思った。
だけど、お前さんは生き残った。
……それが判明するまで、特別な感情を被検体である人間に抱かない様にしていたんじゃ。
正直に言うと、死んでいく者を見るのは辛い。
徐々に人間は知恵と感情がある動物だと、認識しない様にしていた。
そうすると、殺しても罪の意識が軽くなった気がしたんじゃ。
……すまん」
「すまんで済むのかよ……」
「どう詫びたらいい?」
自分があの、暗く汚い地下室でどんな思いで過ごしたと思っているんだ!
それを、今更。今更謝ったか、コイツ……
色々やるせなかった。
そして自分の感情と、折り合いをつける為に尋ねる。
「俺をこんな風にしたのは、キリトウに命じられたからなんだな?
キリトウの野郎が、全部お前にやれと言ったんだな?」
エテルネスは「そうじゃ」と言い、それを聞いた俺は言葉も無く、深いため息を怒りと共に吐き出す。
そしてむしゃくしゃしながら言った。
「一発殴らせろ、それでチャラにする」
俺がそう言うと、エテルネスは顔を引きつらせたが、俺の目を見て本気だと分かると、覚悟を決めて目を閉じた。
だから其の鼻っ柱目掛けて、思いっきり拳を振りぬいた!
バコン!
勢いよく飛び出る鼻血。鮮血が小舟の上を汚す。
「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」
小舟に同乗する子犬が、乱暴をした俺を咎めるように吠え掛かった。
「大丈夫だ、もう殴らん……
オジキにもうこんな事はしない、吠えるなよ」
「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」
犬はそれでも、俺を咎めるように吠え続ける。
エテルネスはヨロヨロと上半身を、狭い小船の上で起こし始めた。
「手を貸すよ……」
「す、すまん」
手を貸して彼を介抱する。
エテルネスはよろけた。
「船は代わりに俺が漕ぐ……」
彼は俺の手を借りながら、小舟の中ほどに行き、俺は代わりに漕ぎ手になるべく船尾に向かった。
「漕げるのか?」
「大丈夫、さっきまで見てた、あの通りすればいいんだろ」
「ハァ……スマンが頼む。
目眩がして体が動かせん、鼻血が止まるまで休ませてくれ」
「ああ、旅は長い、休みながら行こう」
なんだかんだ、コイツに救われた命、だ……
見よう見まねで舟を漕ぎながら俺は思った。
あのままキリトウとやらに壊されるよりも、何倍もマシな人生。
そうだよな、俺……と。
◇◇◇◇
こうして俺らの旅は続いて行く。
雨が降ったら足止め食らいながら、ひと月の旅。
やがて、あと3日で海に出るという所で、エテルネスは船の上で言った。
「もうここまでくれば安心じゃ。
ヴァンツェル領のエルワンダル大公領内じゃしな」
「エルワンダルはヴァンツェル領以外にも、色々在るのか?」
「ああ、どちらも大公様の領地だが、西半分はダナバンドの封土、東半分はヴァンツェルの封土。
大公様は複雑な領地を収めておいでだ。
まぁ……じゃからワシ等の逃げ込む先に相応しいという訳じゃな」
「なるほど……」
やがて、エテルネスはスッと、険しさの取れた表情を浮かべ、こう言い始めた。
「正直に言うとな、エルワンダルで仕事をする事になったのはたまたまじゃ。
2年間、色々な諸侯に自分のアイデアを実現しようと陳情書を出した。
何人もの諸侯の前に進み出て、自分の計画を説明もした。
自分が好きに出来る土地が欲しかった。
キリトウと戦う為の、ワシの力の根源となるモノがな」
「キリトウを本気でヤルのか?」
「父の仇じゃ、絶対に許す事は無い」
「そうか……」
「魔王様の仇でもある」
その憎悪の念が籠った言葉を聞くと、何も言えなくなって黙った。
そして大した奴だと、少し尊敬する。
エテルネスの言葉は続いた。
「荘園の開発だとか、田舎の開発だとか、色々提案した。
その内の一つが、今回の橋と、街の建設の話だ。
地方の男爵が興味を示してくれると思ったが、まさか大公様がこの話に乗るとは思わなかった。
だが……寄らば大樹の影。
大きな諸侯の方が実現の可能性も大きかろう。ワシは運が良かった……」
話を聞きながらも、船は海を目指して進んでいく。
やがて下流に近づくにつれ、川幅は広く、そして幾つもの支流に分かれ始めた。
川の流れも緩やかだ……
そんな中でも川が狭くなった場所はあり、小高い丘を両岸に持った場所で、エテルネスが言った。
「ココじゃ、ココに橋を作る」
「え、なんで?
さっきの所の方が低くて橋を架け易かっただろ?」
「あほう!そんな所に橋を架けたら、船が通れんじゃろ!
アウベン川は大きな船も行き来するんじゃぞ。
だから帆の高さよりも高い場所に、橋を架ける。
きっと栄えるぞ……良い街になる」
「…………」
俺はこの両側に小高い丘を抱えた場所を見ながら、此処に高い橋梁を備えた橋を思い浮かべた。
その下を通る幾つもの大型帆船。
橋の上を通る、荷馬車の列……
「実現したらすごいよな」
「ああ、実現する。
良い街になる、絶対に良い街になる。
ワシは口先だけの男じゃない。
ずっと、この日を待って居たんじゃ……」
妄想で描いた、橋の想像図。
それを白昼夢のように見ながら俺は思った。
思っていたよりも、楽しそうじゃないか、しばらくそれに付き合うのも悪くないな。
読んで頂きありがとうございます!
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