戦場
蒼とサンダーは、森の中を走っている。
二人の周りでは、爆発音、ビームが射出されるような音、刀同士がぶつかり合う音。
そして、人の叫び声もが聞こえる。
「蒼。スピードを上げるが、ついてこれるか?」
「だ、大丈夫だ」
サンダーは、その返答に心配そうだった。
でも、蒼なら、なんとかなるか、と思い込んだ。
「白虎!」
その言葉に呼応したのか、サンダーから、一本の白い尻尾が出現した。
そして、四足歩行になると、木の葉を散らし、枝の上を飛び移りながら、一気に森の中をかけていった。
「やっぱり、速いな」
蒼が気づいたときには、サンダーは50メートルくらい先のほうにいた。
「(やっぱり、ついてこれてないな)少し、スピードを緩めるか」
そう思っている内に、サンダーは森を抜けると、少し開けた場所に出た。
その3秒後に、蒼も到着した。
「待て、蒼。誰か、いる」
サンダーの目線の先には、白いローブを羽織った白髪の4、50代くらいの男性が立っていた。
しかも、左手に剣を持っている。
「警戒しろ!情報から考えて、あいつは○○を襲った奴と一緒だ!」
それを聞いたサンダーは、蒼が止める間もなく、敵に飛びかかり、尻尾を振り上げていた。
キンッ、という音がして、敵の方を見ると、攻撃は剣でしっかりガードされていた。
「こんなもの、押し込めばいいだけのこと」
サンダーは、尻尾の威力をあげたが、びくともしない。
それどころか、剣が尻尾に食い込みはじめた。
蒼はサンダーが抜け出す隙をつくるため、2本の刀を出現させ、敵の方に飛ばした。敵はその攻撃を視認することなく、軽々と弾き返してみせた。
「だが、これで・・」
サンダーは、蒼の意図とは逆に、敵に刀で攻撃を仕掛けることにした。
その攻撃は、いとも簡単にかわされてしまった。
そして、気づいたときには、腹に重いものがあたり、蒼を巻き込んで、ふっとばされていた。
「蹴りだけで、この威力か」
サンダーは目を見開いたまま、敵の方を見て、ブルブル震えている。
「次は、オレが行く!サンダーは、回復しといてくれ」
サンダーは、震えながらも、小さくうなずいた。
蒼は刀を構え、サンダー並のスピードで敵の方に突っ込んだ。
敵も剣を構え、蒼の方に向かってきた。
その瞬間に、敵の真後ろに刀を2本作り出し、飛ばした。敵は、その刀をスライディングでかわした。
「来る。ここは一旦・・・」
その瞬間、蒼は、サンダーと同様に蹴りが来ると、感じた。そのため、数歩下がる選択をした。
「フン、やはり、そう動くしかないよな」
敵がそう言った次の瞬間。
瞬きする間もないまま、蒼の刀は弾き飛ばされた上に、敵の剣が蒼の服を貫き、持ち上げられていた。
「くそっ。避けきれなかったか」
「終わりだ。」そう言うと、敵は、右手に力をため始めた。
だが、蒼はそのピンチに動ずることなく、敵にニヤリと笑ってみせた。
「お前がな!」
蒼は、上空に配置した刀を敵に向かって、一直線に落とした。それは、サンダーが逃げるための隙をつくる時から、あらかじめ配置していたものである。
「なるほどな。だが・・」
敵は蒼と同じように剣を2本出現させると、刀に向けて飛ばし、落下の軌道を外らせた。
「くそっ!」
蒼は苦し紛れにもう一度、敵の後ろに刀を2本出現させた。
敵は、指を鳴らして、「ズラウル」と呪文のような言葉を唱えた。
その次の瞬間、敵の真後ろの地面から大きな剣が生えてきて、蒼の刀はまたまた防がれてしまった。
「何度やっても、同じことだ!これで、終いにしてやる」
蒼に喉元に敵が浮かび上がらせた剣が突きつけられた。
(ピンチだな、これは。あの状態のサンダーに頼るわけにもいかない。どうすれば・・・)
「安心しろ!一撃で終わらしてやる。苦しむ間もないようにな!」
そのとき・・。
「蒼!」回復を終えたサンダーが、ヨロヨロしながらも、こっちに駆けつけているのが見える。
「邪魔だ!」
敵は、そう言い、サンダーに目がけて、1本の剣を飛ばした。
サンダーは、それが見えていないのか、そのまま突っ込もうとしている。
だが、サンダーは足を何かに引っ掛けてコケてしまったようだ。
「サンダー!そのまま、伏せてろ!」
サンダーは、わけがわからないまま、蒼の言う通りにした。その結果、敵が飛ばした剣はサンダーの上空を過ぎ去り、当たらずに済んだ。
「外したか。」敵は澄ました顔をしてそう言ったが、蒼からは少しだけいらだっているように見えた。
「痛っ。一体何に?」
サンダーは、足元を見ると、蒼の刀が転がっていた。どうやら、柄につまずいたみたいだ。蒼の方を見ると、刀を持っていないのが分かった。
この状況を見たサンダーは、自分の刀と蒼の刀を手に取った。そして、まず、自分の刀を敵に向かって投げた。それを敵が避けようとした時、サンダーは、蒼の刀を持ち、切りかかった。とっさに、敵は剣を振り、対抗しようとした。
「よし!」敵の行動は、サンダーの思い描いていた通りになった。敵が剣を振ったことによって、蒼の服から剣が抜けたのだ。
作戦が成功した為、切りあう必要がないと思ったサンダーは、一旦木陰まで退くことにした。
「よし、回収!」
瞬時にサンダーの刀を拾い、蒼も一旦サンダーのところまで、引き下がることにした。
「大丈夫か?蒼」
サンダーが蒼の肩に手を置き、心配そうに覗き込んでいる。
「なんとかな。助かったよ、サンダー!」
蒼は、膝をつき、息をハアハア鳴らしながらも、笑顔で答えて見せた。
「よかった。今度は蒼が休んでろ!敵の能力は分かった。私ならやれる」
そう言い、背を向けて歩き出した。
「いや、さっきはオレも一人で突っ走って悪かった。今度は二人でやろう」
蒼は、サンダーの手を掴み、立ち上がって、そう訴えかけた。少しの間があった後、サンダーは「わかった」とうなずいて答えた。
「よし、敵が気づいてないうちに、作戦会議だ」