試験とは・・
ヴィトンは、二人の前に側近チーム選抜試験推薦状を差し出してきた。
「これは・・なんですか」
蒼は推薦状を手に取り、そう言った。
「まあまあ、読んで見れば分かるって!」と言い、ヴィトンは早く読んで欲しそうな表情と素振りをしている。その横で、ロートンはお茶を飲みながらも蒼とサンダーのことをチラチラと見ている。
紙の内容は・・
○選抜試験推薦状
・この推薦状は、任意である。
・承認した場合、一次試験を無視し、二次試験から始めることが可能となる。
・この試験は、必ず3人一組のチームで参加すること。
・この推薦状の差出人は、現王または現側近でなければいけない。そして、直接の手渡しでない限り無効となる。
後は、名前を書く欄があったりするだけである。
「読んでくれたみたいだね。それで、承認してくれるかな。二人とも。」
ヴィトンが返答を聞く前に、サンダーは何も言わずに推薦状にサインをして、ヴィトンに提出していた。
「サンダーちゃんは即答か。いいね、思いっきりがあって。蒼くんは・・・」
「一つ質問していいですか。サンダーは気づいてないみたいですけど」
「質問って、あと一人はどうするの・・でしょ。」
蒼がうなずいている横で、サンダーは(確かに)と言いたそうな表情をしている。蒼とヴィトンは(やっぱり、気づいてなかったか)と呆れながらも話を続けた。
「その件は大丈夫だよ。ちゃんと、用意してあるからね。」
「どこにいるんだ。それに、その一人は強いのか。」
サンダーがようやく話に参加してきた。
「強さに関しては、安心してくれていいよ。サンダーちゃん。」
ヴィトンが言うには、名前は、ランツェ。そして、彼女はテネレ魔法武術総合学校の2年前の首席卒業である・・という情報だ。
「彼女は、今はこの場にいないのでね。また明日の午後過ぎくらいに、この場所まできてほしいのだけど。」
「わかりました、ヴィトンさん。それと、この推薦はよろこんで受けさせてもらいます。」
蒼は推薦状にサインをして、ヴィトンに渡した。
「同意してくれて嬉しいよ。また明日待っているから・・」
ヴィトンは一気にお茶を飲み干すと、席から立ち上がり、帰ろうとしだす。
「ちょっと、待ってく!。ヴィトン先生」
「どうかしたの、サンダーちゃん」
「もうひとつ気になることがあるのだが・・」
ヴィトンは客室のドアノブから手を離し、立ったまま話を聞くことにした。
「推薦状の差出人は、現王または現側近でないといけない。って、書いてたのだが・・ヴィトン先生って、もしかして・・」
「私が、現王のレイラ様にお仕えしている側近のひとりだよ。それじゃあ、また明日!」
ヴィトンがそう言うと、扉を開けて帰ってしまった。
「二人とも、もう遅いし寝る準備でもしたらどうかな。先生なら、僕がお見送りするからさ」
ロートンはそう言い、ヴィトンの後を追いかけて行った。
二人が寝室ー目覚めた場所のことーに戻ると、パジャマが用意されてあった。ロートンがアウムに頼んで準備させたものである。
「いつの間に用意したんだ?ロートンさんかな?」
「アウムさんにでも頼んだんじゃない?」
「そうかもな。・・・それじゃあ、寝るか!」
サンダーは、そう言うとパジャマに着替えだした。
「パジャマって、慣れないな。ずっと、寝るときは、浴衣しかきてこなかったからな」
二人がパジャマに着替え終えたタイミングでロートンが戻ってきた。
「早いね、二人とも。それじゃあ、明日も早いだろうし。おやすみー」
ロートンは父親のような言葉を二人に投げかけると、電気を消し、部屋から出た。
薄暗い部屋の窓からは、月のようなオレンジ色の星と小さな星々が見えている。サンダーは少し不安そうな顔をして蒼に話しかけた。
「なぁ、蒼」
「どうした、サンダー」
蒼は窓の外を見ながら呼びかけに反応した。
「みんな、大丈夫だと思うか」
「確かに心配だけど・・・今のオレたちにできることは、できる限り早くみんなのところに戻ること。・・・それに彼らが負けるわけないし」
蒼はサンダーを元気づけようとするが、サンダーの暗い顔は消えない。
「そうだが・・」
「オレは寝る!これ以上、心配ばかりしても仕方がない!」
そう言った数秒後、蒼は眠ってしまった。
「やっぱり、寝るまでが早いな・・。私も寝よう、寝れば、考えなくて済む。」
サンダーは自分にそう言い聞かし、ベッドに寝転がった。
数分前・
「先生、見送りくらいさせてくださいよ。」
ロートンは、部屋を出て行ったヴィトンを急いで追いかけて行った。
「別にいいのに・・、ロートンくん」
「そうはいきませんよ。・・・蒼くんとサンダーくんは、あの ランツェ に気に入ってもらえます?」
少し心配そうな顔をして、ヴィトンに聞いた。
「あの二人なら、大丈夫だよ。前の二人のようにはならない。それどころか、ランツェと同レベルかもね。」
「先生がそう言うなら、大丈夫かもですね。明日は二人のことよろしくお願いします!」
「任せてよ。それじゃあ、また来週飲みに来るよ、ロートンくん」
ヴィトンはそう言い、背中を見せ、手を振りながら帰っていった。