Barでの仕事
開店時間になり、男女4名が入ってきた。
「いらっしゃいませー。・・って、先生じゃないですか。一週間ぶりですね」
アウムは、常連であろう(話し方から考えて)客ににっこりしながら声をかけに、行っている。
先生と呼ばれている人物は、緑色の髪をした25歳くらいの男性である。
顔も中々に良い。
他の先生の連れ3名は、赤髪の20代くらいの男と青髪の女性、そして、銀髪の女性という感じだった。
「こんにちは、アウムちゃん」と手を振りながら笑顔をアウムに返し、心地の良い声音で話しかけている。
顔だけでなく、声まで良い。
サンダーが、そんなことを考えていると、先生と呼ばれている客がサンダーの事に気づいたのか、話しかけてきた。
「君は新人さんかな。先週来たときは、いなかったから、そうだと思うのだけど。合ってるよね?」
「ああ、そ・・そうですけど」と、たどたどしく、サンダーは返事をした。
「新人さんって言っても、今日だけみたいですけどね」
アウムが補足をつける。
「それは残念だなぁ。君もアウムちゃんと同じくらいかわいいのに・・」
その言葉を先生の顔から判断すると、嘘ではなく本心からそう思っているように見える。
サンダーはそう言われると、少し頬を赤らめて、顔を隠した。
そんな雰囲気を持ち直すように、アウムが紙(注文表)を先生に渡した。
「先生達。ご注文を伺います」
「そうだね・・私は、いつものでお願い。皆はどうする?」
先生がそう言うと3人は数秒考えた後、全員先生のと同じ、ということになった。
「はーい。先生のいつものを4人前ですね。かしこまりました。サンダーちゃん、先生達を席に案内してあげて。」
アウムはそう言うと、注文表をロートンのところに走って持って行った。
「そ・それじゃあ、席まで案内させてもらいます」
サンダーは、先生達を外の景色が見やすい席に案内することにした。
「こちらの席に・・。ご、ごゆっくり」
慣れないながらも、なんとか初めての案内を終えた・・・そんなことを思っているうちに、お客がさらに3組ほど入ってきた。
(・・・まあ、なんとかなるか)サンダーはそう心の中で思い込むことにした。
一方、厨房では・・
「それでは、ロートンさん。これで、お願いしますね。」
「OK。アウムくん」
注文を伝え終えると、アウムは急いでお客達のところに戻っていった。
「いつも、こんなに忙しいのを2人でこなしているのですか」
蒼はキッチンの窓(マジックミラーなのか席側からは見えないようになっているらしい)越しに3組の客が入店してくるのが見えた。
「まあね。それに月曜日と水曜日は店も休みとしてるから、授業員のストレスとかの面は心配しなくても大丈夫だよ。アウムくんしか従業員はいないけどね。・・そうだ、蒼くん。もう少ししたら君もウェイターの仕事をしてきたらどうだい。こっちは手が空くしね」
「わかりました。そうさせてもらいます。」
時を数十秒戻し、店内ではアウムが厨房に行ってしまったことでサンダーひとりになっていた。
そして、サンダーはいきなりたくさんのお客が来て、あたふたしているところだった。
「(アウム~。早く戻ってきてくれ~)い、いらっしゃいませ。何名様ですか~」
サンダーは、たどたどしくも接客をこなそうとする。
「3名です」
「それでは、あちらの席にどうぞ。(これをあと2組分するのか)」
「いらっしゃいませ~。何名様で・・」
サンダーが2組目のお客の対応をしている時、アウムが少し小走りしながら戻ってきた。
「お待たせ、サンダーちゃん。席までの案内は私がするよ。だから、サンダーちゃんは、注文の対応をお願い!」
「フゥ。一人じゃ、きついな。」
「ごめんごめん」
しかし、サンダーがひと息をつく暇暇もなく「すみません。注文いいですか」とお客が呼ぶ。サンダーは、服のポケットから紙とペンを取り出して、客のところに向かって行った。
「行ってくる」
「よろしくね。サンダーちゃん」
それから、約30分後・・席(2階の席とカウンターも入れて、最大で12組は座れる)、は満席となった。
「アウムちゃん。追加注文いいかな」
「どうぞ、先生。」
「それじゃあ、このシャンパンをグラス4つで・・」
追加注文をしようとした先生が、少しピリついている。
「んっ!この感じ・・彼か!」
先生はあたりを見回した後に、ウェイターの仕事をしにキッチンの入口の方を見た。
目線の先にいるのは、蒼だ。
「彼がどうかしたのですか。・・大丈夫ですか。先生?」
アウムは、いつもと違う先生を心配そうにみている。
「いや・・彼も新人かい。アウムちゃん。」
「はい、そうですけど・・。なにか気になるなら呼んできましょうか、先生。」
「いや、いい。後ででもいいから個人的に彼と、そして、サンダーちゃんとも話がしたい。そうロートンさんに伝えてくれるかな」
「わかりました。伝えておきます。このボランジェ・スペシャルを一点とグラス4つで承りました」
さらに、約30分後。客の出入りはあまり変わっていない。
「アウムくん。これ、5番席のお客さんのところに持って行ってくれない」
「はーい。そういえば、ロートンさん。」
アウムは、先生からの伝言を今、ロートンに伝えることにした。
「先生が後で、個人的に蒼さんとサンダーちゃんとお話がしたいらしいです。」
「二人と・・、分かった。先生に伝えて、 ’閉店時間が過ぎた11時過ぎぐらいにまた来てほしい’ と」
「わかりました」
アウムは、お客が呼んでない今しかないと思い、すぐに先生に伝えることにした。
「先生。ロートンさんから伝言です。」
「伝えてきてくれたんだね。ありがとう。それで、ロートンさんは何て言ってたんだい?」
アウムは、ロートンから言われたことをそのまま先生に伝えた。
「了解した。それにちょうど、会計に入ろうと思ってたからね。会計お願いするよ、アウムちゃん」
「はい。」
約4時間後、閉店時間がやってきた。閉店時間の1時間前のラストオーダーまで客数が減ることはなかった。
「ふう。疲れた。」
ロートンは、「蒼くんにサンダーくん。お疲れ様と言いたいのだが、お客さんのひとりが二人に話があるみたいでね。閉店時間過ぎにまた来てもらうように言ったんだ。」と言った。それを聞いたサンダーは少しだけ面倒くさそうな顔をした。それに対して、蒼は、何だろう、と首を傾げている。
そして5分後、チリンチリンというドアの開閉音と同時に先生がやってきた。