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幻獣に選ばれた落としモノ  作者: 美留町 一荘
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8話『巨人の痕跡』

8話『巨人の痕跡』


 そこにあるはずの道がない。

この異常がただの崖崩れによるものでは無いことは、カナデにも容易に理解できた。

マスターは大儀そうに消えた道を見つめて呟いた。


「面倒なことになった」

「これは……何が起きたんですか?」

「『巨人』の仕業だ」

「巨人って、まさか魔物なんですか?」

「あぁ、巨人『タイタン』。鉱物や岩石を食って生きる魔物。これは奴の食痕だ」

「食痕……えっ?口だけでこのサイズなんですか?!」

「そうだ。やつはなんでも規格外にでかい。おそらく谷から顔を出してかじりつきやがったんだろう」


思わぬ原因に絶句して声がでない。

馬車一台を軽々飲み込めそうなほど巨大な食痕。

化け物にも程がある。


「ひとまず折り返すしか無いだろうな。遠くなるが迂回路はある」

「いやー大丈夫ですよー!」


突然、もう1人の乗客が声を上げた。

ハツラツとした女性の声だ。


「これでも私、土魔法の国家魔術師ですので!」

そう言うとその人はフードを外した。


「初めまして!クラヴィーア王国 魔術師団 第2分隊長 ホルン・ビステルです!」


ホルンと名乗るその女性は、茶髪を払うようにしてみせ、頭にある尖った耳をピョコンと動かした。


(猫耳獣人!いたのか!さすがファンタジー世界)


「ほう。あなたが『砂漠の天使』でしたか。気づかずに申し訳ない」

「いえいえ、隠していたのでお気になさらず〜!まだ亜人への風当たりは強いですからね。……『龍の天敵』トロボ・ドルフラット子爵」


ホルンはそう言ってマスターの顔を覗き込むように目を見た。

マスターは応えるようにニヤリと笑う。

『砂漠の天使』……ということはスナネコだろうか?

マスターの二つ名『龍の天敵』は例の魔龍討伐からだろう。


「さてっ、橋をかけちゃいましょうか」


そう言うと、くるりとこちらに背中を向けたホルンは巨人の食痕の上に飛び降りる。

着地した場所が不安定だったらしく「おっと」とよろけた時は少し肝を冷やした。


「みんな〜、少し離れてて〜!」


指示に従って数メートル下がる。


「いっくよー!『ロック・デフォルメーション』!」


魔法を唱えると、ホルンの足元が徐々に膨らみ、

ゆっくりと平らに変わっていく。

そして、岩は徐々に彼女の身体を押し上げ、あっという間に道が出来上がった。


初めて見る魔法……。

その非現実的な光景に奏は目を奪われた。


「削れたとこを下にずらしただけだけど、安全は保証するよ」


そう言ってあざとくウィンクをする。

自分を可愛く見せる方法を知っている……と言うより、自分が可愛いと知っている。

まるで本当に猫のようだ。


「ありがとうございます」

「んん〜?君ドルフラット子爵と話してた子だね。ってことは……、冒険者ギルドの新人さんかな?気にしないで〜、急いでる私の我が儘だから!」


ホルンは顔の前で小さく手を振り笑った。


「本当に感謝します。これでほぼ遅れなくクルシェドに辿り着ける。では、馬車に戻りましょう」


マスターの呼びかけに皆が馬車へ戻って行った。


 ――全員を再び乗せた馬車は、以降何事もなく進んでいた。


「マスター、巨人……タイタンとはどんな魔物なんですか?」

「そうだな……。魔物の中でもずば抜けてデカい人型の魔物だ。全身の皮膚は鋼鉄のように硬く、巨体がゆえの重たい攻撃は一発でも喰らえば御陀仏だ」


魔物に襲われる恐怖を知っているカナデは、マスターの言葉に冷や汗を流した。

その話を聞いていたホルンが口を挟む。


「でもタイタンは魔物には珍しく、温厚な個体ばっかりなんだよ。ただ、さっきみたいに道を食べたり、村を通って踏み潰しちゃったりするから、人が生活する上で困りそうな時は迎撃、どうしても危険なときは討伐されるの」

「まぁ、元々個体も少ない珍しい魔物だ。最後に迎撃作戦が行われたのも50年前で滅多にあることじゃない。さっきの食痕の主がこれ以上こっちにこなければ、戦うことは一生無いだろう」

「そうなんですね。ありがとうございます。ホルンさんも」

「うんうん!わからない事は何でもお姉さんが教えてあげるよー!君、素直でかわいいし!」


そう言うと、ホルンはニパッと笑って見せた。

かわいいのはそっちだろう、と心の中で呟いた。


「さてっ、そろそろ着くぞ」


ギルドマスターが馬車の外を指し示す。

窓を見ると、目の前には広々とした黄金色が、永遠と思えるほどに広がっていた。

カナデは窓の外へ頭を出し、馬車の進む先を見た。


「……わぁ!」


その先には、麦わら屋根が肩を並べる、美しく、長閑のどかな田舎の景色が広がっていた。


「相変わらずいい景色〜!」


いつのまにか隣から顔を出していたホルンは、無邪気な笑顔で髪をなびかせていた。


「ねぇ!君名前はー?」

「カナデです!」

「カナデ!ここのご飯はすっごく美味しいんだよ!!今夜みんなで食べに行こうねー!」

「ぜひ!」


風にかき消されながら大声で話す2人。

その大声でようやく目を覚ましたアリアにマスターが話しかけた。


「ようやくお目覚めか?お姫様。」

「……。ふぇ?」


次話『黒い熊』

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