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幻獣に選ばれた落としモノ  作者: 美留町 一荘
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38話『職人』

38話『職人』


 国王陛下との謁見から二日が過ぎた。

あの後、四人は各々に自分の欲しいものを伝え、無事に褒美を受け取った。


 フーガの望みは鎧と盾だった。

あの森での闘いでボロボロになり、元々量産品だったこともあって修理より新品を買う方が安くつくそうだ。

とはいえ、簡単に買えるほど安価なものでもない為、今回の褒美としてお願いしたい、とフーガは語っていた。


 アリアが散々悩んだ末に希望したのは、魔導士団の一部の者へ支給される魔道具『マナプールの指輪』だった。

名前の通りマナを外出しして保管しておける指輪で、地球のモバイルバッテリーのように使える代物だ。

指輪には宝石の代わりに極小かつ硬いスライムコアがつけられており、かなり貴重な魔道具である。


これを選んだ理由は、またマナの枯渇で迷惑をかけるわけにはいかない、らしい。

ニーズヘッグが現れた時、マナが枯渇して動けなかったことを気にしているようだった。

あんな絶望的な状況は今後起きない……と言いたいが、魔族が動いている以上そうも言えない。

命を守るための保険は必要だと納得した。


 カノンは緊張で思いつかなかったのか、最初からそのつもりだったのか、お金という形を選んだ。

確かに欲しい物を見つけた時に買う選択肢を持てれば、今後の冒険者生活も有意義なものになるだろう。

魔物と戦うにも準備や宿等でお金がかかる。

カノンの選択は一番堅実だと思えた。


 そして、カナデが望んだ褒美。

それはカナデの夢を一つ叶えるためのものだった。


 この日、王都北側の商業地区にやってきたカナデは、国王陛下からの紹介状と、側近である執事から受け取った地図を持ち、大きめのバッグを背負って歩いていた。


「地図ではこの辺なんだけど……あっ」


カナデがようやく辿り着いた場所、そこには手鎚が2本並んだような看板があった。

そう、鍛冶屋である。


「ごめんください」

「……」


中に顔を覗かせて声をかけるが、返事もなければ誰もいない。

(……留守かな?)


「すみませーん!」

「……」


やはり返事はない。

王都内とはいえ、領から歩いてここまで来るのにはかなりの時間がかかった。

出直しは避けたいところだった……が、どうするべきか。


「うちになんか用か?」

「!!!」


悩んでいたところに突然後ろから声をかけられてビクッと肩をすくめた。

振り向くと、ぽっちゃりとした体型の下に分厚い筋肉を感じる白い髭を蓄えた初老の男性が立っていた。

肩には何やら色々入っていそうな木箱を担いでいる。


「あ、えっと、国王陛下よりご紹介いただいて来ました、冒険者のカナデといいます」

「……そうか、あんたの話は聞いている。……入れ」


無愛想にそういうと、一人先に入っていってしまう男性。

カナデは背中を追うように続いて店へ入った。


 中に入り改めて部屋を見渡すと、様々な武器や防具が飾らせていたのが分かった。

小型のナイフから大剣、槍やハンマー、さらにはモーニングスターらしき鎖に鉄球が繋がったものまである。

防具も様々な種類のものが木製のマネキンに取り付けられて並んでいた。


「この工房の主、ドーラムだ。陛下のご紹介を断るつもりはない。安心しろ。俺は職人として全力でお前の装備を作ろう」


 ドーラムがいう通り、カナデは褒美として腕の良い鍛治師を紹介してもらった。

カナデもフーガと同じく装備がボロボロで使い物にならなくなっていた。

そこでカナデは、ニーズヘッグの皮を使った防具をオーダーメイドすることを考えていたのだ。

だが、ニーズヘッグという頑丈で珍しい素材を扱える職人は少ない。

そこで、国内の情報をほぼ掌握しているであろう国家を頼ったのだった。


 ――二日前


「腕のいい鍛治師ということなら当てがある。私からの紹介状を書いておこう」

「ありがとうございます」

「うむ、珍しい魔物の素材を持って行くと伝えておけば、喜んで引き受けるだろう。そういうやつだ。……だが、防具はそれでよいとして、武器はどうするつもりだ?」

「武器に関しては、既存の品を買わせていただくつもりです。金属素材や武器の良し悪しには疎いもので」


カナデがそう話すと、陛下は再び顎鬚を触り、思い出したようにハッとなった。


「そうだ。宝物庫にミスリルがいくつか保管されているはずだ。それを一つやろう」

「えっ?!ミスリルってかなり貴重なのでは?」

「あぁ、だが使わずにいては正に宝の持ち腐れであろう?」

「そんな……よろしいのですか?」

「構わん。カナデ殿への褒美はミスリルとして、鍛治師の紹介は私個人の感謝の印として受け取ってくれ」


思わぬ提案に度肝を抜かれてしまったカナデ。

なんとか止まった頭を動かしたが「あ、ありがとう……ご、ございます……」と辿々しい返事をしてしまった。


「あとは金の工面があるだろうが……それはまぁ、トロボがなんとかするだろう」

「……安心しろ、お前たちの今回の働きに対する対価を用意している。オーダーメイドの武具を買ってもお釣りがくるくらいのな」

「マスター……ありがたくいただきます」

「あぁ、当然の権利だ」

「話はまとまったな。それぞれの褒美はすぐに準備させる。客間にて待ち、受け取るように。今回呼び立てた件は以上だ。貴殿らの今後の活躍を期待する」


 ――現在


「なるほど、これが『ニーズヘッグ』ってやつの素材か。鱗は相当丈夫だな。いい防具にもなるし、削ればナイフも作れそうだ。皮は弾力があってよく伸び、破れにくい。が、少し薄いな。これ一枚じゃ衝撃は通りそうだ」


カナデが見せたニーズヘッグの素材をドーラムが鑑定していく。

素材の特徴を的確に掴んでいく姿に、カナデは黙って見惚れていた。


「……確かにいい素材だ。だが、そこらの鍛治師じゃ手に負えんだろうな」

「作っていただけますか?」

「……誰に言っている。国王が推薦した職人だぞ」

「そうですね。ありがとうございます」

「あぁ、とりあえず明日までに、その蛇の素材を全てここに持ってこい。それと、ベアー種の毛皮があればそれもな」

「ベアー種……あっ、ブラックベアーならあります」

「……最高だ」


ドーラムはそう言うと、初めて片方の口角を上げて笑って見せた。

職人の血が騒いだ……ということだろうか。

カナデはそれに答えるよに少し固い笑顔を返した。


次話「」

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