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幻獣に選ばれた落としモノ  作者: 美留町 一荘
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36話『誇りの傷』

36話『誇りの傷』


 ……深い闇に落ちていく。

……この感覚は……そうだ、この世界に来た日の――。

(もうなんだか懐かしいな。姉さんは元気だろうか?結構溜め込むタイプだからなぁ……無理してないといいけど)


体は動かず、ゆらゆらと何もない空間を漂う。

そんな真っ暗な世界で、遠くに赤い光が一つ見えた。

それは徐々にカナデへ近づいてくる。

すぐ近くまで来た光は、優しい口調で話しかけてきた。


「よく頑張ったね。さすが白狼が選んだ子、立派だったよ」

(……君は誰?)

「今は言えないけど、いつか必ず出会う君たちの味方だよ」

(味方……そっか。ありがとう)

「ううん、今の僕にはこれくらいしかできないから。彼女をよろしくね」

(彼女って?)

「さて、そろそろ起きなよ。彼らが待ってるよ」

(えっ?……ちょっと待って、彼女って誰?ねぇ――)


「――はっ!」


目を覚ますと先程の光はそこには居らず、カナデは白い天上を見上げていた。

天井へ向けて手を伸ばし、甲、平、再び甲と手をくるくるして見つめる。

疲労感はまだ少しあるが、生きている。

生の実感で安堵すると、左目からスーッと涙が流れた。


「起きたか」


不意に声をかけられて隣を見る。

そこにはあちこちを包帯で巻かれたフーガが横たわっていた。

ずっと魔物の攻撃を受け続けたのだ。

きっと重症だろうに、彼も安堵したような笑顔である。


「フーガ。よかった、無事で」

「お互いな」

「身体は大丈夫?」

「そんなわけあるかよ。右腕と肋骨が折れて、左足は肉離れ、おまけに全身打撲。回復職に頼むと高くつきそうだ」


フーガの言葉に「ハハハ」と苦笑いが溢れた。

いや、笑い事ではないのだが……。


「俺が一番に起きて、みんなの状況は聞いた。カナデはマナ枯渇と疲労だけで怪我はなし。白狼の加護のおかげだろ?無茶してたのは見てたぜ」

「うん、心配かけてごめんね」

「いいや、気にするな。俺やみんなも共犯だ」


フーガは起き上がりながらカナデへそう伝えてニコリと笑った。


 それからカナデは、フーガにアリアとカノンの状態を聞いた。

アリアは内臓の損傷が酷かったらしいが、今は落ち着いているそうだ。

また、腹部が完全に貫かれていたが比較的すぐに処置ができたことで、なんとか一命を取り留めた。

回復薬もしっかり効いたので、直に目を覚ますそうだ。


そしてカノンは……かなり酷い状態だったらしい。

マナの枯渇、全身打撲、右足の太腿は刃が貫通しており、止血に使われた布が不衛生だったため膿化、さらに両手両足は骨折や脱臼などでぼろぼろ、生きていたことが奇跡だった。

懸命な治療で今は順調に回復しているらしい。


「それと、マスターとホルンさん、それにオルガーニ騎士団長がきたぞ」

「騎士団長?」

「あぁ、クラヴィーア王国 騎士団長 フォルテ オルガーニさんだ」

「へー……なんで?」

「そもそも助けてくれたのは国の騎士団とホルンさんらしい。みんなが落ち着いたら国王に会いに来いだそうだ」

「なるほど……まぁあんだけ暴れたし、そりゃ報告必要だよね」

「だな」


フーガは頷くと、面倒くさそうに再び横になり、左腕を枕にして目を瞑った。

きっと褒美なんかも貰えるのだろうが、今はゆっくり休みたい気持ちも十分理解できる。


「あ、あとマスターにあの蛇のこと聞かれたから、カナデが倒したって伝えといたぞ。多分素材はカナデの物になると思うから、近々ギルドに顔出しに行ってこい」

「防具も作れるかな?」

「あぁ、あれだけデカければ余裕で足りるさ。ただ、あれを扱える職人と金がどうなるかはわからないがな」


「そっか」と少し残念そうに返すカナデ。

だが、オーダーメイドの防具には憧れもあった。

それに……魔族が何かを企んでいる。

大きな闘いに備えて、力も技術も道具も、さらにアップグレードさせる必要があると感じていた。

(みんなにおすすめの職人さんでも聞いてみようかな)


 考え事をしていたカナデは、いつのまにかフーガが眠っていたことに気がついた。

窓の外を見ると、太陽はまだ随分と西側の低い位置にいる。

まだ身体の怠さが残っていたカナデも再びベッドに潜り眠りについた。


 次に起きたのは夕方手前で、明るい時間は丸々眠ってしまっていた。

それから、フーガと共にアリアとカノンの部屋を訪れ、既に起きていたアリアにフーガが、朝カナデに言ったことと同じ説明をした。

腹を貫かれた話をしていた時、アリアは傷があるであろう場所を摩っていたが、どこか誇らしげだった。


 まだ目を覚さないカノンの顔を確認して、カナデとフーガは帰路についた。

アリアはカノンがいつ目を覚ましてもいいように、診療所に泊まるそうだ。

カナデも一緒に居ようかと提案したが「そうしたらフーガも泊まらないといけなくなるだろうし、皆でいてうるさくしちゃったら迷惑になるから」と、断られてしまった。


 寮に戻ったカナデは、部屋の前に置かれていた木箱を見つけた。

部屋に入り中を見ると、ボロボロになった防具と武器が無造作に入れられていた。

(この雑さ加減は……マスターかな?)

壊れたチェストプレートを手に取ってみる。

依頼に出る度に少しずつ増えていた傷は、昨日の闘いの傷でほとんど上書きされてしまっていた。

ブラックベアーの爪にやられ、もう固定することができなくなっている。

(修理すればまた使えるだろうけど……。)

カナデは引き裂かれた部分を指でなぞり、チェストプレートを棚の上に飾るように置いた。


「この闘いの証。これは僕の誇りだから……ね」


独り言を呟くと、ニコリと笑みを浮かべた。

それからうーんと背伸びをしたカナデは、夕飯を食べに外へ出ていったのだった。


 ――それから数日後。

冒険者ギルド本部に来たカナデは、カフェスペースで紅茶とケーキを味わっていた。


「……ふぅ」

「おまたせ」

「遅くなって悪かった。昨日飲みすぎてな」


一息ついたところに来たのはアリアとフーガ、そして……。


「だからほどほどにしときなって言ったじゃないか。久しぶり、カナデ」

「カノン!退院おめでとう」

「心配かけたね」


カノンが優しく微笑むと、カナデは一層元気な笑顔で返した。


「さて、それじゃあ行きましょうか。国王陛下へ会いに」

「うん」

「おう」

「あぁ」


それぞれが思い思いの返事をすると、4人は前へ歩き始めた。

あの森での出来事、そしてこれから起こるであろう闘いを国へ伝えに。


次話『国王陛下』

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