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幻獣に選ばれた落としモノ  作者: 美留町 一荘
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24話『宝石獣の瞳』

24話『宝石獣の瞳』


 ついに剣術指南を卒業し、戦う術を身につけた次の日、カナデはギルド本部の掲示板を睨みつけながら、ブツブツと独り言を呟いていた。


「ゴブリン……はまだ抵抗があるし、またスライム……は相手にならないな。もう少し手応えがあって、実力を試せるようなCランク依頼……うーん……」

「カナデ?」


突然、可愛らしい声に名前を呼ばれドキッとした。

振り向くと、少し不安気な表情でこちらを見つめる懐かしい女性の姿があった。


「アリア!」

「やっぱり!久しぶりね。もう後ろ姿じゃわからなかったわ」

「久しぶり!護衛依頼が終わったんだね」

「えぇ。それで……何を悩んでたの?」

「実は――」


 カナデはアリアに両手直剣での戦い方を身につけたことを話した。

その上で、少し手応えのある討伐依頼を受けたいが、魔物に詳しくなく実力が測りづらく、どの依頼が適切かわからないことを相談した。


「んー、なるほどね。これ、もう少し後からでも大丈夫?」

「え?依頼を受けるのが?うん、大丈夫だよ」

「よかった。じゃあ本部の中でゆっくりして待っててくれる?初陣に1人じゃ心もとないんでしょ?せっかくだから、私が一緒に行ってあげる」


アリアは可愛らしくウィンクをして見せた。

デートにでも誘われたような気持ちでドキドキしてしまったカナデだが、アリアが長期遠征の後だということを思い出し、勘違いをする前になんとか正気を取り戻した。


「すごくありがたいけど……まだ疲れてるんじゃない?」

「ううん、実は帰ってきたのは昨日の夜なの。充分寝てきたから大丈夫よ」

「そっか、じゃあお願いしようかな。ありがとう」

「いいのよ。馬車に乗ってばっかりだったから、久しぶりに身体を動かせるわ」


そう言うと、アリアは両手の平を上へ向けてググッと伸びをした。

その時――


「ちょっと待った」


後ろから見知った男の声が聞こえた。


「その依頼、俺たちも交ぜてくれよ」

「せっかくの初陣ってなら、アタシにも背中押させてくれないか?」

「フーガ!カノン!久しぶり!待たせてごめんなさいね」

「何言ってんだ。あの依頼がきた時はいつものことだろ?気にすんなって」

「そうだよ、アタシらの仲じゃないか。変な気は使わないの。……おかえり」

「ありがとう。ただいま」


カノンの言葉にアリアが答える。


 家族と離れ一人となったカナデには、眩しく、羨ましい光景だった。

『おかえり』と言えば『ただいま』と返ってくる。

そんな居場所を、また見つけられるだろうか?

カナデは少し寂しくなった気持ちを、胸の奥にそっとしまった。


「で、カナデ、どうだい?4人でなら、それなりに歯応えのある依頼に行けるよ?」

「うん、是非お願いするよ」

「じゃあ、決まりね。今から依頼の報告をして、少しマスターと話をしてくるわ。依頼は後で一緒に選びましょう。少し待ってて」

「わかった」


アリアは手をヒラヒラと小さく振りながら、受付まで歩いて行った。

三人はアリアを見送ると、部屋の一角にあるカフェスペースへ移動し、のんびり待つことにした。


 ――しばらくして、再びアリアと合流したカナデ達は、相談して一つの依頼を受けることにした。

内容は『ジャイアントトード』の討伐依頼。

本来はもっと東の湿地に生息する魔物らしいのだが、何故か先日スライム狩りをした平原にある小さな沼に出現したらしい。

フーガは密輸しようとした悪い商人が逃げられたのではないか?と予想しているらしいが、最近大森林でも本来居るはずの無い魔物の報告が上がっていることとの関連を気にしていた。


 ちなみに、この依頼はBランクのものだ。

なぜカナデが受けることができたかというと、冒険者パーティ『宝石獣の瞳』のメンバーが上級冒険者だったからだ。

カナデは単独行動禁止の条件で、同行を認められたのだ。

今まで仲良く話していた友が上級冒険者と知ったときには、思わず変な声で驚いてしまった。


 ――歩いて目的地へ向かう道中、四人は討伐対象の確認と対策を練っていた。


「今のところ報告された個体は1体だね。大きさは……約3mっと、少し若い個体か」

「えぇ、一番俊敏で厄介な時期だわ」

「とはいえ、あのカエル自体はそこまで素早い種じゃないし、問題はないだろう」

「……カエル……なんだよね?」

「そ、食べられないように気をつけなよ」

「……はい」


 なんともアバウトな忠告に、結局フーガが解説を入れてくれた。

まず、ジャイアントトードの武器は伸びる舌で、とんでもないスピードで飛び出てきて、獲物を巻き取り捕食するらしい。

さらに、今回の個体はサイズ的に少し若いらしく、一番活発で攻撃的な時期だという。

相手の動きをよく見て、慎重に戦う必要があるだろう。


 宝石獣の瞳の戦い方を聞いてみたところ、びっくりするほどの脳筋パーティだとわかった。

フーガが敵を惹きつけている間に、アリアとカノンが攻撃する。

物理相性が悪ければ魔法も使うそうだが、基本的には接近戦となるらしい。


「魔法専門のメンバーを入れる案も出たんだが、上級冒険者でそれだけ魔法が使えるやつがいなくてな。まぁ、今はパーティの色ってことにしてるがな」


ということらしいが、もう魔法使いを加えることは諦めているようだった。

今日に限ってはカナデも、脳筋メンバーの一員だ。


 話をしながら歩き続け、約1時間半ほどで目的地へ到着した。

小さいとはいえ、それなりの大きさの沼で、ハスのような植物が所々に浮いていた。


全員が周りを警戒しながら観察する。

そして、一番最初に反応を見せたのは、カナデだった。


「いた、左奥の浮いた木の辺り。目と頭を出してる」

「あの大きさは……間違いなさそうね」

「どうするかい?」

「陸に引っ張り出そう。フーガ、行ける?」

「まかせろ。アリアとカナデは奴の左右に立ってくれ。カノンは奴が出た後の沼への退路を塞いでほしい」


フーガの作戦に全員が頷いた。


「よし。じゃあ、もう少し近づいて位置に着こう」


フーガが大盾を手に持って進みだすと三人も続いて歩き出し、少し遠回りをしてカエルの目の前まで向かった。


 ジャイアントトードが上がってくるであろう正面にフーガ、左側にカナデとカノン、右側にアリアが待機する。

まだ少し遠目だが、カエルも警戒してこちらを見ているのが分かった。

もういつ戦闘になってもおかしくない。

カナデは背中の剣に手をかけて腰を沈めた。


 それを見ていたフーガがカナデに向かって頷いた。

『準備ができた』と伝える意思でカナデも頷き返す。

アリアとカノンも『いつでも大丈夫』というようにフーガへ頷く。

サインを確認したフーガは深呼吸をすると、盾を構えて声を張り上げた。


「プロボック!!」


次話『共に……』

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