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幻獣に選ばれた落としモノ  作者: 美留町 一荘
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9話『黒い熊』

9話『黒い熊』


「えっ!そんなことがあったの?!」


夕刻、クルシェドに着いた後、ようやく目を覚ましたアリアにホルンを紹介し、今日の出来事を伝えた。

冷静なアリアがここまで感情を出したことに少し驚く。


「なんで起こしてくれないのよー!」

「気持ちよさそうに寝てたからさ」

「えぇー、だとしても起こしてよー!私だけねぼすけじゃない!」

「仲いいねー!」

「ほら、バカやってないでいくぞー」


 ――4人は一度、泊まる宿屋に荷物を預け、村の入り口に再集合した。

集まった頃には既に日は落ち、あの日の夜より随分と小さくなり、少し欠けた月が空に浮かんでいた。


「我々の仕事ですので、ホルンさんはお待ちいただいていいのですよ?」

「夜の森は危険でしょ?せっかく一緒なんだから付き合いますよー!急ぎの用も終わりましたし。もしもがなければ手は出しませんから!」


マスターは「わかりました」と言ってこちらを見た。

調子が狂うのだろうか?

やけにやりづらそうだった。


「では、これから対象『ブラックベアー』の討伐に向かう。この辺を縄張りとしていて、農作物や家畜が荒らされる被害がでているらしい。ブラックベアーを見つけたら一旦停止。カナデに剣を見せるのが目的だからな。一度俺が前に出る」


全員が承諾したのを確認し、マスターはさらに続けた。


「カナデ、お前にプレゼントだ。装備しておけ」


そう言って出したのは、マスターが身につけているものと似た形状のチェストプレート、肘当てに膝当て、手袋、それにナイフと綺麗な水晶のブロックだった。


「この水晶は……?」

「それは転移結晶だ。俺が指示をしたら使え。ギルド本部のエントランスが登録されてる。使えば一発で逃げられる……が、高価な消耗品だ。間違えて使うなよ」


その言葉にカナデは頷いた。


「よし、準備ができたら出発する」


防具を装着し、ナイフを腰に携え、少しだけ冒険者らしくなったカナデと共に、一同は森を目指した――。


 森に入って少ししたあたり、ふとアリアが足を止め、全員に声をかけた。


「ねぇ、あの木……。」


アリアの指すその木は、縦に引っ掻いたような深い傷が無数に刻まれ、樹皮が剥がれ落ちていた。

傷をみたホルンは真剣な目つきで口を開いた。


「……間違いなく、ベアー種の爪とぎ痕ですね」

「あぁ、それも割と新しい。ここ数日のものだろう」

「よく見ると、あちこちに似た傷がありますね」

「ってことは、ここはやつの縄張りだ。気を引き締めろ」


マスターの言葉が全身の筋肉を強張らせる。

一度深く深呼吸をして、あらゆる方向に耳を傾けた。


(……。いい集中力だ。度胸もあるし、観察力も高い。磨き甲斐がある新人だ)


その一部始終を見たマスターはカナデの素質に感心した。

きっとカナデは強くなる。

そう感じたのだった。


 ――感覚を研ぎ澄ましてさらに先に進む。

入って1時間ほどした場所でアリアは再び全員を止めた。


「止まって。目標発見です」


アリアの目線の先を見る。

そこには、鋭く長い爪を剥き出し、真っ黒な体を月に照らす巨大な熊がいた。

2足で立ち、空に向かって鼻を突き出して匂いを嗅いでいる。


「私たちが近づいていることには気づいてますね」

「うん、探してる」

「鼻が利くんですね」

「気づかれる前に先制する。アリア、カナデを頼む。カナデ、一度しか見せない。目に焼き付けろ」


そう言うと、マスターは背負った直剣をゆっくり抜きながら立ち上がる。

そして、ブラックベアーとの直線上が開けた場所まで、対象見据えたまま静かに移動した。


 そこからは彼が人間かを疑う光景だった。

目にも止まらぬ速さで対象との距離を縮め、一気に首元へ切りつけた。

ブラックベアーは殴られたように弾かれたが、致命傷には至らない。


怒りを露わにしたブラックベアーが鋭利で巨大な爪を大振りに振り回す。

マスターはその振りを剣で受け流しながらかわすと、体制を崩した熊の右腕を肩から一気に切り落とした。


痛みに悲痛な叫びをながら左に向かって倒れ込むブラックベアー。

その隙を見逃さず、マスターは倒れた熊の上に飛び乗り、傷口に剣を突き立て反対の脇腹まで貫いた。


その瞬間、ブラックベアーは沈黙し、大きく口を開いたまま息絶えた。


「ふぅーっ、やっぱりなまくらじゃ首は落とせないか」


そう言うと、熊の体から剣を抜き取り、こっちにこいと合図を送ってきた。


少しでも気を抜けば死ぬかもしれない戦い。

そこに自ら飛び込み、完全な勝利を勝ちとる。

戦いながらも考え、最適な方法を瞬時に導く。

これほどにも勇ましく、華麗な剣のみでの戦いには、恐れの中にも憧れを抱かずにはいられなかった。


「おつかれ様です。やはり流石ですね」

「おつかれ様です」

「おつかれ様でした!魔法無しでここまでやれるとは〜、剣のお手本としては完璧ね」

「あぁ、ありがとう。一発でやるつもりだったんだがな」


見ると剣はあちこちが刃こぼれしていた。

それほどまでにこの熊は外装が硬かったのだ。


「カナデ、お前にはこれくらい強くなってもらう。覚悟していろ」


マスターはそう言ってカナデの肩に手を置き、「期待している」と呟いた。


次話『長旅の終わり』

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