王太子殿下に聖女の妹を殺そうとした罪により婚約破棄され処刑されかけた姉です。魔の森で話す帽子とともに魔女として悠々自適な魔女ライフを送っていたら竜の卵を拾いまして?子竜は番を探しているというのですが
「……あら」
「お母さん、はじめまして!」
「あらあらあら」
私は森で拾った卵を温めていたら、2週間後にそこから竜の赤ちゃんが出てきました。
目と目が合うとお母さんとにっこりと笑って言うのです。
「あら私がお母さんですか~」
「はい、お母さんじゃない…の?」
「いえいえ、たぶん私がお母さんです。初めまして」
白い竜ということは珍しい白竜ですね。私はクスクスと笑います。
いえ、実は竜の卵と思わずにドラゴニュート、つまりトカゲの亜種の魔物だとばかり思っていたのです。
「使い魔にはできないわねえ」
「お母さん?」
「まず、私の名前はお母さんじゃなくてスノーホワイトよ、さあ言ってごらんなさい」
「スノー……ほわ……」
「言いにくいのならスノーでいいわ」
「はい、スノー!」
私は小さな竜をそっと手のひらにのせて、私はスノー、そうねあなたはと……彼の名前を名付けました。
ここから森の奥で住む魔女である私と子竜の生活がはじまったのです。
「スノー、僕ね、番を成人したら探すの!」
「番ね、つまり魂に刻印された運命、神のシステムの一つね」
「?」
「……哀れな事、運命という名のもとに決められた……番か」
小さく呟くと不思議そうにこちらを見上げる子竜、私がブランと呼ぶとはーいと可愛らしく答えます。
「……まず番というものはあなたの本能が示すものです」
「あい!」
「しかしたまにシステムがバグっていることがあるから、あなたと一緒になれませんと番から言われたら諦めること、無理やりはだめよ」
「あい!」
小さな竜は成長していましたが、まだこの小屋で生活できるくらいの大きさではあります。
あれから五年がたとうとしていました。
番という名前を口にしだしたかと私はちっと小さく舌打ちします。
「……くそ、竜というものはどうして番というものを探すのだ? 別に番でなくても番えばいいだけの話だろうが!」
ブランが眠ってから私はかぶっていた帽子を床に投げつけて地団駄踏みます。
番というシステムについてはいい思い出が一つもなかったからです。
「……無理やり人間の女の子を攫ってくるようならあいつを殺さねばならんな」
情が移ってしまっていたので、実行は無理かなとため息をついてしまいます。
帽子から「どうしてあんなものを拾うのだ!」と男の声が聞こえてきました。
「やっとお目覚め? ジョン・スミス」
『あんなものを拾うなと俺は言ったはずだメリッサ!』
「はいはい、わかりました。番を攫ってくるようなら処分します~」
私は帽子を踏んづけ黙れと命令をしました。はっきりいってこの帽子の中に宿る魂を私は嫌っています。
いえ実はこいつ、昔私を婚約破棄した極悪王太子だからです。
「どうあれから百年経ったけど、少しは反省した?」
『マジカルハットなどというアイテムに魂を封じ込められ使い魔としてこき使われる人生、もう疲れ果てたといったらどうする?』
「反省していないとみて、仕事を命じます」
『……』
私は昔、聖女であった妹を殺そうとした罪で、この帽子に殺されかけたのです。
私は王太子と愛し合っていたはずでした。でも聖女であった妹に心変わりし、こいつは私を処刑しようとしたのです。
「はい、仕事はブランを見張ること、発情して、番を見つけ出したようなら、その相手の反応次第では……あー、まあ殺すのはなしね~、封印あたりで」
私は殺されかけた時に魔女としての力を解き放ちまして、はい、復讐の手始めとしてこの人の体を封じて、魂だけこのマジカルハットに封印しました。
それから酷使してやってるのですが、どうしても自分が悪かったと認めません。
「あー、もう番とかバカバカしい、どうして竜というものはあんなものに固執するのだ?」
『その二重人格が嫌いだったんだ俺は!』
「……二重人格? 使い分けているだけですわ~、あなただって私のこと愛しているといっていたではないですか~」
『番だといってお前をさらおうとした竜たちを殺戮した、竜殺しのお前を見て愛しい守ってやりたいなどという男がいたらお目にかかりたいものだ』
私はぶうっと膨れます。
実は私の家は代々魔女を輩出してきた家でした。
しかし数十代、血が薄まったのか誰も魔力を持った人間が生まれてこず、普通の侯爵家として生活をしていたのです。
しかし30代目にして稀代の魔女といわれたスノーホワイト・ベルトランの生まれ変わりといわれた魔力持ちが生まれて……。
お父様が考えたことは、魔力を封じることでした。
いやあ、だって絶大な魔力持ちってもうこの世界に必要じゃないんじゃないかなって思ったらしくて。
王に仕える身としてはこんな魔力持ちが身内にいたらヤバイとか……。
赤ん坊の時、私は魔力を封じられ、普通の令嬢として育ちました。
こんなやばい人間を王太子の婚約者にしたくなかったお父様、外で作った娘、つまり妹を候補者として差し出したのですが……。
その前に王宮で王太子と私がフォールインラブ、つまり恋に落ちまして。
私が婚約者に選ばれたのです。
『あの時のお前は……』
「私はあの時までは割と普通の女の子でしたわ~」
『笑いながら竜を踏みつけている姿は……』
「つい切れましたのよ、あの番だとかなんとかいう竜が鬱陶しすぎまして!」
私は番だとかいう竜がやってきて、私を攫おうとしたので返り討ちにしたのですが、まあ諦めずあいつなどもやってくるので、頭にきて殺してしまったのです。
始祖の魔女の血が目覚めると、自分を抑えられなくなるようでして。
「でも私、妹を殺そうなんて思ったことはありませんでしたわ~」
『あれは悪かった、違う手のものが聖女を殺そうとした……』
「はい、でも私を愛しているといったのに妹に心変わりしたのは悪くないというあなたは反省していないとみなし、仕事を命じます!」
『……』
私は帽子を踏みつけたまま笑います。
私は結局、聖女と呼ばれた妹に心変わりした王太子によって妹殺しをたくらんだ女として処刑されかけて、まあはいスノーホワイトの血が完全に目覚め、私は魔女となり、この人を攫ってきて、この森の奥で復讐のために生活をしているというか。
乙女の純情を踏みにじったこいつが許せませんでしたの。
「……あのね、あのね番を僕見つけたの!」
「……」
「迎えに行きたいの!」
「行ってらっしゃい、ジョンを連れて行くのよ」
あれから十年、あの子も十五になりました。
まだ竜としては子供です。しかし伴侶を見つけたと言い出して、私は帽子を連れて行くように言いました。
『どこにその伴侶とやらがいるのだ?』
私は水晶玉を通して、ブランと帽子を見ていました。あいつがいる限りどこでも様子を見ることができましたから。
「あっち!」
小さな村でした。そのはずれの小屋に十六歳ほどの少女がいて、薬草を摘んでいました。
「僕の番、僕はブラン、あのね僕君を番として連れていきたいの!」
「……」
「君の名前は?」
「きゃあああああ竜が襲ってきたわ!」
話を聞く気もなさそうで、顔面蒼白な少女は泡を食って小屋の中に走って逃げました。
大きくなっていましたからねブラン、私ははあとため息をついて、帽子に帰ってくるように命令をします。
『拒否をされたようだ、帰るぞブラン』
「いやだ、番は僕のものだ!」
『おい、スノー……』
無理やり小屋を壊して、少女を連れ出そうとするブラン、私はしょうがないなあと転移の魔方陣を出して、移動します。
「スノーホワイト、ひどいの、あの子、僕を番と認めないっていうんだよ!」
「……もう死んでいる。その子を放せ」
「え?」
「死んでいるといっている! その子を放せ!」
私は帽子にどうして止めなかったと怒りの声をあげます。どうしようもなかったと言い訳をする帽子。
私はブランの手の中にいる少女を見て、お前が殺したんだ! と声を上げました。
「死ぬって?」
「……生命活動が停止したということだ、お前の番の印である刻印は魂とともに違う人間に移った。その少女はもう番じゃない」
私は手の中に杖を呼び出し、ため息とともに竜殺しの呪文を唱え始めます。
ブランはわからないと首を振るばかり、スノーホワイト、僕の番をまた探さないとというんです。
「……エル・グラン・リュシス」
『おいやめろスノー、こいつはまだ子供だ!』
「エルグラント!」
私の杖からあふれ出した白い光がブランを覆い、ブランの姿は少女とともに消えていきました。
どうして? と悲しそうにあの子竜は最後私を見たのです。
『どうして、あの子を殺したんだ?』
「殺してない、封印しただけだ」
『……』
私は帽子とともに小屋に帰り、あの子が寝ていた大きなベッドを片付けていました。
帽子はそうかと小さく呟きます。
『番とやらは魂に刻印をされていると?』
「私の刻印は始祖のスノーホワイトのものだ。私はスノーの生まれ変わり、そして私が昔殺した馬鹿竜はその伴侶だった」
『ならお前が番では?』
「生まれ変わりは生まれ変わりであり真実その人ではないのだよ。クラウス……私がお前を愛したように」
『……』
「お前が愛しているのはリュシスだろ? 私の妹の」
『……』
「あの子は聖女だ、聖女を排除しようとする人間にあの子は殺された。お前は私だと思ったようだがな」
『悪かった……リュシスを殺された怒りで……君を疑った』
「別にもういい、お前は私を愛してないんだろもう? でも私はお前を愛している。だから絶対に許さない、お前の魂を私が生きている限り拘束するんだ」
私は寝台を片付け終わり、帽子をかぶりながら、小さな子竜のことを思い出す。
番を探そうとする竜は、本能のままに動く、だから拒否された場合はあきらめろといったのに……。
『どうして番というものが存在するのだスノー?』
「あれは神が仕掛けたある意味竜に対するけん制だ、数が増えすぎると、困るんだよ竜の力は絶大だ、だから異種間で番を設定し、増えすぎないように管理しているのさ、人間と竜の間では子はほぼ生まれないから」
『……』
「システムにはバグがあってな、人と竜の転生サイクルは違うだろ? 転生を続けるうちに番としての認識をしない個体が現れるのさ、その個体の拒否が竜はどうしてか理解できずに監禁したり、殺したりすることが発生してきているんだ」
『なあスノー』
「なんだ?」
『その言葉遣い、どうしていつも使い分けるんだ?』
「始祖のスノーと私が別々だから」
『?』
「私は、私、スノーホワイトではなく、メリッサ・アルグレーン、でもスノーホワイトの魔力行使をしているときはスノーの人格が強く表れるのですわ」
『……』
「だから私は、惑うのさ、魔女である自分と、そしてメリッサである私の間でね~」
私は帽子を頭からとりあげ、絶対に許さないと何度も囁く。
一人は寂しい、だから一緒にというと、小さく帽子は頷いたのだった。
でも……あなたの愛はリュシスのもの、私にはもう……ない。
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