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異世界にチートは存在しない  作者: アスタリスク
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第6話 村へ向かう(後編)

 シャルロットを起こして朝食を食べて、村へ出発した。

 昨日の昼過ぎにユグドを出発したので今日の昼に村へ着くはずだ。

 今まで読んできたラノベとかだとこういう移動の道のりはちょっと描写されてすぐに目的地へ着くのだがもちろん実際はそうもいかない。しっかりと歩かなければならないし当然疲れる。何が言いたいかというとつまり、疲れた。

 

 正直舐めていた。どうにかなると思っていた。そしてこれがラノベならギャグ補正で次の章には直っているのだがもちろんそんなこともない。この疲れの中ゴブリン討伐を行わなくてはならない。

 うだうだ言っていても無駄だと割り切って早速依頼主に挨拶に行く。

 今回の依頼主は村長だが。この場合村全体としての依頼とみていいだろう。

 依頼のあった村は人口およそ50人ほどの小さな村だ。おそらくこの依頼をするのにも村全体で資金を集めてお願いしたのだろう。そう思うとこちらも頑張ってゴブリンを討伐しなければと思える。


 「こんにちは、ユグド中央支部から来ました。村長のお宅で間違いないでしょうか。」

 シャルロットがこんなに丁寧に話しているのを聞くと気持ち悪くなりそうだ。

 するとシャルロットがこちらを睨んできた。勘良すぎだろ。

 「はい、私がこの村の村長です。あなたたちにはこの村の近くの森にあるゴブリンの住処を破壊してもらいたいのです。」

 「承っています。早速始めさせていただきます。」

 「よろしくお願いします。」

 シャルロットはこういうことにえらく慣れているようった。


 「ハヤト、早速行きましょ!」

 シャルロットは村長からもらった地図を見ながら森へ向かっていった。俺もそれに続く。


 「ここで間違いないわね。」

 「そうだな、遠目にもゴブリンがたくさんいるのがわかるから間違いないだろう。」

 今俺たちはゴブリンの住処から100mほど離れた場所にいるがそこからでも20体以上のゴブリンを見つけることができる。隠れている分を含めると50体ほどだろうか。

 確かに事前の情報通り、ゴブリンの住処だが数がおかしい。異常だとさえ言っていい。

 なぜなら事前の情報では精々10体ほどの小さな群れだと言われていたののだ。いくら何でも間違えようがないだろう。

 そう、わざと数を間違えて伝えない限りは。


 つまり、依頼を出す際にわざと実際よりも少ない数の報告をしたのだろう。

 なぜそんなことをするのかといえば、依頼のランクを下げるためだろう。依頼のランクを下げることによって依頼するのにかかる費用を少しでも下げようとしたに違いない。依頼のランクが高くなると危険度は増すため当然報酬も高くなる、つまり依頼を出す側も多く払わねばならなくなるのだ。

 村が貧しく依頼を出すお金さえもないというのも納得できる言い分だがやはり許せないものだ。

 現代風に言うなら命がけで火事から助けたのに何も感謝の言葉をかけられず給料も安い消防士のような感じだ。余計にわかりにくくなったな。

 ゴブリンの群れを見つけてから愚痴を言っても仕方がない。今はゴブリンを掃討することを考えよう。


 「シャルロット。思っていたよりも数が多い、どうする?」

 「一旦引いて作戦を考えている暇はなさそうね、今にも村へ動き出しそうな雰囲気だわ。」

 「ああ、じゃあ、俺が前に出て引き付けるからシャルロットは後衛から魔法で援護してくれ。」

 「わかったわ、常に周りに気を配りなさいよ。」

 「ああ、わかってる。」

 そうして俺はゴブリンの群れに向かって走っていった。


 まずは一番近くにいたゴブリンを首を撥ねて絶命させる。それにより周りのゴブリンも俺に気付くがシャルロットの魔法による火炎で近くの3体が蒸発する。

 魔法についてはシャルロットから事前に説明を受けていた。魔法を発動させるためにはまず呪文を詠唱し、狙いを定めて魔法を発射するようだ。一度魔法を打つと反動で打った魔法の威力に比例した時間の間魔法を放てなくなる。ゲーム風に言うならば冷却時間クールタイムだ。つまり魔法は1発の威力が高い分連発はできないということだ。

 今1発撃ってしまったので今から数秒間はシャルロットの援護は期待できないということだ。

 剣術スキルのおかげか思考能力までもが上昇しているようで敵の動きはゆっくりに見えてその分じっくりと考えることができる。


 火炎によって巻き上がった砂に紛れて残っていた数匹のゴブリンの首を飛ばす。

 さすがに魔法を使うと群れ全体に気付かれたようで段々とゴブリンたちが集まってくる。

 向かってきたゴブリンの集団のうち、先頭から切り上げ、切り下ろし、体を横にずらして体重を移動させながら薙ぎ払い、突き刺して切り上げ、バックステップで距離を取ったところにシャルロットが魔法で攻撃する。初めてとは思えないコンビネーションだった。案外俺たちは相性がいいのかもしれない。

 そんな戦闘が十分ほどだろうか、続いたとき遂に俺の集中力が切れた。囲まれないように距離を取っていたのに後ろにいたゴブリンに気付かずに囲まれてしまった。

 シャルロットのほうを確認すると彼女のほうにもゴブリンが向かって行ってしまっていた。

 魔法使いは連発ができないという性質上接近戦に滅法弱い。

 早くこちらを片付けて助けに行かないと...

 周りにいるゴブリンは約20体、村への移動もあって体力はもう限界に近い、集中力も少ない。いうまでもなく絶体絶命だ。

 しかし泣き言は言ってられない。やるしかない。燃えてきた。なぜかって?


 これで完璧に倒して帰れたら最高にかっこいいじゃないか。


 息を吸って。集中して。体は本能に任せるように。1歩目は体重を乗せて踏み込まずに滑るように移動する。無理に反発せずに剣の慣性を利用して振る。一閃、振り向きざまにもう一閃。後ろを見ずに背面に迫るゴブリンの腕を切り飛ばす。その勢いで半回転して首を飛ばす。

 考えるより先に動け。シャルロットために。もっと早く動け。

 「管理者へリクエストを送信しました。」

 「リクエストが許可されました。」

 「神速lv1を獲得しました。」

 「管理者へのアクセスが検知されたため存在値が奪われます。」

 「存在値の減少を検知されたため代償を払って存在値を戻します。」

 こんなわけのわからない力に身を任せてでも動かなくてはならない。

 「管理者へリクエストを送信しました。」

 「リクエストが許可されました。」

 「疲労軽減lv1を獲得しました。」

 「管理者へのアクセスが検知されたため存在値が奪われます。」

 「存在値の減少を検知されたため代償を払って存在値を戻します。」

 軽くなった体でゴブリンを切り伏せる。

 そして周りにいたゴブリンを倒した俺の目に飛び込んできたのは服を破られたシャルロッテと腕を振り上げるゴブリンの姿だった。

 その時、村へ向かう途中でシャルロットから聞いた話がフラッシュバックした。

 

 「ゴブリンは不衛生だから病原体をたくさん持っているわ。だから少しのかすり傷も致命傷よ。気を付けてね。」


 あの腕をシャルロットに当てるわけにはいかない。早くいかなければ。もっと早く動け。


 そしてシャルロットは俺の目の前で右腕から血を流した。


「シャルロット!!くそっ!」

 俺はシャルロッテの周りにいるゴブリンを力任せに薙ぎ払った。


 「シャルロット!大丈夫か!?」

 「ゴフッ...!だ、大丈夫なわけないでしょ...!!その剣、ちょっと貸して...!!」

 「え...いいけど、どうするの?」

 「こう...するのよ!!」

 そういってシャルロットは自分の腕を切り落した。

 「う、あぁっ...!ふぁ、ファイアボール...!!」

 切った腕の面を魔法で焼いた。ここまですれば確かに菌の心配も出血多量で死ぬ心配もないし迅速に作業したことも効率的で合理的だったが瞬時に決断できてしまうところに言い表しえない気持ち悪さを感じた。

 「さあ...村に戻って報告するわよ。」

 「あ、あぁ。」

 そういって俺たちは村へ戻っていった。


 「以上がゴブリン討伐依頼の成果よ。依頼のランク設定が著しく問題があるのでギルドに報告します。」

 「そ、そんなことをしてこの村の人々が飢え死んだらどうするんだ!!」

 「関係ありません。死ぬ気で農民として働けばいいんじゃないですか。」

 「こんの...外道!悪魔!人でなし!おまえらみたいなのが来るなら依頼なんてしなければよかった!」


 これがこの村での最後の会話だった。

 シャルロットは自分の腕を犠牲にして村を守ったのにだれ一人からも称賛されない。こんなのはあんまりだ。


 村からの帰り道、俺たちは一言も話さなかった。


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