村へ向かう(前編)
不老不死?それはあの老いず死なないという不老不死か?
竜の血を飲むとなれる?吸血鬼の特性の?
「...不老不死ってどういうことだよ。」
「ほら、私って絶世の美少女じゃない?だから老いるのが怖くて怖くて...だから不老不死になろうと思うのよ。わかるでしょ?」
「いや、わからん。これぽっちもわからん。何もわからん。」
「なによ、美少女じゃないっていうの?」
「俺は誰だ?ここはどこだ?何もわからんぞ」
「そんなところからわからないの!?」
「...不老不死ってどういうことだよ。」
「会話がループしてるわ...」
なんだ、この打てば響く感じ。なかなか楽しいじゃないか。
「まあ、不老不死っていうのは冗談で、」
冗談だったのかよ、前振りが長すぎるだろ、時間返せ。
「本当の理由はハヤトと同じお金のため、というか生きるためね。私は親がいないから冒険者でもしてお金を稼がないと生きていけないのよ。」
...余計に鍛冶屋でお金を借りたことが心苦しくなってきた。
「だからって取り分多くしたり気を遣わなくていいわ。むしろ侮辱されたと思うし。」
そういうものなのだろうか。
前世でもホームレスの人にものをあげるのはよくないって言われてたっけ。別にシャルロットはホームレスではない(そもそもこの世界にホームレスの概念がなさそうだ)が、人から施しを受けるのはいい気分ではないのだろう。
そんなことを考えていると叢から狼が飛び出してきた。
「レッサーウルフよ!あまり強くはないから落ち着いて対処しましょう!」
劣化狼か...見たところ1体だけのようなので俺の初戦闘にはちょうど良い。
「シャルロット、ここは俺に任せてくれ、買った県の使い心地を試してみたい!」
「わかったわ、一応魔法の準備はしておくわよ。」
シャルロットはいつもはウザいが戦闘になると真剣モードに切り替わった。頼りになりそうだ。
レッサーウルフはこちらを見ているが仲間にはなりたそうではないな。
どうやら完全に敵対しているようだ。ならば先手必勝とばかりに切り込む。
体が軽い。これが剣術スキルの効果なのだろうか。まだlv1だというのにわかるほどの効果がある。これなら十分戦えそうだ。
これがよくある異世界転生ものなら実は主人公は剣道を習っていた、とか実は古武術を習っていたとかで剣を使いこなすんだろうけど、生憎俺にそんな力はない。部活は帰宅部で家が道場だったりもしない。剣に関してど素人だ。
そんな俺えもこの剣術スキルのおかげで並みの剣道経験者よりも強くなれるのだから凄まじい効果だ。
どうやらこのスキルは剣を使っての戦闘時に身体能力と動体視力や反射神経を強化してくれるようだ。
レッサーウルフがとびかかってきたのを確認するとそれを体を右にずらして回避。体の横を通り過ぎるときに左下からレッサーウルフの腹の」真ん中を通るように切り上げる。体を回しながら踏み込んで切り込むことで肋骨ごと叩き切る。
「...ッ!」
この時代の刃物はそれほど鋭くないのでどうしても叩き切るようになってしまう。しかしそれは打撃を与えやすいということなので骨などは比較的簡単に折れる。
こうして俺の初戦闘は一撃であっけなく終わった。
終わってみればこんなもんか、という感じだったが案外こんなもんなんだろう。
アニメなどでは攻撃を受けながら苦労して倒すようなシーンは熱くなれるが実際に戦うなら無傷で早く終わらせるのが一番に決まっている。
「...ハヤトって意外と強いのね。登録したばかりで剣も持っていなかったからてっきりど素人だと思ってたわ。きっと被弾すると思って回復魔法を準備してたのに無駄になっちゃったわ。」
ど素人は大正解だ。シャルロットは案外勘が鋭いのかもしれない。
「それはすまなかったな、出番を奪ってしまって。」
「いいのよ、怪我がないのが一番だから。」
やはり戦闘の時はウザさは消えてただのいいやつなんだよな...
それから2、3回の戦闘はあったがどれも俺が一撃で終わらせて(シャルロットは大変不服そうだった)野営の準備となった。
野営を予定していた場所に時間通り(体内時計で)着いたのだから順調に進んでいるのだろう。一つだけテントを敷いて狼の肉などで夕飯を作り俺はテントに入った。
テントは荷物を減らすためと時間ロスの削減のために大きいものを一つ持ってきた、わけではなく俺がテントを持っていなかったためシャルルがいいといったのでテントはシャルロットが持っていた一つを二人で使うことになった。
もっとも交代で見張りをするので一緒に寝るわけではないがなにせシャルロットが持っていたテントだ。当然一人用で中にある寝袋も一つしかない。つまり交代したときにシャルロットが寝ていたところで寝なくてはならなくなる。それは寝られそうにないので先に仮眠を取らせてもらうことにした。シャルロットも途中で起こされるのは嫌だから先に見張りをさせてほしいようだったのでちょうどよかった。
そして仮眠をとった。大20時くらいから寝始めて24時頃に起こしてもらう予定だった。時たま徹夜をする俺からするとそこまで大変ではないだろうという考えだった。
しばらくすると、俺の体感では一瞬だが、恐らく4時間経ったのだろう、シャルロットが起こしに来たようだ。
「ハヤト、起きてよ~」
そういって俺を揺り起こした。というか乗り起こした。シャルロットが寝ている俺に馬乗りになっている。意味が分からない。
「シャ、シャルロット、なにしてるんだ?」
「んー?夜這い?」
「よばっ、っておま、落ち着けよ!」
「落ち着いてるよー?」
そういいながらシャルロットは抱き着いてくる。途端に甘い匂いがして興奮するのに落ち着くような奇妙な感覚になった。前世では彼女のいなかったしましてや抱き着かれることなんてなかったから初めての感覚だった。
「夜這いっていうのは冗談だよ。でも初めて夜に一人で見張りしてたんだもん。ちょっと心細くなっちゃって安心したかったから抱き着いちゃった☆でもハヤトもこんなに可愛い女の子に抱き着かれて嬉しいでしょ?役得だね~」
シャルロットは明るく言っているが実際彼女は心細かったのだろう。少し考えればわかることだ。若い女の子が初めて夜の森で一人で見張りをしているんだ。怖がらないほうがおかしい。
だがわざわざそれを隠しているのだから指摘するのは無粋だ。俺が少々道化になるだけでシャルロットの気持ちが軽くなるならそれでいい。
「そうだな、嬉しいよ。」
「え、あ、うん、ありがと...」
暗くてよく見えないが恐らくシャルロットは頬を朱に染めているだろう。そんな声を出して見悶えていた。
その後俺とシャルロットは交代、朝までの見張りをした。
起こすときにシャルロットの寝顔を見て可愛いと思ってしまったのは内緒だ。