プロローグ
「君は異世界を信じるか」
信じない、恐らく殆どの人間はそう答えるだろう。
「異世界に行く際に一つだけ願いが叶うなら願うことは何か」
これは意見が分かれる質問だ。
ラノベを読み漁っている高校生などはチート能力を望むだろう。
そういう文化に触れてこなかった人は家族や恋人の安全を願うかもしれない。
俺は18歳の男子である。俺が選んだのは果たして、前者である。これで俺も異世界で無双できると妄想を膨らませたとき、つまりそれは妄想で空想で空虚な想像でしかなかった。
現実は甘くないなんて言うけれど、そんな易しいもんじゃなく辛いのだ、辛辣でさえある。
俺のこの辛く厳しく時々の癒しもない、絶望の物語は俺が死ぬことから始まった。
俺は普通の男子高校生である。こう紹介すると、ある秘密があるのだとかそういうことを予想されがちだが断じてごく一般の高校生である。
あまり印象に残らない薄い顔に鼻につくまで伸びた前髪、目立たないグループで平和に生きていた。読書やゲーム、曲を聴いたり友達とカラオケに行ったりと普通の生活で普通の趣味だった。
いや、こう言ってしまうと今の時代は普通の価値観を押し付けることを毛嫌いする傾向にあるので万人受けすると言ったほうがいいのかもしれない。
そしていつもどおりの生活を終えて帰路に着いたとき、突如として首筋に激痛が走った。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、それしか考えられない。だからその時何によって引き起こされた痛みなのか確認することはできなかった。そしてその痛みの中、俺こと剣崎早渡18年の人生を終えた。
気が付いた時には真っ白い空間にいた。やはりこれはどうしても、異世界転生されたんじゃないかと予想するだろう。
そして目の前に白い靄のようなものが集まり、やがて人の形を成していった。これは展開的に神だろうと思った。
「私は神ではない。」
突如として俺の頭に声が響く。まるで俺の考えを読んで返事をしたかのように。
「まるで、ではない。目の前の人間の心を読むなど容易いわ。」
実際に読んでいたようだ。
「お前は神ではないといったな。ではなんなんだ。」
「確かに神ではない。貴様らに神などと呼ばれるだけで虫唾が走るわ。私のことは≪世界の意志≫とでも呼ぶがいい。」
≪世界の意志≫と名乗った人型の靄は俺に近づいてくる。
「お前の予想通り異世界、あくまでお前から見てだが、異世界と呼ばれるところに転移する。せいぜい生きろ。」
そういって、恐らく俺を異世界に送るためにだろう両手を向けてきた。
「いや、待てよ!チートとか何かないのかよ!?」
「逆になぜあると思ったのだ。死んだのに他の場所で生かしてやると言っているのだ。これ以上なにかを与える必要などないだろう。しかし、特別に公用語は日本語と同じように聞こえるようにしている。それで我慢するんだな。」
そういわれてしまっては何も言えない。俺はおとなしく転移されることにした。
「それではな、いつか相まみえることもあるだろう。」
そういって≪世界の意志≫は俺を転移した。






