名探偵でも分からない?
名探偵は悩んでいます。
「困ったなあ」
「どうしたの?」
通りすがりの女の子が名探偵に声をかけました。
「ワタシは稀代の名探偵。解けない謎はない、はずだったのだけれど。分からないことがあるのさ」
「何が分からないの?」
「実はね、あそこに女性がいるだろう」
名探偵が目深に被った帽子の隙間から、カフェで雑誌を読む女の人に鋭い視線を送ります。
「あの人を見張っているのね」
女の子の言葉に、名探偵は曖昧に頷きました。
「まあね。でも仕事の依頼じゃあない。ある日彼女とすれ違ってから、目が離せなくなってしまったんだよ」
「まあ、事件の匂いでも漂っていたの?」
女の子はヒソヒソ声で耳打ちします。けれど名探偵はかぶりを振りました。
「いいや。彼女は何もしていない。ただ気になるんだ。ほら、ご覧、あの素敵な笑顔を」
名探偵の言う通り、栗色の瞳は太陽にきらめき輝いています。
「もしかして名探偵さんはあの人のことが」
と女の子が言いかけたとき、
「あ、店を出るようだ。急ごう」
名探偵は女の子の手を握り駆け出します。
「名探偵さん、柔らかい手ね」
「そんなことはいいから早く」
やっとのことで追いついたのは公園でした。
「よく見失わなかったね」
女の子は関心しました。
「彼女はここに頻繁に訪れるから」
肩で息をする名探偵は、片時も女性から集中を切らしません。
「ねえ、名探偵さん。直接本人と話してみたら?」
「な、恥ずかしくてそんなことできないよ」
名探偵は顔を赤くします。
「あたし分かったの。名探偵さんはあの人が好きなの」
思わぬ女の子の台詞に、名探偵はしばらく呆気にとられます。
「まさか。ワタシが彼女を好きだなんて。ダメだ。だって、だってワタシは」
困った様子の名探偵の柔らかな手を、女の子はしっかりと握り返しました。
「大丈夫。ダメなことなんてないの。その気持ちは自然なことよ」
初めは躊躇っていた名探偵ですが、一歩ずつ公園へと向かいます。そしてベンチに腰かける女の人に近づいて、
「こんにちは」
と声をかけました。遠くから女の子は応援しています。
名探偵は女の人の隣に座り、楽しそうにおしゃべりをしています。
「これで謎は解けたわね」
お話に夢中なのでしょう、名探偵は女の子が去ろうというのに気づきません。名探偵は目深の帽子を外して、艶やかなロングヘアーを風になびかせています。
ベンチで幸せそうにする二人の女性に手を振って、女の子は公園をあとにするのでした。
該当するから念のため
登録必須なガールズラブ
ジェンダーレスの時代
カテゴライズはちょっぴりナンセンス