2.能力者と亡霊ハンター
「八多さん!!何してくれてんの!?死ぬかと思ったよ!?」
「死なねえよ。低空飛行だったし、ちゃんと調節はした。大体、何も文句を言わなかったお前が悪い」
「言おうとしたんですけど!?」
泉が学校に着くと、そう言い争いをする二人の姿があった。
「…二人とも」
「あっ泉ちゃん!お願い八多さんに何か言ってやって!」
「お嬢様、俺間違ってませんよね?ね?」
「…」
泉は無言でつかつかと二人に近づくと、八多の腹に拳、紅の頭にチョップを叩き込んだ。
「うぐっ」
「痛ぁ!?」
「ぎゃあぎゃあうるさい。ここ昇降口でしょ。邪魔よ邪魔」
端的にそう注意しているが、正直恥ずかしいどころの話ではない。昇降口の入り口部分で言い争いをしていたので、人目につくし邪魔くさい。せめて端によってほしかった、と泉はため息をついた。心の中で。
「えぇ〜私だけなんか理不尽…」
紅がぼやくが気にしない気にしない。そして、突然気づいたように振り返って告げた。
「あ、そうそう。八多、あんたは帰ったら話があるから」
泉の学生とは思えない威圧感に、八多の顔から血の気が引く。隣で聞いている紅は、あまりの恐怖に顔を真っ青にしながら、「…ご愁傷様」とだけ言った。
しかし、一般的には泉が学生らしからぬ冷静さや威圧感、実力があるのも納得いく話。何故なら、彼女は死神に実力を認められ、手伝いを直々に任命された貴重な人物、通称「亡霊ハンター」だからだ。
この世界には、能力者と呼ばれる、人智を超えた力を持つ者がいる。
彼等は当初、「神の恩恵を授かった」として崇め称えられていたが、同時期から『幻影サーカス』と名乗る能力者中心の殺人集団が猛威を払い始めた。さらに運の悪いことに、能力者から石油などと同じような、応用のきくエネルギーを取り出す方法が見つかってしまった。
その結果、能力者はありもしない『幻影サーカス』としての罪を着せられ、また、「人類の繁栄の為に」という名目で人体実験を受けさせられ、また、「人類の生活の為に」エネルギーを差し出す義務を課せられた。エネルギーこそ見つかったものの、能力自体にはまだまだ謎が多いのだ。
しかし、亡霊ハンターに関しては別である。死神がやろうと思えば一方的に人類を虐殺できる為、政府は死神を恐れて、亡霊ハンターに関してだけ扱いを緩くした。エネルギーを差し出す義務がなくなり、能力者としての差別を禁じ、「監視」という名目で他の能力者を奴隷のように扱うことを許した(ただし、ずっと監視し続けないといけない条件付き)。紅と八多は、泉の配下の能力者だ。そのため、泉に付いて学校に通っている。なお、この二人も、亡霊ハンターに深く関わっている為、エネルギーの義務はない。
「さっさと行くわよ。ホームルームに遅れちゃうでしょう」
「はーい」
「かしこまりました」
二人の返答を確認し、泉はさっさか教室へ向かう。
「…そうだ。八多、荷物返してちょうだい」
「あ、その…」
「? 何よ。返して」
「…すみません、お嬢様」
「? …!」
空中を飛んでくる過程でびしょ濡れになったカバンを見た泉は、無言でもう一発八多に拳を入れた。