1.雨の通学路
さあ始まりです。どうぞお楽しみくださいませ〜♩
雨が降っている。
しとしとと、しかし傘が必要なくらいには降っている。通学路を歩きながら、幼き亡霊ハンター、泉はため息をついた。
「どうしたの、泉ちゃん」
後ろを歩いている少女、暗林紅が声をかける。そういえば今朝は「湿気がひどい」とヒンヒン言いながら必死こいて寝癖を直していたな、と泉は思い出した。あ、まだ若干はねてる。
「どうもしないわ。ただ雨が嫌いなだけ」
「あー…昔から言ってるよねぇ」
「だったら自動車通学を認められたら良かったじゃないですか」
紅と同じく泉の後ろを歩いている高身長の男性、烏間八多が不満げに呟く。不満げでありながらも、泉の荷物は濡らさないよう注意している。荷物持ちとしては百点満点の心意気である。
「雨の中歩くのが嫌いなんじゃない。雨が嫌いなの。降水がガラスに当たるのを聞き続けるくらいなら、傘のがマシ」
「どういう基準??」
「それは…」
どうしてなのかは、自分でもわからない。ただ、生理的なものなのかと問われると首を傾げてしまう。何か理由付けできそうだけど言葉にできない。
「あっもしかして、他の生徒さんが歩いて登校してるから?別に気を使わなくてもいいんじゃない?泉ちゃん特別なんだし」
「……」
なんか勝手に紅が結論づけているが、まあいいかと泉は諦める。紅は普段から笑顔だから、冗談と真面目な台詞の区別がつきにくい。
「…別にどうだっていいでしょ。遅刻するから走るわよ」
「あっ、待ってー!」
「紅、行くぞ」
「えっ」
拗ねたように泉が言うと、八多が腕を振るった。途端に、風が紅と八多、二人の体を持ち上げる。そして、猛スピードで空を飛び始める。空を飛ぶ、というよりかは台風か竜巻か、大風の災害に吹き飛ばされていると言ったほうが正しそうだが。周囲の人は、「またやってら」と微笑ましそうにそれを眺めている。いや、念の為に言っておくと、人二人が吹っ飛んでいく絵面は決して微笑ましいものではないが。
「ちょっ、下ろして、ねえ!?八多さん!?八多さ、ああああああ!!」
紅の悲痛な懇願の声が徐々に、いやぐんぐんと遠ざかる。泉は思わず、足を止めてビニール傘ごしに空を見上げた。
「……馬鹿が、主人をおいていくんじゃないわよ」
そう呟くと、泉はまた通学路を走り出した。水溜りがぱしゃんと音を立てた。