064
次々と放たれる必殺の魔法と光速の剣技。
気づけばそこには別世界が広がっていた。
僕はただそれを呆然と見ていることしかできないが、すぐにそうもしていられなくなった。
一条の光線がサータリーファルさんの展開する魔法陣の一つからこちらに飛んでくる。
僕はそれを転がるようにギリギリところで避ける。
「よそ見してんじゃないわよッ!」
イリナはサータリーファルさんが僕に意識を割いた隙を突いて、目にも止まらぬ速さで鋭い突きを放つが、それは局所的に張られたサータリーファルさんの障壁に阻まれる。
「どのような理由があれ、貴方達は既に許されないことをしたのです!いい加減諦めてください!」
恐るべき障壁の硬度と展開技術に僕は目を見開くが、すぐにサータリーファルさんの言葉に唇を少し噛む。
人に信じてもらえないというのは思いの外堪える。
それが友人であれば、尚更だ。
「だから、私達は何もやってないって言ってるでしょ!?」
イリナも同じような気持ちのようで、興奮気味に声を上げる。
しかし、このギリギリの状況下であっても、冷静さは保っているようで、僕からは少し手加減をしているように見えた。
だが、それとは別にサータリーファルさんはかなり熱を帯びており、戦いは白熱していくばかりだ。
流石にイリナも手加減というわけにもいかなくなり、必死にサータリーファルさんの魔法と飛び道具による攻撃を捌いているが、防戦一方になってしまう。
「くっ……!」
僕はイリナを支援をしようと更に《魔強化》を強めるが、それにもそこまでの効果があるとは感じられない。
「イリナ!」
そして、とうとうイリナはサータリーファルさんが仕掛けた設置型の魔法をもろに受け、膝を折ってしまう。
「……っ!?」
正直、見事な誘導だった。
相手がどう動くかを予測し、サータリーファルさんは攻撃をしていた。
戦闘経験の差が如実に現れたような戦いだった。
しかし、そんなことを考えていられる段階でないことを僕は知っている。
サータリーファルさんは飛び道具をこちらにゆっくりと向けてくる。
「そのまま手を頭の後ろに組んでください。妙な動きを見せるようなことがあれば、即座に撃ちます」
「……分かった」
僕はサータリーファルさんの指示に従い、頭の後ろで手を組む。
だが、まだ僕は諦めてはいなかった。
僕は通信魔法を使い、地面に膝をついているイリナとの連絡を試みる。
『イリナ、まだ魔力は残ってる?』
通信魔法を使っていることを悟られないように、僕はサータリーファルさんを真っ直ぐに見据えながら、頭の中でそう言った。
『魔力は結構残ってるわ。でも、体の方は動かないからそんなに期待しないで頂戴』
『了解。じゃあ、これから言う作戦を聞いてね』
そう言って、僕はこの場で考えた作戦をイリナに伝えた。
成功するかは五分五分と言ったところだが、これに賭けてみる他ない。
座して死を待つよりは幾分かマシだろうとは思う。
「改めて聞いておきます。シオンさん、貴方は何らかの方法で他の生徒を妨害しましたね?」
サータリーファルさんの鋭い眼光に射すくめられ、一瞬口をつぐんでしまったが、すぐに答えを出す。
「……絶対に、とは言い切れないけど、少なくともやったつもりはないよ。そもそも今日はそこまで魔力を使った覚えがないし」
今の僕にできるのは時間稼ぎだけだ。
そして、僕の提案した作戦には時間がある程度かかるものなので、時間は僕が稼がなければならない。
「……それが最後の言葉ということでいいですか?」
「僕は濡れ衣だって言ってるんだよ。その可能性は考えなかったの?」
僕が言うと、サータリーファルさんはすぐに口を開いた。
「確かに可能性はありますが、限りなくゼロに等しいです。《魔王》の特異性は既に承知のことと思いますが、その特異性の原因はその身に宿す特殊な魔力にあります。例えば、《魔王》は魔王城の地下深くのどこかにある秘密の宝物庫から七振りの魔剣をどこにいても召喚できます」
おそらく、サータリーファルさんが言っているのは僕があの大会の決勝戦で召喚した雷を纏った剣のことなのだろう。
「研究者の話によると、七振りの魔剣は《魔王》の魔力そのものだそうです。普通、魔力の固形化はできません。稀にその能力を有する者がいるのですが、それも例外中の例外です。ローレンなどがそうですが、はっきり言って神業です。並の精神力ではその才能を有していたとしても、不可能な技なのです……話が少し逸れましたが、初代魔王は一時的な固形化どころか、その固定化に成功しています。あの剣は高密度の魔力の塊、つまりは結晶です。そして、その剣は《魔王》以外には触れることさえできない代物だそうです。そんな《は魔王》の魔力を他の者が操れると思いますか?」
確かにそう言われると、僕以外に犯人は考えられない気がするが、それでも僕は心当たりが全くない。
誰が、僕を陥れる為にやったのか何なのか知らないが、全く良い迷惑だ。
「分からないよ。何度も言うけど、少なくとも僕はやってない、これだけは言わせてもらうよ」
僕の言葉にサータリーファルさんは落胆したようにため息をついて言った。
「……分かりました。それが貴方の最後の言葉ですね……安心してください、イリナさんを殺したりはしません。外交問題になりかねない事案ですからね。それは保証しまします……では、さようなら」
そう言って、サータリーファルさんは魔法陣を浮かばせた手のひらをこちらへ向けて、僕を死に至らしめる魔法を放とうとする。
このタイミングを僕は待っていた。
僕は地面を思い切り蹴り、サータリーファルさんに飛びかかる。
「障壁中和完了ッ!!」
僕はサータリーファルさんの魔法が放たれるのではないかという恐怖に目をグッと閉じながら、イリナにそう叫んだ。
「ッ!?」
自分の障壁がいつの間にか中和されていることに驚きながらも、サータリーファルさんは即座に手のひらをこちらに向けようとする。
しかし、サータリーファルさんの手のひらは後方から飛んできたナイフに串刺しにされ、大きく弾かれる。
「ぐぅっ!!?」
サータリーファルさんはいきなり飛んできたナイフに驚きながらも、それがどこから飛んできたのか瞬時に理解したようだった。
そう、ナイフを投げたのはイリナだ。
聖剣は形状変化が自在ということを聞いた僕が一瞬で考えた粗さが目立つ作戦だったが、どうにか成功したようだ。
しかし、残念なことにそれは単なる思い上がりだった。
僕はサータリーファルさんに覆い被さるような形で地面に倒れ込んでいた。
すると、サータリーファルさんは耳元でこう囁いた。
「……大好きでした、さようなら」
直後、胸の辺りに鋭い痛みが走った。
僕は最初、それが何なのか分からなかったが、すぐに自分の胸に穴が空いているのを理解した。
「シオンっ!!」
イリナの短い悲鳴のような声を聞きながら、僕はサータリーファルさんに覆い被さったまま、ゆっくりと目を閉じた。
「……二回目、か……」
そうして僕は二度目の死を迎えた。
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