062
六階層に降り立った時、僕達は雰囲気の違いを感じ取った。
五階層までは一面煉瓦造りになっており、整った感じだったが、六階層は洞窟といった感じで、空気も少し冷たかった。
「さてさて、次の方向は……あれ?ずっとフラフラしたままで倒れない」
さっきまでは即座に行くべき道を示してくれた聖剣がここにきて、倒れなくなってしまった。
「そうだね……もしかしたら、次の階段までいくつかの道があるのかもしれないよ?それで、聖剣が倒れないのかも」
「一理あるわね。仕方ない、ここからは地道に探していきましょうか」
ここまででかかった時間はおよそ一時間、聖剣のお陰でかなりの速さで進むことができたが、まだ僕達の前を行く人は多いだろう。
そんなことを考えながら、しばらく歩いていると、また道が分かれた。
「……ちょっと試してみましょう」
まだ始めて数分なのに、もう地道にやっていくのに飽きてしまったらしい。
しかし、意外なことに聖剣は一方向を指した。
「どういうこと?」
イリナは首を傾げて、僕の方を見てくる。
「分からないけど、とりあえず今は進むしかないよ」
聖剣が倒れる条件も気にならないわけではないが、今は進むことが最優先だ。
そう思い、僕は聖剣が示す方向に進む。
だが、しばらく進むんだところで、カチッ、という何かのスイッチが入る音がした。
「……イリナ、何か踏んだりしてないよね?」
「……ふ、踏んだ気がする……」
ちょうどその時、後ろで大きな何かが落下する音が聞こえた。
僕が急いで振り返ると、球状の岩が徐々にスピードを上げ、こちらに迫ってきていた。
「ベタ過ぎるだろぉぉぉ!?」
典型的で古典的で、しかし効果的な罠は確実に僕達を退場させるべく牙を剥く。
僕は一目散に逃げ出した。
「いやぁぁぁ!!……って良く考えたら、普通に斬ればいいじゃない」
僕に釣られるようにして叫び声を上げていたイリナは急ブレーキをかけ、冷静にそう言った。
「よっと!」
軽快な掛け声と共に、イリナは持っていた聖剣で迫り来る岩を一閃する。
すると、当然のように岩は真っ二つ、岩はその動きを停止させる。
「……なんかさ、助かったのは嬉しいんだけど、釈然としないよね」
この罠にも岩を斬るということ以外の対処法がおそらく用意されていたわけで、そういう意味では斬るという選択肢は正解ではない。
それがものすごくこの罠を考えた人に負けた気がしてならないのだ。
そんな脳みそにまで筋肉が詰まったような攻略法でいいのか、と。
「やってみて、私も思ったわ。あんまりいい方法じゃないわね、これ。すごい虚しさが込み上げてきた」
贅沢な悩みというか、自分でも良く分からなくなってくる思考なのだが、本当にそう思えてきてしまうのだ。
人間は欲深い生物だと心の底から思う。
「……まぁ、いいか。先に進もう」
真っ二つになった岩を一瞥して、僕達はその場を去るのだった。
何度か聖剣に道案内をさせているうちに、道案内の精度はどんどん悪くなっていった。
最初は何故だか全く分からなかったが、それは次の階層に移動した時、何となく理解できた。
「何か、すごい空気が悪い気がしない?どんよりしてるっていうか……」
七階層に移動した時に最初に感じたのは不快感だった。
とにかく空気が澱んでいて、息苦しいのだ。
「多分空気中の魔力が濃くなってるんだと思う。聖剣もそのせいで道を見通せないじゃない?」
「進めば進む程、楽な攻略はできなくなってくるわね……まぁ、元々は自力で行くつもりだったし、ここら辺が潮時って感じかしら」
そう言って、イリナは今まで使っていた聖剣を体内に収めた。
「じゃあ、ここからはまた普通に進んでいこうか」
そう言って、僕達はまた歩き出した。
しばらく進んでいくと、ゴーレムと何体か遭遇したが、イリナが瞬殺できる程の強さでしかなかった。
そうしているうちに、七階層も終了し、八階層、九階層、と僕達はどんどん迷宮を突破していった。
そして、下の階層に行く程に、空気中の魔力は濃くなっていった。
腹時計で大体四時間が経過した頃、僕達は十階層を彷徨っていた。
空気の悪さにも大分慣れてきて、攻略のスピードは少しずつではあるが、上がってきていた。
「よし……それじゃあ、今度はこっちに行ってみようか」
「……ねぇ、少し休んでかない?私少し疲れちゃって」
振り返ると、そこには顔に汗を浮かべ、疲れた顔をしたイリナの姿があった。
「え?……あ、そうだね。結構歩きっぱなしだったし、休んだ方がいいかもね」
僕は内心驚いていた。
情け無い限りではあるが、僕よりイリナの方が体力はあるはずで、僕より先にイリナが疲れたと言うとは全く思っていなかったのだ。
しかし、こういうこともたまにはあるか、ということぐらいに考えをとどめて、僕は通路の端によってどっかりと座り込む。
「それにしても、アンタ良く疲れないわね。私なんて、この空間で息を吸うことすら少し辛いぐらいなのに」
イリナは意外そうな顔でこちらを見てくる。
「え?そうなの?やっぱり、勇者は魔力が濃過ぎる場所には向かないのかな?僕はそこまで辛くはないんだけど」
イリナが疲れているとは思っていたが、息を吸うのでさえ、辛いと思っているとは意外だ。
「私も良く分からないけど、そうなのかもね……それじゃ、引き続き攻略を再開しましょうか」
イリナは体を少し重そうに持ち上げ、怠そうに歩き出す。
そこで僕はイリナの周囲に特殊な透明な障壁を展開する。
「どう?これで少し楽になると思うんだけど……」
「ん……確かに楽になった気がするけど、これ何よ?」
「魔力を通しにくいフィルターみたいなものかな?本当は魔力を結構消費しないと発動できない魔法なんだけど、障壁を通り抜けなかった魔力も使って障壁を展開してるから、今回の場合そこまでの負担はないよ」
「へぇ、そんなのがあるんだ。ありがとう、お陰でまだ歩けそう」
そう言ったイリナの顔色は少し良くなった気がした。
「よし、改めて攻略再開しようか」
僕達は更に足を進める。
この先にあんな事が待っているとは知らずに。
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