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 六月が終わり、更に変化した生活環境にもようやく慣れてきた七月、僕達は学期末試験を迎えようとしていた。


「何で試験って存在するのかしら?」


 イリナは学院生であれば、誰もが一度は考えるであろう難解な問いに足を突っ込む。


「その理由は簡単でしょ。イリナみたいな人は試験がないと勉強しないからだよ」


 僕はイリナの誰ともなしに呟いた問いに浅い答えを返す。

 まぁ、浅いとは言っても、あの問いに対する答えを学生が出すのには無理がある。


 何故なら学生は皆試験が大嫌いだからだ、なんていう決めつけをする気はないにしても、考えない方が良い問いであることには間違いはないだろう。

 どちらにしろ試験は受けなければならないものなのだから。


「その言い方に少しトゲを感じるのは気のせいかしら?それにその言い方だと、アンタは日頃から勉強しているみたいじゃない」


「ふふふ、『みたい』じゃない。僕は日頃から少しずつではあるけど、勉強してるんだよ!」


 僕はここがどこかということも忘れて胸を張りながら声を上げてしまう。


「まぁ、とりあえず落ち着いてください。ここ、図書館なんですから」


 サータリーファルさんの言葉で自分がとんでもなく恥ずかしいことをしでかしたことに気づき、僕の顔は熱くなっていく。


 そう、僕達はローレンさんを抜いたサークルのメンバーで今図書館に勉強しに来ているのだ。

 勘違いしないでもらいたいのだが、僕達はローレンさんをハブったわけではない。


 ローレンさんにも一緒に勉強しないか、と打診したところ、『勉強?やんねぇよ、そんなもん。授業受けてりゃ、半分は取れる。それと実技満点で総合七割五分、それくらいの成績取れりゃ十分だっての』とのお言葉を頂いてしまった。


 そういうわけで僕達は三人で勉強に励んでいた。


 ここで学期末試験について説明しておこう。

 学期末試験と言っても二種類あって、座学で学んだことを理解しているかを確認する筆記試験と、実技の授業で学んだことを用いる総合的な実技試験がある。

 そして、総合的成績を示す十段階評価では五対五の割合で反映させることになっている。


 つまり、実技に若干の不安が残る僕は筆記である程度の点数を取っておかなければならない、ということになるのだ。


「それで、イリナ、筆記試験の方は大丈夫そうなの?」


 僕が騒いだことで止まっていた話を僕は再開する。


「大丈夫だったら、ここにいないわよ。レイラちゃんに勉強教えてもらいに来たようなもんなんだから」


 なるほど。サータリーファルさんなんて、もう見た目からして勉強できる雰囲気漂うお方、学年一位を軽く掻っ攫っていきそうだ。


「え、私に期待してたんですか?申し訳ないですけど、魔法の実技はできても、理論は良く理解できていないんです」


 サータリーファルさんは困った顔をして、僕達にそう告げた。


「ま、まぁ、そういうこともあるよね」


「て、ていうか私もそんなもんだし……」


 もう見たまんま成績優秀者であるところのサータリーファルさんがそこまで勉強できないという事実に僕は内心動揺していた。


 だが、その動揺は単にサータリーファルさんがそこまで勉強できない、ということにではない。

 僕が動揺しているのは、この勉強会で最悪僕が二人に教えなければならないということにだ。


 イリナには正直間違ったことを教えたって、多少申し訳なくなるぐらいで、僕の中では済んでしまう。

 しかし、それがサータリーファルさんとなると、話は違ってくる。


 もう間違ったことは教えられませんよ、これは。

 この完全無欠のお嬢様に不純物を入れようものなら、それはもう処刑ものですからね、本当に。


 とか何とか、僕が頭の中で馬鹿みたいな考えを巡らせていると、早速声がかかる。


「ねぇ、シオン。この術式って何だったっけ?」


 質問したのはイリナ、これならそこまで緊張する必要はない。

 イリナなら僕が教えた問題が試験で出たところで、どうせ教えられたことを忘れている、それぐらいの気持ちで僕は挑むことにする。


 だからと言って、手を抜くわけではない。

 一応、真剣に向き合って答える。そうでなくては後が怖い。


「えーと、その術式は《武器強化》だね。魔剣の類には効果が薄いけど、普通の剣の硬度、切れ味を強化してくれる魔法だよ……って流石にこれは知ってるか」


 ついつい要らないことまで説明してしまうが、これぐらいの方が自分の確認にもなるし、良い気がする。


「へぇ、便利な魔法もあったもんねぇ……」


 イリナは感心したようにそう言う。


「え、もしかしてその魔法知らなかった?」


「……自分が使わなさそうな魔法は覚えない太刀でして」


 なんて言い訳をあっさりとするイリナ。

 本当に筆記試験、大丈夫なのだろうか。

 そんなことを考えていると、次の声がかかった。


「すいません、シオンさん。この術式の意味が分からないんですが……」


 そう言って、サータリーファルさんが見せてきた教本には僕が見たこともない魔法が載っていた。


「……サータリーファルさん、ここ最近ずっとこの辺りの内容を勉強してたの?」


「え?はい、そうですが」


 サータリーファルさんは事もなげにそう言った。


「そりゃ分かんないよ!これ、来年やる内容だって!」


「え!?そうなんですか!?」


「うん……今回の試験に出る範囲は最初から四十ページまでの内容だよ」


「そうだったんですね……あ、確かに言われた通りのところを見たら、できそうです」


 これで納得がいった。やっぱり、サータリーファルさんは少し抜けているというだけで、勉強ができないというわけではないのだ。

 これで僕の心労も減るというものだ。


「でもレイラちゃんって意外と抜けてるわね」


「あはは、そうなんです。少なくともしっかりしてるタイプではないですね」


「はいはい、話はそこまで。勉強しないと試験失敗するよ。特にイリナね」


「……アンタ、いちいち私に厳しくない?」


 まぁ、唯一勝てる分野でマウントを取っておこうという思いがあるのは認めるが、そんなことを言うわけにもいかない。


「そんなことないって。はい、勉強勉強」


 こうして僕達は学期末試験の準備を着々と進めていくのだった。

 本作をお読み頂きありがとうございます。


 作者から二つお願いがございます。

 ずばり、ブクマ登録と評価です!!

 何卒、よろしくお願い致します。


 感想、質問なども、どしどしお寄せください。

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