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 フィアネル先輩の浮気が確定してから数日後。


「その荷物はこっち、これは部屋に運んどいて」


 僕は新しい同居人に早速こき使われていた。


「じゃあ、これは?」


「それも部屋に運んどいて」


 今日は休息日を利用して、イリナが伯母さんの家に引っ越してくる日。

 僕は朝一番でイリナの前の家に行き、荷物を全て運搬したのだった。

 そして、伯母さんの家に戻ったかと思えば、すぐ様家財の配置をさせられた、という状況なのだ。



 二時間程かけて、ようやく全ての荷物の整理が終わった。

 流石に疲れた僕は体をベッドに投げ出す。


「いやー、ご苦労様。男手があると楽で良いわね」


「何言ってんの。僕がわざわざ力を貸さなくたって、イリナの怪――」


「それ以上言ったら殺す」


 僕が怪力と言おうとしたところで、首元に聖剣が突きつけられる。


「…………いや、だからね。こんなあり得ない程の速さで剣を突きつけることができるイリナに僕の力が必要だったかっていうのは疑問が残るわけじゃないですか」


 びっしりと顔に冷や汗を浮かばせながら、僕は人生で一番の早口で言い切る。


「いいじゃない、少し手伝うぐらい。どうせ、今日は暇する予定だったでしょ?」


 少しという表現に疑問を覚えたのだが、それはさて置き、僕が暇だという言い分には反論しておかねばなるまい。


「……イリナはもう分かってると思うから言うけど、こんなんでも僕、この間のアレ気にしてるわけなんだよ、未だに葛藤しているわけなんですよ。何とかしてあげられないかと思っているんですよ」


「アンタがそんなことを考えて日々を過ごしているんだろうなと思って、私はアンタに引っ越しの手伝いをさせたのよ。手伝いをしてる間は流石に頭から抜けてたんじゃない?」


 そ、そこまで深い考えが……って騙されないぞ。

 それはあくまで引っ越しの手伝いで生まれた副産物、イリナが狙ってやったわけではないはずだ。

 いや、もしかすると、僕のことを本当に考えて……。


 しかし、イリナにどんな思惑があれ、気持ちが楽になっていることは事実なのだ。

 この数日間、僕は寝ても覚めてもあの一件のことを考えていた。

 本当にこんな幕引きでいいのか、力になれることがあるのではないのか、と。


 黙ってそんなことを考えていると、僕の眉間に細い指が当てられる。


「ほら、またここにシワがよってる。ここ何日かのシオン、ずっとこうだったのよ?考えるのも良いことだとは思うけど、少しは休んだ方が良いと思うわ。そうじゃないと、いつか心が参っちゃうわよ?」


 心配そうな顔でこちらを覗き込んでくるイリナ。

 どうやら、ここ何日かの僕は周りに結構な心配をかけていたようだ。


「うん、それもそうだね。今日は何も考えずに剣でも振ろうかな」


 幼少の頃から取り組んできたことということもあって、剣を振っている時は何も考えられずにいるのだ」


「それで行き着くのが剣て、アンタ病気ね。まぁ、でもそれなら私も付き合ってあげるわ」


「え……手加減してよ?」


「当たり前でしょ。私が本気出したら、アンタなんて一秒もかからずに地面に倒れてるわよ」


 僕はベッドから跳ね起きて、イリナと部屋を飛び出す。


「伯母さん、ちょっと外出してきます」


「ああ、分かった。デートするのも結構だが、昼ご飯には一度帰ってこいよ」


「「デ、デートじゃないですっ!!」」


 こうして僕に新しい同居人が増えたのだった。



「これより、定例会議を行います」


 魔都ゲルドガルド上空に佇む船の中で、今、重大な会議が行われようとしていた。


「まず、先日観測された異様な魔力についてですが、解析の結果、魔王のものであることが判明しました」


 クルーの報告に会議室にはどよめきが起こる。


「それはつまり、ゲルドガルド学院一回生二組所属のシオン・ライトヒルトが《魔王》ということで間違いないということですか?」


 円卓を囲むクルー達より明らかに年若く、この場にはふさわしくない年頃の女――レイラ・サータリーファルはそう確認を取る。


「まず、間違いないかと」


 《魔王》のスキルを有する人間の特定、それはこの場にいる全ての人員にとって、喜ぶべきことであった。

 しかし、レイラはクルーから告げられた言葉の内容にかなりの焦りを覚えていた。


 そうなのではないかと思っていたが、あくまでもそれは何の裏づけもない可能性の話だった。

 それが今、確定事項としてレイラの前に現れたのだ、彼女が動揺するのも無理からぬことだった。


「ここからがまたおかしな点なのですが、シオン・ライトヒルトにいくら観測機を回しても、魔王の魔力を感知できないのです。普通、本人が魔力を隠そうとしたところで、魔力は漏れ出るものなのですが……いえ、それもまた少し違っていて……」


 クルーはいまいち要領を得ない話し方をする。


「どういうことですか?」


 レイラの隣に座っている副官的立場の青年はクルーの要領を得ない話に疑問を覚える。


「普通ではあり得ないことなのですが……へ、変質しているのです、彼の魔力が。つまり、現在の彼の魔力からは魔王のものと思われるものは一切検出されていません」


 会議室には再びどよめきが起きる。

 二つの互いに反する結果に会議室の者は皆混乱していた。


 この結果にはレイラも驚きを隠せない。

 数日前のローレンとの訓練でシオンが一瞬だけ見せた圧倒的な力は確かに魔王のものと言われてもおかしくはなかった。


 しかし、平時のシオンはレイラから見てもあまりに平凡で、そればかりか、魔族の目線からして弱いといっても過言ではなかった。


 レイラは混乱する頭を一旦落ち着かせ、艦長として場を収めんとする。


「了解しました。以後、シオン・ライトヒルトを最重要候補として、監視を徹底、少しでもおかしな点があれば、即座に報告するように。他、何か報告はありますか?」


 レイラは静まり返った場を見渡して挙手がないのを確認し、隣にいる青年に会議の終了の音頭を取るよう促す。


「特に報告する内容もないようですので、定例会議を終了します」


 レイラはクルーの敬礼を目に入れる余裕すらなく、全く先の読めない未来に歯噛みするのだった。

 本作をお読み頂きありがとうございます。


 作者から二つお願いがございます。

 ずばり、ブクマ登録と評価です!!

 何卒、よろしくお願い致します。


 感想、質問なども、どしどしお寄せください。

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