056
放課後、僕達はホームルームが終わると同時に教室を飛び出した。
昨日の作戦通り、向かった先は三回生一組の教室。
しかし、そこにはフィアネル先輩の姿はなかった。
おそらく、上級学年になればなるほど、ホームルームの終了が早いというアレだろう。
僕達はすぐさまローレンさんに連絡を取る。
『ローレン、そっちに行ってますか?』
サータリーファルさんが代表して、ローレンさんに連絡する。
ちなみに通信魔法は部屋で話すイメージなので、僕とイリナにもサータリーファルさんが念じた声が聞こえている。
『いや、まだ……待て、今来た。俺が尾行を始めておくから、お嬢達も後から来てくれ』
「だそうですから、私達は荷物を取りに行ってから追いかけましょう」
僕とイリナは首肯して、そのまま自分達の教室に引き返した。
荷物を取って、ローレンさんの言う方向へ向かうこと二十分、僕達はローレンさんに追いつくことができた。
「野郎はあそこだ」
ローレンさんが指差す方にあるのは高級そうな服がいくつも置かれている服屋だった。
その服屋の中には若い男女が二人居た。
男の方は言うまでもなく、フィアネル先輩だった。
しかし、残念なことに、女性の方はマクベス先輩ではなかった。
フィアネル先輩は仲良さそうに女性の肩に手を回し、ぴったりとくっついている。
「……ここからでは流石に話している内容までは分かりませんね。情報を確定的な物にする為にも、店内に入る必要がありそうですね」
「でも、四人で入っていくわけにはいかないよね?」
「そうですね。ですから、私とシオンさんで行ってみましょう」
「分かった。じゃあ――」
サータリーファルさんの尤もな意見に賛同しようとしたその時、横から耳をつんざくような大声が上がる。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!何でそんなにすんなり決まってるのよ!?」
イリナはひどく焦ったような顔をして、僕とサータリーファルさんの顔を交互に見る。
「イリナが何でだよ!?そんなに大声出さなくても聞こえるし、何も問題ないでしょ?」
「うっ、そう言われると……」
「いえ、そこまで言われるのでしたら、潜入の役割はイリナさんに任せます。どうせ、少し話を盗み聞きするだけの仕事ですし」
サータリーファルさんはさらりとそう言って、役割をイリナに譲る。
「何で急に大人になっちゃうのよ!?負けた気がして釈然としない!……まぁ、でも譲ってくれたことはありがとう。精一杯任務を全うするわ」
イリナが自分の仕事が少ないことに結構な反感を持っていたことに驚きつつも、僕にとっては盗み聞きをする仲間は誰でも良いので、若干話に飽きる。
「じゃあ、僕とイリナで行くってことでいいですか?」
「俺に異論はない」
「私はさっきの通りです」
「よし。じゃあ、行こうか、イリナ」
変なことに時間を取ってしまったことに若干の焦りを覚えた僕はイリナの手を引いて、店に入る。
「……そ、そろそろ離してくれると嬉しいんだけど……」
後ろから聞こえたイリナの声で、僕は自分がまだイリナの手を握ったままだということに気づいた。
「ごっ、ごめん!」
僕は慌ててイリナの手を離し、それもまた何だか恥ずかしくなってしまって、今まで繋いでいた手を後ろに隠してしまう。
「べっ、別に嫌ってわけじゃないのよ!?少し緊張するというか、恥ずかしいというか……」
「わ、分かってる、分かってるから!」
この空気を何とかしたい、そう思っている暇は殆どなかった。
何故なら、僕がフィアネル先輩達からの視線に気づいたからだ。
向こうからすれば、ただのうるさい客だが、こちらからすれば、悪行とも言えることをこれから働く相手なので、僕は一瞬固まってしまった。
しかし、それも一瞬のこと。僕はすぐに冷静さを取り戻し、イリナと話をする。
「イ、イリナはどんな服がいいのかな?」
「そ、そうね……向こうの方にある服がいいわね」
イリナは僕の狙いに気づいたようで、フィアネル先輩達の居る方向の服を指差してそう言った。
「う、うーん……この服なんかどうかな?結構似合うと思うんだけど……」
「そ、そうかしら?こっちの服の方が合うと思うんだけど……」
ぎこちなくはあるが、僕達は話を続ける。
少しすると、フィアネル先輩達は僕達から視線を外し、自分達の買い物を再開させる。
僕達はお互いに言葉を交わしながら、フィアネル先輩達の会話に耳を傾ける。
「今までは私が買ってもらってばっかりだったから、今度は私が買ってあげる」
最初に話始めたのはフィアネル先輩の隣に居た女性だ。
「お、マジか。でも、どうせなら、来週の俺の誕生日に買ってくれよ。その時またこの店に来ようぜ」
どうやら、フィアネル先輩の誕生日は来週に迫っているようだった。
「それじゃあ、誕生日は二人で過ごせるっていうこと?」
「当たり前だろ。俺達付き合ってるんだぜ?」
言いながら、フィアネル先輩達は店を後にした。
決定的な話を聞いてしまった。
これで、家族とか親戚だとか、そういう可能性はゼロになった。
この話をマクベス先輩にするのが正しいことなのか、僕は分からなくなりそうだったが、それは僕が考えることじゃない。
そう思って、僕は一旦思考を停止させ、イリナと共に店を後にする。
「どうだった?」
「……黒でした。付き合ってるって言ってました」
「そうか……一つ言っておくが、この話をあの人に伝えることは間違ったことじゃねぇ。あの人もこの話を聞いて、前に進んでいくんだよ。だから、お前、そんな悔しそうな顔すんな」
「別にそんなに気にしてませんよ」
そんなことは分かっているのだ。
マクベス先輩は真実が知りたくて、僕達にこの依頼を出した。
だから、僕達がその信頼を裏切って、事実を捻じ曲げていいはずがない。
「……人生ってのはままならねぇもんだよ。多かれ少なかれ、誰だって一回や二回、石につまづく。あの人の場合、それが悪い男に引っかかるってことだったんだよ。生きてりゃ、男や女に引っかかることぐらいあるだろうよ。こう考えとけ、俺達はあの人みたいなつまづいた人に手を差し伸べるのが仕事なんだよ。さっきも言ったろ、あの人はこの話を聞いて、また一歩前に進むんだ。それを助けるんだから、名誉なことじゃねぇか」
「……はい」
「おっし、それじゃあ、とりあえず今日のところはこれで解散ってことにすっか」
「そうですね。あまり気持ちの良い終わりではなかったですけど、マクベスさんにこの話を伝えたら、全員で終えた初めての仕事ということで、ひっそりとお祝い会でもしましょうか」
「それ良いわね。じゃあ、その日はバイト空けとくわ」
そんな話をする皆を見ても、やっぱり僕の心に立ち込めた黒い霧が晴れることはなかったのだった。
本作をお読み頂きありがとうございます。
作者から二つお願いがございます。
ずばり、ブクマ登録と評価です!!
何卒、よろしくお願い致します。
感想、質問なども、どしどしお寄せください。




