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051

 その部屋には僕を含めて四人の人がいた。

 四人は各々別のことをしていた。

 ある人は机に突っ伏してぼーっとしていて、またある人は本を読んでいる。


「……暇だ」


 その部屋に漂っている空気を的確に示した言葉だった。


「仕方ないですよ。昨日の今日で人が来るわけないです」


 僕は愚痴をこぼしたローレンさんを宥めるように言う。

 かく言う僕だって、イリナとボードゲームに興じているだけで、生産的な活動をしているわけでもなかった。

 だから自分に言い聞かせているようでもあった。


「大体ね、あんな活動内容にしたら、受け身の状態になることは読めてたでしょ」


 イリナは口を尖らせて、ローレンさんを非難するようにそう言った。


「あ?俺が悪――」


「ローレン、うるさいですよ」


 イリナに何か言い返そうとしたローレンさんはサータリーファルさんの鋭い言葉に制止させられた。

 サータリーファルさんはローレンさんの方を向くでもなく、本を読み続けている。


 部屋は再び静寂に包まれる。

 部屋に流れるのは時計の針が時を刻む音、ボードゲームの駒を動かす音、本のページをめくる音だけ。


「…………暇だ」


 ローレンさんはまた一人ごちるのだった。



 放課後、昨日決まったメンバーと大体の活動方針をアリステラ先生に伝えると、意外なことにすぐに特別棟の自分達の部室となる部屋に案内された。

 どうやら、僕が先生に伝えにいった時から、先生が先に手続きをしていてくれたらしい。


「じゃあ、私はまだ仕事が残っているから、教員室に戻っている。活動が終わったら教員室に鍵を返しに来てくれ」


「はい、ありがとうございました」


 僕は先生を見送った後、再び部屋を見渡す。

 まず、初めに目に映るのは中央に置かれた長テーブルとそれを囲うように置かれた椅子六つだ。


 僕達から見て右側には小さな黒板があり、左側には六つのロッカーがある。

 向かって正面にはカーテンに隠された窓が見て取れた。


 そして、それら全てを総じて言えるのは、


「きったねぇ部屋だなぁ」


 埃っぽい空気を払うように手を振りながら、ローレンさんはそう言った。


「ですね。とりあえず掃除から始めましょうか」


 僕はカーテンを端で纏めて、窓を開ける。

 外からは涼しい風が吹き込んできて、それがとても心地良かった。


「ここに掃除用具があるみたいだから使わせてもらいましょう」


 イリナはロッカーからバケツと雑巾数枚を取り出した。


「じゃあ、イリナはバケツに水を汲んできて。僕達はその間に掃き掃除をやってるから」


「了解」


 イリナが水道に向かったのを見届けて、僕はロッカーから箒を三本取り出した。


「じゃあ、二人もやってくださいね。これが終わったら水拭きと乾拭きですから、さっさと終わらせますよ」


「はい、了解です」


「分かったぜ」


 しかし、今まで違和感がなかったが、ローレンさんは昨日程サータリーファルさんを怖がっている様子がない。

 少し慣れたということだろうから、良い傾向と言えるだろう。

 あんなギクシャクした感じで活動されようものなら、こちらもやりにくくてしょうがない。


 小さい部屋ということと、三人でやったということもあって、掃き掃除はイリナが帰ってくる前に終わってしまった。


 箒で集めたゴミを塵取りを使って、ゴミ箱に入れた、ちょうどその時、イリナがバケツに水を汲んで帰ってきた。


「水汲むのって面倒臭いわね。水道が遠いから往復はしたくないわ」


「そ、そうならないように善処します」


 流れで掃除の指揮みたいなものを執っている僕だったが、イリナの無言の圧力には負けてしまった。


 気を取り直して、僕は皆に水拭きをお願いした。

 僕が窓周辺、イリナが黒板周辺、ローレンさんがテーブル周辺、サータリーファルさんがロッカー周辺といった具合だ。


 まぁ、ここでも性格が如実に出てきた。

 僕とサータリーファルさんはかなり丁寧だったが、イリナとローレンさんは何というか、雑だった。


 床を含めた水拭きを三十分程で終えると、次は乾拭きに移った。

 乾拭きは十分もかからずに終了し、部屋は普通に使える程にはなったと言えるぐらいには綺麗になった。


「ふぅ、少し疲れたな」


 ローレンさんはそう言って、椅子にどっしりと座る。


「そうですね。少し休みましょうか」


 僕もローレンさんに続いて、席についた。

 そのまま全員が席についた時、僕はあることを思い出した。


「ローレンさん、僕達の活動内容からして、活動内容を周りに知ってもらう為の貼り紙みたいな物が必要になってくると思うんですけど、どう思います?」


「ああ、確かにそうだな。適当に何か作るか」


 そう言ってローレンさんはロッカーから白紙を取り出す。


「そんなのあったんですか?」


「おう、別に汚れてないし、このまま使ってもいいだろ」


「でもアンタ、適当に作るったってどんな感じにするのよ?」


「……まぁ、そういうのは良く分からんから、お前に任せる」


 ローレンさんは案があるわけではないようで、紙をあっさりとイリナに渡した。


「え、ちょ、私も良く分かんないわよ。レイラちゃん何か考えある?」


 イリナも案があったわけではないようで、すぐにサータリーファルさんに話を振った。


「そうですね……ここはシンプルに『あなたの依頼、何でも解決します』みたいな感じでいいんじゃないですか?」


「確かに最初はシンプルでもいいかもね。これで何も依頼が来ないようだったら、変えれば良いだけだし」


 僕はサータリーファルさんのアイデアに便乗する。

 僕はこういうセンスが全くないから、話を振られても困るのだ。


「まぁ、そうだな。それで行こう」


 そう言うと同時にローレンさんは紙をイリナから奪い取り、紙にそれらしいものを書いていく。


 内容はこうだ。


『あなたの依頼、何でも解決します。解決部』


「流石にこれはシンプル過ぎじゃないですか?部室がどこにあるのかぐらいは載せておかないとまずいですって」


 これでは依頼をしようにも、どこに言いに行けばいいのか分からない。


「む、確かにそうだな。書き加えておく。他には何かないか?」


 ローレンさんは紙に書き加えながらそう言う。


「その解決部ってのが少し地味じゃないですか?もっと他の気の利いた名前ってないんですか?」


「そ、そうすっか?何か代案出してくれると嬉しいんですけど……」


 ローレンさんは途端に頭を低くしてそう言った。

 やはり、まだ完全に抜け切っているわけではないようだ。


「そうですね……『よろず部』なんてのはどうでしょう?」


 サータリーファルさんは顎に手を当てて考えるような仕草をしてから、名案を思いついたような明るい顔をして言った。


「それもなんか地味じゃないすか?」


 瞬間、サータリーファルさんの鋭い眼光がローレンさんに飛んでいく。


「……何でもないです」


 ローレンさんは一瞬で調伏されてしまった。


「私は『よろず部』賛成ね。解決部よりは面白いと思うわ」


「そうですね。僕もいいと思います」


 自分に良い案があるわけでもなく、特に反対する理由もないので、僕もイリナに続いて賛成する。


「じゃあ、名称は『よろず部』ということで。よろしくお願いしますね、ローレン」


「は、はい、書き換えときます」


 完成した紙を見て僕は存外形になっていることに若干驚いた。

 そして、ローレンさんの字が意外と上手いことに気づいた。掃除は雑でも字は上手いらしい。


「それで完成でいいんじゃない?結構良い感じじゃない」


「じゃあ、これを掲示するってことでいいか?」


「はい、良いと思います」


「私もそれで良いです」


「よし、じゃあ、今日の活動はこれで終わりにして、帰るついでに教員室前の掲示板に貼ってくる」


 全員の了承が取れたところで、ローレンさんはそう締めくくった。

 外を見ると、いつの間にか日が落ち始めていた。

 確かに帰るには良い時間である。


「後は俺がやっておくから、皆は先に帰ってくれ」


 殆どサータリーファルさんに頭の上がらないローレンさんであるが、部長としての意地はあるようで、最後の施錠と鍵の返却はやってくれるらしい。


 僕達はありがたくローレンさんに仕事を任せ、各々帰路に着くのだった。

 本作をお読み頂きありがとうございます。


 作者から二つお願いがございます。

 ずばり、ブクマ登録と評価です!!

 何卒、よろしくお願い致します。


 感想、質問なども、どしどしお寄せください。

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